モニカとパーシー ―2―

 まだ眠たそうに目を擦る小狐にモニカは質問する。



「私、昨日の夜倒れてからの記憶がないんだけど、何か知ってる?」


「うみゅ……昨日ですか?」


「そう」



 モニカは、思い出すように頭を抱える小狐のしっぽを撫で回す。なんだかんだでモニカは小狐の毛並みが気に入ったようで、事ある毎にこうして耳やしっぽを無意識に触ってしまっている。



「あ、思い出しました!」


「なにを?!」


「昨日は確か、青髪の人がモニカを連れて帰ろうとした時に……」



 青髪の人、というのはパーシーのことだ。生まれつき青、というよりも空色の髪をしているパーシーはその髪色からちやほやされてきた。こうして小狐の記憶にも残るほど印象的なのだ。



「………………う〜ん」



 小狐が何かに気がついて言い淀む。



「何?! おんぶする時に、それから?!」


「………………やっぱり言いません」


「なんで!」


「ハレンチです」


「なにが!?」



 パーシーほどでは無いが、小狐もなぜか頬を赤らめている。「ハレンチ」と聞いて、モニカは自分が何をしたのかとますます気になってしまった。



「私そんなんじゃない!」



 モニカが必死に否定すると、小狐も負けじと大声でその夜の出来事を話した。



「ひ、人前でちゅーする人なんてハレンチですハレンチ! 貞操さに欠けています!」


「は、はぁ!? ちゅ、ちゅーって……!」


「青髪の人も困ってました!」


「そ、そんなことしてない!」


「してました!」



 その日は1日、母が帰ってくるまでモニカと小狐は「ちゅーした、してない論争」を繰り広げていた。母も何かを察していたのか、どうしてかいつもよりも量の多い少し豪勢な晩御飯を食べながら、パーシーの顔が赤かったこと、様子がおかしかったことの真相に気がつき、モニカまで顔を赤くしながら、晩御飯を食べ終えた後も、しばらく悶々と毛布にくるまっていた。



 *



 昨晩の出来事――



「モニカ〜、ってこんなところで何してんの」



 草陰に隠れていたモニカをパーシーが発見する。小狐はパーシーに声をかけていたが、もちろん聞こえてなどいない。



「う〜……パーシー……」


「はいはい、パーシーですよ〜っと」



 モニカを抱きかかえ、首に腕を回す。ぐったりとしたモニカをしっかりと支えながら、パーシーは暗い道を照らす。



「‪”‬光源ライト‪”‬〜」


「んん……眩しい」


「文句言わないの〜」



 どれだけの喧嘩をした後であっても、パーシーがモニカの手を離すことは、これから先も一生ありえないだろう。幼い頃からずっと一緒だったモニカに対してパーシーは既に友達以上の感情を向けていた。



「……パーシー、大好きだよ」


「あはは、それ本気で言ってるの?」



 しかし、この時はまだ、それは特別な感情ではなかった。あくまで、友達以上の何か。パーシーの中では家族みたいに仲のいい友達、そういった関係だった。そう、この時までは。

 急にふらりとモニカの体勢が崩れる。その拍子にパーシーの足元がぐらついて、モニカがパーシーを押し倒すような体制で倒れ込む。



「痛ったた……モニカ、ちょっと……」



 パーシーの口が塞がれる。まるで、先程の何気ない問に答えるように。月の光に照らされて、パーシーにはいつもとは違うモニカの姿が映った。



「む……んんっ……」



 小狐が両手で顔を覆い隠し、指の隙間から覗き見る。見てはいけないものを見ているかのように、ちらちらと指を開く。



「ぷはっ……な、ななな、なにひてんの!」


「んふふ……大好きだよぉ〜」


「もう! 冗談やめて! 早く帰らないとお母さん心配してるよ!」



 そして、家に着き、モニカを引き渡した後、モニカと同じように毛布にくるまりながら悶々とした夜を過ごし、パーシーが寝不足になったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る