隣の席の美少女から「私が作ったクイズ全部解けたらご褒美あげる」と言われたので全部解いてみた結果

そらどり

隣の席の美少女から「私が作ったクイズ全部解けたらご褒美あげる」と言われたので全部解いてみた結果

「「ねえ風間かざま、クイズ作ってきたから解いてみない?」


 とある日の放課後のこと。 

 帰りのホームルームをようやく終え、さて帰ろうかと荷造りを始めていると、隣の席の女子生徒が含んだ笑みと共に話し掛けてきた。


 彼女の名前は霧島きりしま未央みお。肩まで伸ばしたミディアムヘアに加え、スレンダーな外見が特徴的な女子だ。

 隣の席ということもあって普段から話すのだが、淑やかな顔立ちや振舞いに反して少々おちゃらけた奴で、俺にとっては中身のない話で盛り上がれる唯一の異性でもある。


 まさに悪友みたいな俺達なのだが……今日はそんな彼女からいきなり挑戦状を叩きつけられた。いや、なんで? 

 

「え、何だよ急に」


「ちょっと、もう忘れたの? 先週、私が作った問題解いてみたいって言ったの風間でしょ?」


 あ、そういえばそんなこと言ったっけ。


 実を言うと霧島は、クイズ研究部の部長を務めている。

 問題制作が主な活動内容とのことで、先週も去年の文化祭で展示したという謎解きを見せてもらったのだが、書店で問題集として売られていても遜色ないクオリティで驚かされたのを覚えている。俺も動画配信サイトでクイズ系の動画をよく視聴しているので、実際かなり興味を惹かれた。


 で、確かその時に「そんなに興味あるなら特別に作ってあげよっか?」って言われたんだった。

 どうやら去年は難問に挑戦するコーナーもあったようで、「俺も解いてみたかったなー」と後悔交じりに口にしたところ、霧島が何気ない顔でそう提案してきた。


 まあ、俺としても願ってもないチャンスだったので喜んで首を縦に振ったが……あれから一週間経っても音沙汰なしだったので、完全に頭から抜け落ちていた訳である。


「あー悪い。すっかり忘れてた」


「もう、しっかりしてよ。せっかく風間のためにわざわざ作ってきてあげたんだから」


「いやでも、流石に一週間経ったら忘れるって。あんま詳しくないけど、作るのってそんなに時間が掛かるもんなのか?」


「え? あーそれはその、色々凝ってたらつい……ね」


 さっきまで口を尖らせていた霧島だったが、俺の純粋な問い掛けにはどうしてか語尾を濁して答える。

 なんかやけに歯切れが悪いなと思っていると、霧島は「こほん」と小さく咳をついた。


「とにかく。問題渡すからさ、このまま教室に残って解いてみせてよ。どうせこの後暇でしょ?」


「まあ暇だし別にいいけど……家に持ち帰って解いてくるのじゃダメか? もうみんな帰ったし、答え合わせくらい明日登校してからでもできるだろ?」


「今じゃなきゃだーめ。私はね、解き方が分からなくて悩み苦しんでる風間の顔を見るために頑張って作ってきたんだから」


「本当いい性格してるよお前は」


 隣に居るならせめてヒントくらい出してくれてもいいのに。無言で覗いてくるだけとかプレッシャーしかないんだが。

 この感じだと相当意地悪なひっかけ問題を作ってきたに違いなさそうだ。可愛い顔してエゲツないことしやがる……


「まあ、本当は違う理由なんだけどね……」


「ん? なんか言ったか?」


「ううん、なーんにも。ほら、これが問題ね」


「お、おう?」


 ボソッと何か言っていた気がしたが、そう言って首を横に振ると、霧島はカバンからクリアファイルを手に取り、そこから数枚の紙切れを差し出してきた。

 気のせいだったかと納得しつつ、受け取ってみれば全部で六枚。クロスワードに知識系、謎解き……とバラエティに富んだ構成で問題が印刷されている。もしやテンプレートから自作なのだろうか、思ってたより本格的だ。


「因みに、全問正解したらご褒美があります」


「え、マジっすか」


 まさかご褒美まで用意していたとは。おいおい、随分と気前がいいじゃないか霧島さんよ。


「その方がやる気も出るでしょ? まあ逆に、これで逃げ道が塞がれたとも言えるけど」


「解けなくたって言い訳なんかしねーよ。そんときは潔く負けを認めるから、安心して揶揄ってくれ」


「おっ、男らしい。それじゃ楽しみにしててね、嫌と言うほどバカにしてあげるから」


「うっせ。今に見てろよ、霧島の思惑通りになんか絶対させてやらねーからな」


 わざわざ煽ってやる気を出させてきたということは、作ってきた問題によほど自信ありということだろう。

 しかし、こっちだって最初から本気で全問正解してやるつもりなのだ。霧島よ、ニヤニヤ顔で挑発してきたことを後悔するんだな。


 そう心の中で既に勝ち誇った顔を浮かべると、俺は早速問題に取り掛かった。




◇◇◇




「よし、解き終わったぞ」


 窓の向こうがすっかり夕焼けに染まった頃合い。全ての問題を解き終えた俺は、答え合わせのために用紙を霧島に返した。


「うんうん……おっ、すごい。六問とも正解だ」


「まっ、俺が本気を出せばこんなもんよ」


 解答を見て霧島は驚きを口にするが、俺としては正直手応えしかなかった。

 確かに引っ掛け要素はあったのだが、普段からクイズ系ばかり観て目が肥えているのもあって、気をつければ取るに足らない程度だった。


 ただ、煽ってきた割には随分と易しい問題だった気がする。

 凝った問題を作ったと言っていたから相当難易度の高い問題がくるのかと身構えていただけに、ちょっと肩透かしを喰らった気分だ。


 それに、あまり悔しがっていない様子なのも少し引っかかる。

 勝負に勝って霧島の思惑を阻止できたはずなんだが……まあ、取り敢えずご褒美とやらを頂くとするか。


「で、ご褒美ってなんなんだ? 全問正解したから当然貰えるんだろ?」


「あーごめんね。風間にはまだ言ってなかったけど、実は最後にひとつだけ問題が残ってるんだ」


「え、まだあんの?」


「さっき風間が解いた問題の用紙の解答欄にオレンジ色のマスがあったでしょ? 最後はそこに書いた文字を並べ替えて正しいメッセージを作ってほしいの」

 

 なるほど、それが最終問題って訳か。

 未だに余裕な顔を崩さないなと不思議に思っていたが、まだ問題が残していたからということらしい。


 確かにどの答案にもオレンジ色の枠があったが、どれも問題に関係なかったので単なるデザインかと勝手に納得していた。

 まさか最終問題への伏線だったとは。面白いギミックだと思った。


 とはいえ、やはり問題が簡単過ぎる。

 オレンジ色の枠内に書かれている六文字を抜き出せば、『な』、『す』、『A』、『ガ』、『』、『た』。最後なのにこれを並べ替えるだけって……


「……まあ、ここまで来たら最後まで付き合うけどさ」


 そう口にし、俺は気を取り直して最後の問題に取り掛かる。


 こういうタイプの問題を解くときは文字の表記を統一した方が解きやすくなる。

 ということで、アルファベットと漢字を平仮名に変換し、ある程度目星を付けながら解読を進める。すると……

 

「『あ』、『な』、『た』、『が』、『す』、『き』……?」


 告白みたいなメッセージが出来上がった。

 あれ? もしかして途中で並べ方間違えた? いやでもこれ以外思いつかないし……え、どういうことだ?


「な、なあ霧島、これって……」


 訳が分からず、俺は戸惑いを露わに霧島の方に目を向ける。

 しかし、その顔は明らかに赤い。平気な表情は依然として保てているものの、口元を両手で隠しながら目を微妙に逸らしていて、こんなに恥じらう彼女は今まで見たことがなかった。


「えっと、霧島?」


「あぁー……うん……えぇっと、それで全問正解です。よく出来ました」


「いや、よく出来ましたじゃなくて。このメッセージって……」


「わ、わざわざ言わせるつもり? 流石にこの辺で察してほしいんですけど……」


 語尾に向かうにつれて口元をゴニョゴニョさせながら、ますます顔を上気させる霧島。

 その様子を見て、ようやく俺はその意味を飲み込む。途端、ブワッと身体が熱くなった。


「おまっ、なんつー回りくどい告白してきてんだよ……」


「だってだって、普段から友達で接しておいて今更真面目にとか恥ずかしいし。なんか照れくさくて」


「だからって、他にもっとやりようはあっただろうに」


「し、仕方ないじゃん! 私なりに色々頑張ってみた結果なんだから許してよ……」


 色々頑張ってみた、というのは、問題制作だけを言っている訳ではないのだろう。


 今にして思えば、今日の霧島の様子には少し不可解な点があった。俺を教室に留めてその場で解かせようとしたり、やけに煽ってこちらのやる気を刺激してきたり。

 でもそれらは全て、この告白を成立させるための建前だったのだろう。普段と言動が同じだっただけに全く気づけなかったが、結局俺は初めから彼女の手のひらで転がされていたらしい。


「あーじゃあ、もしかしてご褒美っていうのは……」


「うん。えっと、私と付き合える権利……的な感じ、です。はい」


 いや、自分で言っておいて照れるなよ。こっちまで照れるだろうが。


 しかしなんというか、ここまで思惑通りに事を進められるくせに最後の最後で恰好つけられないとは……本当に器用なんだか不器用なんだか分からない。てか、モジモジしてて可愛いな畜生。


(あーやばい……まともに顔見れねえ)


 今まで悪友として接してきたのに、霧島の色っぽい一面を知ってから動悸が収まらない。

 実を言えば俺も霧島に対して好意を抱いていたが、友達に向けるべき感情ではないとずっと隠し通してきた。まさかこんな形で両想いが発覚するとは思ってもみなかったよ……


「ねえ、そろそろ答え聞かせてよ。黙ってるとかズルい……」


「あ、ああ、悪い」


 それ以上の沈黙に堪えかねたらしい霧島の催促にハッとした俺は、謝意もほどほどに彼女へと向き直る。

 正直まだ動揺しているが、どんな形であれ告白されたからにはちゃんと応えるべきだろう。意を決すると、俺は緊張した面持ちのまま言う。


「うん、まあ、そういうことならその権利やらをいただこうかな。俺も霧島のこと好きだし」


「っ! ほ、本当?」


「ここで嘘ついてどうすんだよ。……その、割と昔から? お前といると結構楽しいし、悪い気はしないからさ」


「そうだったんだ……うん、なんか嬉しいかも」


 そう言って小さくはにかんだ表情を浮かべると、霧島は改めたように居直してから続ける。


「じゃあ今日から彼氏彼女としてよろしくお願いします、ということで」


「ああ、こちらこそよろしく……って、なんで畏まってんだ俺達?」


「ふふっ、確かに」


 二人して何やってんだと思うが、ずっと友達として接してきた相手と付き合うってのはどうも気恥ずかしい。

 いつか恋人らしく振る舞える日が来ればいいのだが……まあ、少しずつ慣れていけばいいか。


(しっかし、クイズがきっかけで霧島と付き合うことになるとは……)


 先週の俺に言っても信じないだろうな、なんて他人事のように思っていると、霧島に「ところで」と声を掛けられる。

 振り向いて見れば、彼女はいつぞやのように含んだ笑みを浮かべていた。


「私が風間を好きになった理由なんだけどさ……知りたくならない?」


「え? そりゃあもちろん知りたいけど……って、まさか」


「フフフ、実は他にも問題を作ってきてたんだ。どう? さっきとは比べ物にならないくらい難しいけど、解いてみる?」


 なるほど、どうしても知りたいなら全部解いて見せろと。


 いつの間に取り出したのか、新たに何枚もの問題用紙をひけらかしてくる霧島。その表情からして、今回は簡単に教える気はないらしい。

 つまりここからが彼女の本気という訳か……面白い。今度こそお前の思惑を阻止してやろうじゃねえか。


「いいだろう。その挑戦受けて立つ!」


 最後にそう宣言すると、俺は再び彼女の作った問題を解きに掛かるのであった。 

 

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