モニカ・エストレイラ ―2―

 ノーチェスの中心に生えた2本の巨大な樹。かつて、ある魔法使いがその魔法によって作り出した巨大な樹は「神精樹」と呼ばれる、魔都ノーチェスのシンボルのようなものになっている。この神精樹は、どんな方法を使っても傷1つ付かず、機械はおろか、魔法使いを使っても切り倒すことはもちろん、かすり傷も負わせることができない。それほどまでに完成された魔法だった。しかし、神精樹を作った魔法使いの細工によって2つの神精樹は形を変えた。今では、それぞれ、ある建物として利用されている。

 そんな神精樹のうち、北西側に位置する神精樹は、古今東西に存在するあらゆる魔法書を保存する「神精樹の古書館」として、そして、南東側にある神精樹は、「バウディアムス魔法学園」として使われている。



「でか〜〜〜い!」


「パーシー……はしゃぎすぎ」


「モニカは緊張しすぎ」



 雲を突き抜けるほど高くそびえ立つ神精樹を2人は見上げる。周りには魔法使いらしい格好をした、モニカたちと同年代らしき人たちで溢れかえっている。これから、遂に試験が始まるのだと、雰囲気で分かる。ここにいる誰も、特にモニカは、緊張を隠せないでいた。



「お腹痛い……」


「筆記試験だからまだいいけど、実技でそれやられちゃ困るよ」



 たが、そんな重苦しい雰囲気の中、大半の受験者が不安に駆られている中で、自信に満ちた表情で試験に望むものたちがいる。まるで、合格が約束されているかのような余裕の表情だった。

 パーシー・クラウディア。重力を操る魔法を扱い、その実力は同世代では他の追随を許さない。恐らく、一部の魔法使いとも引けを取らない実力を持っている、正しく天に魅入られたもの。天才、と言うやつだ。



「よく緊張しないよね……パーシーくらいだよ、そんなに堂々としてるの……」


「……いや、そうでもないよ」



 パーシーは辺りを見渡してそう言った。モニカも周りを見回すが、その違いは分からなかった。けれど、パーシーは何かを感じ取っているようで、緊張とはまた違う、鋭い目付きをしている。



「まぁとにかく、本番は実技だよ。筆記はちゃちゃっと終わらせられるでしょ、モニカは」


「そう言われると余計に緊張が……」



 2人は神精樹の中に入っていく。魔法で作られたものだというのに、自然そのものの雰囲気がある。大きく息を吸うと、樹特有のいい匂いがする。



「じゃあ、私こっちだから」


「うん。頑張ろうね!」



 2人は別れ、それぞれ部屋に案内される。通路には、バウディアムスの制服を着た生徒たちの姿がちらほらと見えた。モニカは、在校生とすれ違う度にぺこりと頭を下げて、指定された部屋にたどり着いた。その部屋の中には既に何人かの受験者が机に座っていた。



(ここでいいのかな……)


「大丈夫です! 間違いありません!」


「ちょっとソラ……! あんまり揺らさないで……」



 小声で頭に乗ってはしゃいでいるソラを注意する。他の受験者は、不自然に体勢を崩しているモニカを不審な目で見つめている。モニカはふらふらとバランスを取りながら、左端の席に座って、机の上にソラを下ろした。



「ううぅ〜……どうしよう、緊張してきた……」



 しばらく、何も起きないまま、時が流れる。正確な時間は1時間ほどだろう。モニカを含めた5人はじっと他の受験者を待っていた。沈黙が辛い。誰も、何も喋らない。

 あくびが出るほど長い時間が経った。1時間経つと、栓が抜けたかのように、ゾロゾロと受験者が部屋に流れ込んできた。

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