淡い恋心と最後の大会

@rizadons

第1話 彼に良く見られたい

 中学時代は陸上部だった。専門は100㍍、200㍍の短距離走で、地区大会では常に上位に入り、他中の子からは「○○中の速い子」として、割と顔と名前が知られていた方だと思う。他中の子は私と走る組が一緒になると、「ああ~、○○さん(私)と一緒になったよー」とがっかりされるか、「○○さんと一緒だ、お願いします!」なんて、羨望の眼差しで見られるかに分かれており、普段学校内では目立たない私だったが、大会に行くとちょっと有名人扱いされていたので、なんだか気分が良かった。

 それに思春期まっただ中の年齢ともあり、周りにどう見られているかが気になるお年ごろだ。大会時、私を囲む状況はそういう環境だったもので、正直調子に乗っており、大会の会場に入る時は学校の体操着ではなく、アシックスのウインドブレーカーの上着のファスナーをめいっぱい上げて、半分顔を隠しながら歩くのが格好いいと思っていた。金八先生の第6シリーズに出ていた上戸彩演じる鶴本直みたいな感じ。レースではウインドブレーカーを脱ぎ捨て、レーンを風を切って走り、レースが終わるとすぐにウインドブレーカーに身を包んで鶴本直になる。イキっていた。…これを書いているだけでも自分はかなり痛かったなと思う。


 陸上のユニホームはご存じのように、ノースリーブのランニングシャツに、ショート丈のランニングパンツが定番。女子のユニホームは、ランニングシャツにはブラジャーの紐が落ちてこないように肩に紐止めが付いてあり、ランニングパンツは下着が見えないように中にインナーパンツがくっついている。女子たちは自前のブラとパンツが決して見えないよう、ランニングシャツの肩部分にブラ紐を必ずしまい、パンツのインナーを慎重に覆う。競技中風に煽られても、1ミリも布が見えないように細心の注意を払い、仲の良い子同士だと下着が見えてないかきちんとチェックもする。やはり思春期だから、男の先生や男子にそんな醜態を見せてはいけない。下着のフォローは競技に影響するだけでなく、メンタル、大げさには選手生命にも関わってくる事項なのだ。

 

 私ももちろん、その辺は気を遣っていた。なぜなら他校に気になっている男子がいたから。鶴本直を気取っていても、そこは普通の女子なのだ。いや、だれよりも乙女だったのかもしれない。気になる男子は地区大会では敵なしだった。色白だがほどよく筋肉質で、おそらく他の女子たちも気になっている存在だったに違いない。その証拠に私は彼と同じ高校に進学し、同じクラスになったのだが、彼は学年中の女子からカッコイイと言われ、わざわざ他クラスから写メを撮られるような存在になった。私はクラスでは陰キャだったため、高校3年間で彼に近づけることは一切無かった。


 話は中学生に戻り、私は彼を中2の秋頃から目で追ってしまっていた。地区大会ではすれ違うことも多くガンガンに意識。県大会に出場した際は双眼鏡まで用意して、「皆を応援するため」と建前を使っていたが、本当は彼を見るために持ってくるほどだった。大会も自己記録との戦いというよりかは、周りに、いや、彼に気を留めてもらいたいという一心でひたすらに走っていた。密かに彼を思う気持ちはもうcan’t stop running、止まらなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る