第22話「透の長い1日」
ある日の夜、透宛に朱音さんがグループにトークを送っていた。2人の会話なら個人で話してくれと思うのが正直なところだが見ていると微笑ましくなってしまう。
『透くんいきなりだけど明日って空いてるー?』
『空いてるけどそういうのは個人で連絡するだろw』
『あれ?間違えちゃったごめん!』
『私たちも見てるんだぞーw
なんならここで誘っちゃいなよw」
未紗ちゃんは朱音さんをからかいながらも後押しをしようとしている。そういえば朱音さんは肝心な時に押せないと未紗ちゃんが言ってた気がする。透も相手からアタックされるのは多いけど自分からはあまりアタックはしないから見ているとやきもきしてしまう。
『明日もしよかったら1日時間欲しいんだ!
大丈夫かな?』
『まぁ別にいいけど』
『ありがとー!詳しくは個人行く!』
朱音さんは透に個人トークを送りにいった。未紗ちゃんも見たい映画を見ると言っていなくなった。1人でトークを見返して思う、随分とあれからやり取りしてきたなと。そしてこれからもたくさん増えていくんだろうなって。まずはがんばれ朱音さん、アドバイス通りにすればきっと上手くいくから。
話は数日前に遡る。バイトが終わった後に携帯を確認すると朱音さんから個人でトークが送られていたことに気づいた。
『ごめん今バイト終わった。』
『そかそか、お疲れ様!』
『ありがと、それでどしたの?』
おれに送ってくるとしたら未紗ちゃんか透に関してだと思ったおれは確認をとる。そしたら朱音さんはすぐに既読をつけて返信を送り続けてきた。
『聞きたいことあって、透くんって誕生日いつ?』
『誕生日?7月23日だよ。』
『え、もうすぐじゃん!プレゼントまだ買ってないよー』
『あいつ誕生日教えてなかったんだ。
誕生日は多分予定特にないと思うから誘ってみれば?』
『だよね、今プラン考えてたんだー。好きな料理とか。』
『なるほどね、プレゼントはワイヤレスイヤホンとかいいんじゃね?あいつ欲しがってたから。手頃のやつでもいくつかあれば一日持つからって。
あとあいつは和食好きだよ。』
『わかった!ありがと!』
全く透のやつはと思いながらもトークを見ながら家に向けて歩いていた。でもそうか、もうすぐくっつきそうだなといろいろと考えていた。おれと未紗ちゃんもきっとそろそろいい感じになれるかなと内心期待に満ち溢れている。
そんなこともあり、透の誕生日が一体どんな風に過ごすのか想像しながら寝る支度を済ませていく。暑いから基本的にはパンツ姿で寝るのが習慣になっている。話を聞くのが楽しみだ。
ーーーーーー
『ごめん待ったー?』
『いや、今来たとこだよ。』
『そかそか。透くん、誕生日おめでと!』
『ありがと、今日はおれのためにいろいろと考えてくれた感じで嬉しいよ。』
今日は朱音ちゃんがおれの誕生日に祝ってくれるということでお言葉に甘えて楽しむことにした。夕方頃からとは言え日中はもう完全に猛暑だ。
今日は都心から少し離れたお店だとのこと、和食のお店を予約してくれた。実はおれの実家は150年以上の歴史がある呉服店の家系でよく両親の付き添いで京都だったりの料亭に食べにいったりしていたから小さい時から和食が好きだった。
『てかよく和食好きって知ってたね、陸から聞いたの?』
『そうだよ!陸くんからどんな料理が好きか聞いてね!』
『そかそか、あとで陸にも感謝しないとな。』
おれはさりげなく朱音ちゃんを日陰側へと誘導していく。女の子にはこの暑さはほんとに堪えるから少しでも楽できるようにしていきたい。
『ご飯はまだ少し早いからまずはショッピングモールに行こ、プレゼント予約してあるんだ!』
『そうなんだ!じゃ疲れないように早めに行こ!』
プレゼントを予約してくれてるとは思わなかった。朱音ちゃんはもっとめんどくさがり屋で粗暴な人だと思っていたから意外だった。
『向かうのは電気屋?』
『そそ、何なのかはお楽しみだよ!』
ショッピングモールの中はとても涼しく、多少かいていた汗が一気に引いていく。制汗剤をかけているから臭いはしないと思うけど念の為に臭いを消すスプレーなどをかけてエチケットを欠かさないようにしていく。
朱音ちゃんも汗をかいているようでハンカチで汗を軽く拭いている。でも今日付けているフレグランスはすごくいい匂いでエスカレーターで先に行かせて後ろにいるとうっとりしてしまう。
電気屋に着いて向かったのは有名メーカーのあるコーナーだ。ゲーム機などを出しているメーカーで電気製品と言えば必ず名前が挙がるほど有名だ。
「すみません、イヤホンの注文予約していた倉科です。」
朱音ちゃんはイヤホンをプレゼントにしようと...って待て!ここのイヤホンは一個数万するんだぞ!?
「こちらですね、お支払いはすでに済んでおりますので商品をお渡し致します。」
プレゼントの箱にイヤホンが入っているとは、早速開けたいが朱音ちゃんに止められた。お店で開けて欲しいとのことだった。下の階で軽くソフトクリームを買いに行くことになった。おれはバニラ、朱音ちゃんはいちご味を食べる。
「一口ちょうだい!」
突然言ってきたけどわざとからかうことにする。
「一口ってスプーンとかないんだよ?w」
「え、こうするw」
朱音ちゃんはにやけながらなんとおれのバニラ味のソフトクリーム本体にかぶりついた。これじゃ完全に間接キスになる。さては狙ったな?まぁ別に特に問題はないんだけどね。気にせず普通に食べていく。
「はい!」
朱音ちゃんはいちご味を逆に差し出してきた。ここでしなきゃノリ悪く見られるからな。おれも思いっきりかぶりついた。かぶりついた量が多すぎて頭がキーンとなってしまった。
「あははははw
透くんがっつきすぎだってw」
どうやら頭を抱えているのがツボにハマってしまったらしく、しばらく笑いこけていた朱音ちゃんだった。
ある程度時間をつぶしたおれたちはいよいよ和食料理店に向かった。ある程度立派なお店を予約していたようで外観はまるで京都の街並みに並んでも見劣りしないような立派な建物だ。そして中に入ると正に畳の匂いが漂う。この匂いは実家に帰ってきたかのように錯覚してしまう。
「すみません、本日予約しております倉科ですが...」
「倉科様ですね、お待ちしておりました。
こちらのお部屋にご案内致します。」
そうして案内された部屋は、まるでドラマや映画で政治家などが取引や会合を開くような立派な和室だった。縁側からはなんと池などが見える。そうなるとプレゼントと合わせてそこそこ今回お金を使ってるんじゃないかと少し心配してしまう。
「ねぇ、ここそこそこするんじゃないの。大丈夫かよ?」
「大丈夫だよ!もう支払ってるから!」
「いやそうじゃなくておれの誕生日にお金使いすぎたら生活大変になるんじゃないかなって。」
「バイトで貯めたお金を使ってるんだよ?
何に使おうが私の自由なんだから、今日は楽しも!」
こうしておれたちは料理を楽しむことになった。
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