元最強の魔導師は転生して人生を謳歌する
@fubki-san
第1話 最強でも寿命には勝てんよ...?
「あぁ...痛ってえ...ゴホッ!!」
口から血が出てくる。
それは俺の寿命が刻一刻と近づいてきていることを示唆しているのと変わらなかった。
「ちょっとお腹空いたな...何か食べるものは...」
そう言って俺はベッドから起き上がって食べ物を探しに行こうとするものの、体が言うことを聞かず、立った直後に体制を崩してしまう。
「きっつ...もうそろそろ限界かもしんねえな...」
最後の力を振り絞ってベッドへ自分の体を持っていく。
「はぁ...シルファは元気にしてるかな...」
ふと、頭にある少女の姿が思い浮かんでくる。
「あいつ...王都に行ったっきり会ってねえな...」
シルファは、俺が勇者パーティーに所属している時に取ったただ一人の弟子であり、彼女と出会ったきっかけは、俺達が魔王を倒した後に、俺の元に弟子になりたいと直談判しに来た事で出会った。
最初は俺も冗談だと思って話を全く聞いていなかったものの、日を重ねるにつれて、彼女の本気を感じ、弟子に取ることにした。
「俺の弟子になったからには色々と厳しいぞ?」
そう言ったが、シルファは「大丈夫です、なんでもやります!」と言い、俺が出した課題をどんどんとこなして行った。
そして弟子に取ってから数年が経ち、シルファも日々鍛錬に励んでいる時、ある事を俺に言った。
「お師匠様、一つよろしいですか?」
「ん?どうした?」
「私に...王都の魔法学校に行く事を許可してくださいませんでしょうか...?」
「王都の魔法学校...?ああ...あの最近出来たやつか?」
「そ、そうです...」
「うーん...別に良いんじゃない?」
「え...?い、良いんですか?」
「え?ダメだと思ったの?」
「そ、そんな事無いですけど...」
「あのなシルファ?お前は俺が弟子の門出を拒否するような小さい男だと思ってたのか?」
「い、いえ...そんなことは...」
「じゃあ行けよ?」
「は、はい!分かりました!」
それからのシルファの鍛錬具合は凄まじく、いつもの鍛錬に加えて色々やる様になって行った。
このままでは王都に行く前に倒れてしまうのではないかと思った俺は、休憩していたシルファを呼び出した。
「シルファ、少し良いか?」
「はい!何でしょうかお師匠様!」
ウキウキで俺の方にシルファは向かってくるが、その姿からは隠し切れないほどの疲労が見える。
「お前...少し休め!分かったな?」
「え?い、嫌です!もうそろそろ王都へ行くというのに鍛錬を怠っては!」
「その鍛錬で倒れたら王都すら行けねえぞ!それを分かってるのか?」
「わ、分かってますけど...」
「じゃあ休め!隠れて鍛錬なんかしてたら王都なんざ行かせねえからな!」
「はい...」
そう言われたシルファは俯きながら部屋へと戻っていってしまい、王都に行く日まで出てくる事はなかった。
そして王都に行く日となり、久しぶりに見たシルファは酷く痩せこけていて、俺が最後に見たシルファとは全く違う姿になっていた。
「シルファ...大丈夫か...?」
「は、はい、大丈夫です...!なので...ご心配なく...んっ...!?」
俺はシルファの発言を遮って、シルファを抱きしめた。
「え...?お、お師匠様...!何してるんですか...!?」
「何してるって...俺の元から離れる弟子を抱きしめてるだけだが?」
「そんな当たり前のように言われても...」
「ま、お前が嫌ならやんないけど...」
「い、嫌なんて言ってないじゃないですか!もっと抱きしめてください!」
そうシルファが言ったので抱きしめ続けた。
「おい...もう何分やってんだ?」
「もっと!もっとしたいです!」
もっとと言われても、もう遅刻レベルで時間が押している為、流石に無理だったので、引き剥がしてからシルファに言う。
「つ、続きは王都から帰ってきたらだ!」
そう言ったらシルファは数秒俯いてから俺に言う。
「ほんとですか...?本当に帰ってきたらもっとぎゅーってしてもいいんですか?」
「お、おうよ!帰ってきたらもっとやってやるよ!」
「...言いましたからね!お師匠様!」
「う、うん!」
そしてシルファは先程の調子とは打って変わって元気に王都行きの馬車に荷物を持って乗っていった。
「じゃあなー!シルファー!」
「お師匠様ー!!さようならー!!」
それから遠くに行くまでシルファに手を振り続け、俺は家に戻った。
というのがシルファとの出会いと別れである。
「あれからもう5年か...懐かしいな...ゴフッ!!」
目が霞み、体の感覚が無くなっていく...。
辛うじて首を動かすものの、体やベッドにはもう有り得ないくらいの血が染み付いている。
「もうそろそろ俺もご臨終かい...良い人生だったな...」
そう言い残して俺は目を閉じた。
そして...
「ん...?ここは...?」
目が覚めて起き上がると、そこは豪華絢爛な部屋で、至る所が金ピカに光っている。
そして俺が立ち上がった瞬間、金ピカの扉から誰かが入ってきた。
「あ!起きたんですね!」
「ん...?君は...誰だ?」
俺の目の前にいる人物は、もはや人と呼んでいいかも分からないような人物だが、かと言って化け物と呼ぶにはあまりにも人過ぎる人物だった。
後身長は俺と同じくらいで、明らかに男性ではなかった。
そして目の前の人物の正体を考えている内に相手から俺に話しかけてきた。
「す、すいません!」
「ん?なんだい?」
「あ、何か考えてらっしゃいましたか?」
「いや...なんでもないけど...一つだけ聞いていいか?」
「は、はい!何でしょうか!」
「君の名前は...なんだい?」
何かナンパっぽくなったけど大丈夫だろうか...
そう考えている時、彼女?が答えてくれた。
「わ、私の名前はエリルガルって言います!」
「は...?エリルガル?ほ、本当にエリルガル様なんですか...!?」
「は、はい!」
何を言っているか分からないと思うので説明すると、俺がいた世界ではある一人の神が信仰されている。
その神の名前がエリルガル様であり、俺の国では信仰はされているものの、あんまり信仰は深くない。
だが遠い北の国では国民の9割以上がエリルガル様を信仰しているという。
「こんな所で会えるとは...」
「え!?そんなに私有名なんですか!?」
何と本人がその事実を知らない事に驚いた俺は先程のエリルガル様の説明を本人にした。
「え!そんなことになってるんですか...」
「あ、そういえばここって何処なんですか...?」
「ここですか?ここは...あの世ですよ?」
「え?」
「え?」
「俺死んじゃったんですか?」
「は、はい!」
「マジか...」
ここがあの世という衝撃で項垂れている俺にエリルガル様が話しかけてくる。
「ち、ちょっといいですか?」
「え?ど、どうされました?」
「私...女神の役職の中でも天国に来た方々に転生をするかを聞いて、今後の道を選ばせるという役職なんですけど...」
それを聞いた瞬間、俺はエリルガル様に飛びついた。
「俺転生できるんですか!?」
「え!?は、はい!」
「是非!お願いします!」
「わ、分かりました!じゃあ転生する国を選んでください!」
そして俺は前世の俺がいた国を指定した。
「お、オッケーです!では行ってらっしゃいませ!」
「ありがとうございますエリルガル様!この恩は一生忘れません!!」
「あ!ちょっとま...!」
「え?な、何か言って...うお!?」
エリルガル様が何か言いかけたが、目の前に出てきた扉に吸い込まれた俺はエリルガル様が最後に言った言葉は聞こえなかった...。
「んっ...ここは...」
そして目が覚めて起き上がると、俺は知らない部屋のベッドに寝かされていた。
「何だこのベッド...とりあえずカーテン開けよ...まっぶし!」
勢いよくカーテンを開けた瞬間、俺の目に直射日光がクリティカルヒットし、俺の目が逝った。
「これは開けたらいけない、俺の目をまだ殺したくない...」
そう言った瞬間、後ろにある扉から誰かが入ってきた。
「カーリスちゃーん!!パパですよ〜!!」
「あ!?」
誰なのかは分かんなかったが、勢いよく俺に抱きついてくるので、改めて自分で自分を見てみると...
(何かちっちゃくなってる...!?後ちゃん付け...!?)
今の状況を理解するのに少し掛かったが、今の状況を並べてみると、
・転生した
・ちっさくなった
・知らん人に抱き着かれてる
・男なのにちゃん付け(正直どうでもいい)
この4つだ。
だがさっき抱きついてきた人が自分の事をパパと言っていた為この人は転生した俺の父親らしい、なので話しかけてみる事にする。
「お、お父様!急に抱きつかれると苦しいです!」
そう言うとお父様?は離れてくれた。
「ご、ごめんね!カリスちゃん!」
「い、いや大丈夫です!」
そんな話をしている時にお父様の後ろから人が飛び出してきた。
「ご主人様?あ、カリス様、起きてらっしゃいましたか?」
また知らない人が出てきたので反応が遅れてしまう。
「ご主人様!早くご飯を食べてください!今日はカリス様が王都へ向かう日ですよ!先に準備してますからね!」
「はいはい!分かってるよアレーム!」
ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだが?
俺が王都へ行く?この家初日なのにすぐ行くの?
後この人誰?
「さっきの女性誰なんですか...?」
「ん?あれはメイド長のアレーム、うちの家事をやってくれているメイトのトップ。後怖い...」
「怒らせたらどんくらい怖いんですか...?」
「ん?聞くの?」
「聞かないでおきます...」
「うん、賢明な判断だ。」
「そ、それで話を戻すんですけど僕王都に行くの?」
そう聞いたらお父様が答えてくれた。
「うん、前に王都に行った時に王様から、「各子爵、男爵、公爵、侯爵、伯爵家の嫡男は王都一の魔法学校に入学し、魔法の腕を磨くこと」ってお触れみたいなのが爵位を持ってる人物に出されたんだよね、だからカリスちゃんが王都に行く事になったんだ...ちなみに王都で一人暮らしだからね!」
王様...何してんねん...会ったら殴ったる。
ちなみに王様は多分...俺がいた時から変わってないだろう...
「一人暮らし...まあそれは良いとして、ちなみにうちはどの爵位なの?」
「ん?うちは公爵家だよ、僕のお父さん、カリスちゃんのおじいちゃんかな?その人がかなりの財を成していてね?それで公爵家にうちはなっているのさ。」
「そうなんだ...それでいつ王都に行くの?」
「カリスちゃんは...後数分後に行かないと遅刻でワンチャン首が飛ぶよ♡」
いやいやいや!!♡じゃねえだろ!早く行こうよ!何俺の方見てんだ!俺の首がかかってんだろ!?
そう思ったもののそんな事を真っ向に言えるわけないのでとりあえず急かす。
「は、早く行きましょうよ!」
「それもそうだけど...ご飯...食べないの?」
そう聞かれた瞬間に俺の腹が鳴る。
「やっぱりお腹すいてるんじゃん!ほらカリスちゃん!ご飯食べてから行くよ!」
と言われて俺はリビング?ダイニング?どれか分からないが大きいテーブルがある部屋へと連れていかれ、如何にも貴族の飯という感じの飯が出てきた。
そしてご飯を食べ終わってから服を着たりなどの準備をし、外にあった綺麗な馬車に乗り込んだ。
「馬車...乗るの初めて...」
そう呟くと、「カリスちゃんって乗ったこと無かったっけ?」と言われてしまう。
「ない気がする...」
「じゃあ初めての馬車だね!酔わないように気をつけてね!後遅刻だよ!」
「カリス様、元気でいてください...!」
「ありがとう!じゃあ...行ってきます!」
そう言って扉を閉めた瞬間、お父様が言ってた言葉が頭に出てきた。
「ん?「後遅刻だよ!」って...俺やばくね?」
とりあえず現実を見たら死にそうなので寝る事にした。
「カリス様!王都に着きましたよ!」と言う運転手の声で俺は起きた。
「あ...あ...?眠い...おはようございますぅ...」
「一応学校の前まで送るのでそこからは自分で行ってくださいね?」
そう言われた時に、ふと今がいつなのかを知りたくなり、運転手さんに聞いてみることにした。
「あ...はい、あの...一つ聞いてもいいですか...?」
「え?何ですか?」
「今って...いつなんですか?」
そう聞いたところ、運転手さんが答えた年は、前世の俺がいた時代より20年も先の時代だった。
「魔法ってどうなってんのかな...お父様もメイドさんもみんな使ってなかったし...」
そんな事を思ったものの、学校に着いた為後で考える事にした。
「運転手さん!ここまでありがとうございました!」
「いえいえ!これから頑張ってください!」
そう言い残して走り去っていった馬車を見てから、俺は学校へと向かう。
「デカイな...流石国一と言ったところだろうか...?」
そう言って学校を見上げてから俺は中へと入っていくのだった...
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