第30話 大地が弾んでヤマタノオロチ

「オロチのこと言ってなかったのによく助けに来てくれたな」


 俺がそう言うとソラは疑問符を浮かべたまま、


「何の話じゃ? わしはおぬしが気を失って……いや、なんでもない。普通に朝じゃから起きただけじゃ」


 ソラは話をそらすように東に向かって指をさす。

 確かに東の空がぼんやりと明るくなってきている。


「それよりもあのデカいのはなんじゃ。どっかの金持ちの家から逃げ出した行方不明のペットか?」

「あんな化け物を飼うやつがいるか。あいつはヤマタノオロチだ。覚えてないか?」


 ソラはうーむ、と一度うなると、


「あー、ヤマタノオロチか。確かスサノオが格好つけたはいいものの封印するのが精いっぱいだったやつじゃろ?」


 ご名答。


「じゃがなぜやつが今ここに?」

「お前みたいな力の強い神が目覚めたからそれにつられて起きたって萌えの神様が言ってた」


 俺は萌えの神様の方向に目を向ける。

 そこには炎から助かったことに気づき、念願の金メダルを手にしたスポーツ選手とそのコーチのように歓喜の涙を流している萌えの神様と筋肉の神様がいた。


「まあ、わしほどの神ならそういうことがあってもやむなしじゃな。それよりもあやつはどうするんじゃ」

「スサノオがいうにはもう一回封印するしかないらしいんだが、こっちは見ての通り俺は戦えないし、スサノオも萌えの神様も筋肉の神様も満身創痍だ」

「ふむ。ならわしがそれに協力すればいいのかの?」

「そういうことだ。頼む」


 理解が早くて助かるな。


「全く、世話が焼けるやつばかりで困るのう」


 ソラはやれやれといった様子を見せたのち、


「じゃが、そうじゃな……協力する代わりといってはなんじゃが今週末、別のグルメイベントが開催されるようでの。それに付きあってもらおうかの」

「そんなんでいいのか?」

「そんなんがわしにとっては最高の時間なのじゃ!」


 日の出にも負けないほど眩しい笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう。助けてくれて」

「なんじゃそれ。なんか変なもんでも食うたか?」

「食うか。お前じゃあるまいし」

「わしでも食わんわ! このたわけが」


 いつものソラが戻ってきてくれた。

 ソラはそう茶化すが本当の感謝しかない。


「しかしそうと決まったならさっさとやるかのう。時間もないじゃろうし、あやつを封印しんことには街が壊滅してイベントどころではないからのう」


 ソラはオロチに向かって指を指す。

 オロチはすさまじい再生力で首をみるみるうちに回復させている。

 ソラの一撃に対してかなり腹を立てたのか「ヤマアアァァァ!!!」と怒りの滲んだ声で叫んでいる。


 その様子を見たソラは表情を険しくして、


「マズいの。このままではやつが完全回復してしまう。わしがオロチを引きつけておくからその間になんとかスサノオを起こしておれ!」


 引き止める間もなくソラは耳を貸すこともなくオロチ目掛けて一直線に飛んで行ってしまった。


 ソラとスサノオが協力してやっと封印できる怪物を一人でとはいくら何でも無理がある。

 俺はスサノオのもとへ行き、起きるように説得する。


「スサノオ、起きろ! ソラに協力してやってくれ。このままじゃマジでヤバいぞ!」

「今頃出しゃばってきやがって。あいつは今起きてきたばっかだから全快かもしれないけどな、俺はさっきので力を使いすぎたせいで起きるに起きられねえんだよ!」

「そこをなんとか!」

「無理だな。まあでも、メイド喫茶の愛情いっぱいハートケチャップオムライスを食べたらちょっとは回復するかもな」

「お前……こんな時にそんなこと言ってる場合か!?」

「うるせえ、いいからもってこい!」


 スサノオは思った以上に力を使いすぎているようで、口だけは動かしているものの体を動かせないらしく仰向けに寝転がったままそう言ってきた。

 しかも大嫌いなソラのことだからこんな非常時にも関わらず小学生みたいな悪態をついてきやがる。


 遠くではソラとオロチがバチバチにやり合っているが、いつまでもつか分からない。


 俺はそんなスサノオを無理やりにでも起こすべく、園児のように泣きじゃくっている萌えの神様と筋肉の神様のもとへ駆け寄る。


 近くに行くと萌えの神様と筋肉の神様が抱きついてきた。


「あ、ふ、福井さん! よかった、よかったです~! 私たち助かったんですね、生きてるんですね! ソラテラスさんのおかげです!」

「ありがとうございます! 福井さんのソラテラスさんへの思いが通じたんですね! 僕、感動しました!」


 華奢な体と筋骨隆々な体の板挟みになりながら二人をなだめて言う。


「でもお二人とも、まだ戦いは終わってないですよ。時間稼ぎができたとはいえオロチは封印できていませんし、もしできなかったらまた同じことの繰り返しになってしまいます。ソラも来ましたしこれで条件はそろいました。ここが正念場です。絶対にオロチを封印してライブとお茶会しましょう!」


 二人は涙目になりながらもこくりと頷いたが、萌えの神様が申し訳なさそうに言う。


「で、でも私が力になれる事なんてもうなにも……私は皆さんのように戦うこともできませんし……」


 それは違います、萌えの神様。

 あなたはあなたにしかない武器を持っている。

 それを今、使う時です!


「萌えの神様。一つお願いがありまして、お願いできますか?」


 俺は萌えの神様に作戦を伝える。


「え、でも私そっち系じゃない――」

「それしかありません。筋肉の神様もそう思いませんか」


 目で筋肉の神様に援護を求める。

 俺だけじゃなく仲のいい人の意見もあれば押しに弱そうな萌えの神様はきっと落ちる。


 一瞬戸惑いの表情を浮かべた筋肉の神様であったが、


「そうですね。福井さんのいうとおりもうやるしかないです! 萌えの神様ならきっとできます!」

「筋肉の神様がそういうなら……分かりました。やります! やってやりますとも!」


 これで準備は万端だ。


 萌えの神様はずんずんと足取りで寝っ転がったままのスサノオの方に向かって歩いていく。


「あれ、ユニ子ちゃん? どうしたの? 何かあった――」

「こらぁぁ!」


 この上なく怒り慣れしていないらしい声がスサノオに降りかかる。

 ユニ子に怒鳴られると思ってなかったのか、スサノオは硬直する。


「ど、どうしたの? そんなに怒って……」

「みんなで一緒に頑張らないといけないときに一緒に頑張ろうとしない子はどこですか!? あなたですか? あなたですね!」

「……え?」

「でも大丈夫です! そんな元気のない子でもあっという間に元気いっぱいにしてあげます。見ててくださいね」


 萌えの神様は大きく深呼吸をしてから言い放った。


「みんなと一緒にがんばらない子は、めっ! でもそんなキミが元気いっぱいになるおまじないをかけてあげる! いくよー? せーのっ、疲労と激痛さん、さようなら! げんきになぁーれ、それ、ずっきゅーん!」


 決まったな。

 スサノオは目を見開いたまましばらく固まっていたが、手をハートにして突き出すその愛くるしいしぐさにユニ子オタクのスサノオが反応しないわけがない。


「あ……あぁ……あああ! あああああ!!!」


 自分が今、何を目撃したのか分かったのか、声にならない叫び声をあげるとともに、


「よしゃあああ! ぴやあぁぁぁ!!!」


 モンスターのような奇声を発しながら飛び起きた。


 これこそまさに俺たちの作戦だ。


 それほど怒らないであろう萌えの神様があえて怒ることによって生まれる怒り慣れていない人独特の可愛さ。

 そこに普段ステージ上では発生しえない推しからのお叱りイベントを発生させる。

 極めつけは萌えの代名詞、萌えキュンポーズ。


 これで元気が出ないなどというユニっ子はユニっ子失格だろう。

 予想通り生粋のユニっ子であるスサノオは元気百倍マンになった。


「ユニ子ちゃん、ありがとう。俺、頑張って行ってくるよ! おらあああ!」


 スサノオはユニ子の手をガッと握りしめると、ステッキを持ち直してソラとオロチの方へ向かって飛んで行った。


 不安と緊張から解放されたのか、萌えの神様はぺたんと地面に座り込む。


「よ、よかった……スサノオさん元気になってくれました~」

「さすがです。やはり俺の目に狂いはありませんでした」

「僕も危うく萌えかけるところでした。素晴らしいかったです!」


 俺と筋肉の神様が褒めると萌えの神様はニコっと笑う。


「あとはあの二人を信じて待ちましょう」


 俺はスサノオが飛んで行った方向を見つめる。

 そこではソラがオロチと互角以上の戦いを繰り広げていた。


 八本もある首の攻撃を器用にかわすとともに確実に反撃しオロチを弱めている。

 それに俺たちに攻撃がとんでいかないようにしてくれたのだろうか。

 ソラがオロチを神社から誘導し、オロチは元々いたくらいの位置にまで戻っていた。


 あまりにも慣れすぎていていて忘れていたが、あんな化け物とやり合えるってあいつちゃんと最高神なんだな。


 するとそこにスサノオが合流し、見事な連携プレイを決めてオロチを圧倒し始めた。


 普段は犬猿の仲である二人であるが、元々そんなに仲悪そうじゃないし、スサノオが萌えの神様に叱られたことなどもあってしばらくは順調にいっていた。


 しかし二人の連携攻撃を受けていたオロチの様子がおかしくなってきた。

 ついさっきまでソラ達に向かって首を薙ぎ払うなどして攻撃していたのに、それがピタリと止んでしまった。


 ソラ達が圧倒しているからそうならざるを得ないのかと思っていたんだが、嵐の前の静けさというか違和感が拭いきれないな、と思っていたその時!


「ヤマアアァァァアアアアアァァァァァ!!!!!!!」


 これまでの何倍も大きな声で叫び散らかすとなんと体全体がみるみるうちに白くなるとともにすべての頭から無差別に真っ白な炎を吐き出したのだ。

 頭はソラ達を狙っている様子はなく、街がすべて火の海と化す。


「あぶないっ!」


 筋肉の神様がそう叫ぶと炎が頭上をまるでレーザービームのように通過し、山に直撃。

 木々が一瞬にして塵となった。


「お前ら無事か!?」

「ああ、なんとかな」


 ソラとスサノオも退避せざるを得ず、神社へと戻って来た。


「なんじゃあれ! ヤマタノオロチってあんなんなんか?」

「俺が昔戦ったときはあんな姿にはなっていなかったぞ」

「じゃあなんで今は真っ白になったんですか!?」

「多分ソラテラスさんとスサノオさんに追い詰められたせいで暴走してしまったんだと思います! おそらくスサノオさんが以前戦ったときは暴走させる間もなく封印したのでしょうが、今回は復活してから時間をかけすぎたのかと」

「前はあいつが寝てる間にサクッと封印しておいたからな。俺、優秀だな」

「優秀とか言ってる場合か!」


 確かにソラ起こしたり、スサノオ萌えさせたり色々やってたからな。


「マズいです……このままだと境界内がすべて燃やし尽くされてオロチが外に出るのも時間の問題です! 今のうちになんとか食い止めないと!」

「面倒じゃのう。もうさっさと倒すしかないということじゃろ? わしに任せるのじゃ!」

「そんなことできるのか? あれだぞ?」

「問題なしじゃ。スサノオ、おぬしはオロチを抑えろ。その隙にわしが必殺技をお見舞いして仕舞いじゃ。ええの?」

「何勝手に決めてんだよ! お前に決定権は――」

「スサノオさん! これが終わったら握手でもサインでもしますから今はソラテラスさんに従ってください!」


 萌えの神様は恐怖でおかしくなってしまったのか、ガン決まった目を見開いてスサノオを制す。


「……萌えキュンポーズもう一回してくれる?」

「しますからお願いします!」

「……分かった。でもしっかり決めろよ!」

「うむ。じゃあわしが合図したらおぬしはオロチに技を食らわせるのじゃ。分かっとるな?」

「分かってんだよ! さっさと合図しやがれ!」


 ソラとスサノオの周りに気のようなものが集まりだす。


「まだじゃぞ。まだ……」


 オロチは炎を無差別に吐き出しており、上空にいようものならすぐさままる焦げになるだろう。

 しかしある一瞬だけ、俺たちの頭上に炎が来なくなる瞬間があった。

 ソラはそれを見逃さなかった。


「今じゃ! 撃て!!!」

「ドキドキハートであなたを包みこんであげる! めるん、ラブリーストラァァァイク!!!」


 その瞬間スサノオが上空に急上昇し、技を放つとオロチに見事直撃。


 オロチは悲鳴を上げて炎を止めた。


「クソ姉貴! さっさと決めろ!」


 炎が来なくなったためソラは思いっきり急上昇し、オロチを見下ろしながら呪文のようなものを唱えた。


「青き空は理性を表し、赤き太陽は情熱を示す。白き雲は無常を呈し、黒き稲妻は罪を映す。天のもとに生まれしすべての者よ。汝、自らの過ちを認め、これに従い、無垢な空に帰りたまえ。我がその過ちに裁きを下さん! このイカヅチが汝の過ちを焼き尽くそう! 神雷!!!!!!!!」


 ソラがそう唱えると同時に目の前が白一色に塗りつぶされる。

 あまりの眩しさに目をつむり、想像を絶する爆発音に耳を塞ぐ。


「アアアァァァアアアアアァァァ!!!!!」


 ヤマタノオロチの断末魔が響き渡るとともに光が俺たちを包んでいった。

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