第二章『焔と恩讐』

 何故、生まれてきたのだろう



 そんな疑問は既に消えていた。

 深い絶望をしていいのは、凄惨な過去を持つものだけだと言い聞かせる。紺青の宙に降る星を眺めながら、少年は歩いていた。その足取りは決して軽やかなものではなく、鈍重で、1歩1歩を踏みしめるようだった。



 生みの親を殺されたわけでも


 一生消えない傷を負ったわけでも


 命の危機に晒されたわけでもない



 何も無い。



(だから俺は、深い絶望をしてはならない)



 御伽噺や喜劇は、絶望でさえ美しく、華々しい。それらとは違う。ただ、生温い湯に浸かりながら、ゆっくりと沈んで、溺れていくような、そんな感覚。



(絶望は要らない。俺に必要なのは、力だけだ)



 少年は歩む。消えぬ焔を心に宿し、ただ、絶望にも似た、吸い込まれるような暗闇を。進む。自分が信じた道を。


 その果てにあるものは……

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