第36話 未完の太陽

 ネベルはコロニー〈サキエル〉に戻って来た。


「あっネベル! おかえり! モンスター退治は終わったんだね」


「……ああ」


「あれ、なんかあった?」


「……別にない」


「ふーん、そう」


 そう言うとピクシーは砂浜に戻りネベルの旅道具が入った革袋の中に身をうずめた。長距離を移動する旅の間は、だいたいピクシーはこの革袋の中で過ごしているのだ。


 続いてコロニーの使長たちがネベルを出迎えた。


「おお、不可視の獣さま。この度は誠にありがとうございました。あなたさまのおかげであの娘も精力を取り戻したようです。このお礼はいつか必ず致します」


「いや、いい。俺ひとりの力で倒したわけじゃなかったから……」


「え? …………いいえ、そういう訳にもいきません。今は無理ですが、お礼は必ず用意いたします」


「ム……そこまで言うなら分かったよ。そのうち取りに来る」


「はい!」


 ネベルはコロニー〈サキエル〉を旅立った。


 彼らに充分な支払い能力があるとも思えない。回収を約束したが、もうこのコロニーに立ち寄ることはないだろう。



 その夜、ネベルたちは森の中で野宿をした。

 薪の火を囲みながら、ネベルとピクシーはコロニーで貰った新鮮な魚にかぶりついた。


 すると突然、ピクシーはこんな事を尋ねて来た。


「ねえねえ、ネベルってさ。なんでずっと旅してるの?」


「いきなりどうしたんだ。まさか〈サキエル〉に戻りたいとか言うつもりか?」


「ううん、違うって! 私はネベルとの旅好きだよ。面白いし! でもさ、不思議じゃん。今まで色んな所に行ったけど、ネベルみたいにあちこちを周ってるダイバーなんて他にいなかったよ」


「……ああ、そうだな」


 するとネベルは焼き魚から手を離すと、木に立てかけていた大型刀剣エクリプスに持ち替えた。


「これはエクリプス。俺の相棒さ」


「うん、知ってるよ。ネベルが組み立てたんだよね」


「ああ。父さんの電子端末に設計図のデータがあってさ。でも設計図のままだと持ち運べなかったから、ドワーフの鍛冶職人と一緒に剣として組み立てたのさ」


「ふーん。ねえねえ、ネベルも強いけどさっ この剣もすっごい強くない? 普通じゃあないよね」


「ああ。……だが、コイツはまだ未完成なんだ」


「え? これで?」


 エクリプスはこれまで冒険の過程で、様々なレリックによる改造が施されてきた。変形機構も最初からあったものではない。それらは全てエクリプスの真の力を最大に引き出すための物だ。

 そしていずれの形態も未だネベルの理想とする完成形では無かった。


「俺はコイツを完成させたいんだ。そのためにはもっと強力なパーツが必要なんだ……」


 エクリプスの刃には薪木の炎が陽炎のように揺らめき映っていた。


 ネベルは再び近くの木にエクリプスを立てかけた。


「ふーん、つまり宝探しって事か! ふむふむ、それって楽しそうじゃんっ!」


「フッ まあそうだな」


 話を聞いたピクシーは目を輝かせていた。面白いもの大好き妖精にとっては、大冒険や宝探しなどのこの手の話は大好物なのだ。


「やっぱり私、君についてきて正解だったよ!」


「そうか……でもいいのか?これからはもっと危険な場所にも行くかもしれない」


「フッフッフッ 冒険には多少の危険はつきものでしょ」


 そう言うとピクシーは思いっきり魚にかぶりついた。


「……そうだな」


 ネベルも同じようにニヤリ小さな笑みを浮かべると、一緒に焼き魚を頬張った。



 翌朝、ネベルは薪木の後始末をしながらピクシーにこう告げた。


「ピクシー。次は〈ダイバーシティ〉ってコロニーに行こうと思ってる」


「〈ダイバーシティ〉? なんか変な名前のコロニーだね」


「ああ、〈ダイバーシティ〉は他とはちょっと違うんだ。ダイバー達が作ったコロニーらしい。そこならレアなレリックの情報も手に入ると思うんだ」


「ふーん、いいんじゃない。 じゃあ、早速いこー!」


 ピクシーはそう言うと、元気よくネベルの革袋の中へと飛び込んだ。


「はあ、……少しはお前も歩け」


「ええ~ めんどいよー。ねえ、そこってどれくらい遠いの?」


「さあな? まあ、半年はかからないと思う」


「は、半年ぃ!?」


 バタンキュー~


 それを聞いたピクシーは地面に突っ伏したまま動かなくなってしまった。


「ねえねえ、やっぱりもっと近いところにしよ」


「はあ、やれやれ」

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