10月 暗闇を照らして。
――ピーンポーン
陽谷、と書かれた表札を見ながら、心から願った。
お願いだから、ドアを開けて……。
そんな私の願いが通じたのか、ガチャッとドアが開かれた。
「悠、さん」
「……羽菜」
とっても驚いているのがわかった。
「とりあえず、中入れ」
困ったように言った悠さんの顔は……とても悲しげだった。
「最近、来てないですよね。何かあったんですか」
「……」
「私じゃ、話せないですか?私じゃ、頼りないですか?」
「……そんなこと……」
「一人で抱え込まないでください……お願いだから」
しばらくの沈黙の後、悠さんが口を開く。
それは、想像していたよりももっと、衝撃的な言葉だった。
「死んだらどうなるんだろう」
え……。
「明日の朝、目を覚まさないまま死んでたらいいのにって、毎日思った。でも、毎日目を覚ますと生きてるんだって、がっかりした」
なんで。なんで。
ここまで追い詰められていた悠さんに気付くことができなかったんだろう。
あの、悲しげな瞳を何度も見てきたはずなのに。
「俺が死んだって、悲しむ人はいな――」
「そんな自分を否定するようなこと、言わないでください!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「お願いだから、そんなこと、言わないで、ください――」
私の頬に、温かいものが伝った。
悠さんの顔を見ると、驚いたような顔をしていた。
その顔に向かって私は今できる精いっぱいの笑顔を浮かべる。
「みんな、あなたがいなくなったら悲しみます。私だってそうです。私はあなたを必要としています」
悠さんの瞳から一筋の涙が伝った。
何に対しての涙かは分からない。
でも……きっともう、私の力は必要ない。
――大事なものに、やっと気付けたみたいだから……。
私にあなたは救えましたか?
自分をもっと大事にして。
そう言いたかったけど、それまでの君は、それができないほどに弱っていたんだね。
気付けなくてごめんなさい。
生きていてくれて、ありがとう。
これは、悠さんへ向けた、私の精いっぱいの想いだ。
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