フォービート B版
[速報です。○○駅前で大規模火災が発生しています。現在、消火活動が進んでいますが、乾燥した冬の気候と、強い風の影響で、ますます燃え広がっています。]
[火は消し止められましたが、この火災による被害は非常に深刻です。現在必死の救助活動が続いています。]
[賑わう駅前を無惨にも焼き尽くした大晦日の火災。警察は放火の可能性も視野に入れて、捜査を進めています。]
[調査により出火元は居酒屋の厨房ではなく、店裏のゴミ置場であることが判明しました。マッチらしき炭化した数本の燃えカスが、最初に火の手の上がった3軒の居酒屋、それぞれの店裏から見つかっています。これを承け、現在警察は放火事件として捜査を進めています。]
「今時ライターではなくマッチで火をつけるだなんて。わざと手がかりを残したみたいで不愉快だ、人殺しを楽しんでるんだろ。」
「ライター1本よりマッチ箱のほうが安いけれど。マッチで放火するなんてよっぽど貧乏なのか阿保なのか。」
「誰への恨みだったんだろうねえ、怖いねえ。」
僕の父さんはその火事で死んだ。
父さんは恨まれるべき人ではない。
居酒屋の店主として仕事をしていただけ。
僕の父さんとして申し分ない、
憧れるほどの情に溢れた[親父]だった。
なんでそんな父さんが殺されたの?
残された[[rb:唯 > ただ]]1人の肉親であったのに。
[newpage]
[放火事件発生から1年経ちました。未だ犯人は見つかってません。さらに警察に駅前エリアで再び放火に及ぶことを仄めかす脅迫状らしき文書が届けられており、警察は昨年の放火犯と同一人物の犯行とみて捜査を継続しています。]
[こちら駅前から、中継です。1年前の大晦日の日に、この場所は火の海と化しました。そして今年も脅迫状が届いているらしく、急遽シャッターを下ろしている居酒屋さんがちらほら見受けられます。]
僕の家だった居酒屋は焼け、
その跡地は駐車場にされた。
隣の店と、その隣の店も潰れた。
3軒分の土地が駐車場に均されている。
ここが火元だ。献花のための場所。
[newpage]
あれから2年がたちました。
適当な人にマイクを向けて、
「あれから2年経ちました」と、
言っても「あれ」が何か伝わらないくらいの年月が過ぎたのです。
[年末年始休業を前に、駅前では忘年祭が開かれています!駅前通りの歩行者天国には人が集まり、特設ステージには地元ゆかりの芸人や歌手の方々が出演される模様です!]
30日は、忘年祭。
次の日からは、全店休業。
その代わりに商工会が、
一丸となって資金を繰って、
中規模のイベントを催した。
今日の日に、放火されぬとは限らないのに。
犯人は、まだ捕まって、いないんですよ?
[newpage]
それからまた1年経った。
忘年祭への取材もすっかり縮小されて、
3年前の、放火火災の、
ニュースはもうどこにも流れていない。
みんな、忘れちゃったのかな。
もやっとする気持ちの裏で、
仄かにホッとしている自分を見た。
今でもたまに、夢を見る。
父さんが泥酔客を抱えて逃げ遅れ、
炎に焼かれて死に行く姿。
もう忘れても、良いのだろうか。
もう前を向いて良いのだろうか。
「ほら見てごらん、あの駐車場」
スクランブル交差点を挟んで斜め対岸には、
父さんの名残りはもう残されてはいない。
カラオケ屋の透明な自動ドア越しに眺める。
「あれっ、誰か来ましたよ。」
夜勤の後輩が僕に教えてくれた。
黒パーカー黒フードを被り、
言われなければ、
闇夜に紛れて気付かなかったであろう人影。
その人影は、花を供えて、
人目を気にしている様子で逃げ去った。
「あの人は、誰だと思う?」
「こそ泥とかですか?」
「だとしたら大変だよね、警察呼ばないと」
「追いかけなくて良いんですか。」
あの人は放火犯ではないと、
僕は確信を持って神に誓っても言えるよ。
「大丈夫だよ、放っておこう」
まだ覚えてる人がいてくれたんだ。
「そうですか・・・?」
私もまだ忘れちゃだめだ。
この辛さを。この許せなさを。
墓場まで手離せないこの苦痛を、
背負って生きて行くしかないのだ。
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