第42話「悪魔狩り」
ギルドに戻るとティタ姉に個室に案内された。
「……確認しました。確かに全員目標ですね。ずいぶんと早かったですね」
「運が良くてですね」
リィドはユースと協力したおかげで情報を入手できたことを説明した。
「なるほど。お二人ともありがとうございました」
ティタ姉は頭を下げる。
二人は家に戻ると想像だにしなかった状況に思わず停止した。
「……ようやく……帰ってきたか」
ドアを開けると満身創痍のミケが床に横たわっていた。
「ミケ何があった?」
リィドは焦る。
「あれは吾も予想外じゃった。悪魔狩り……じゃあれは……」
悪魔狩り。
リィドが魔獣を主にしているように、世の中には悪魔を狩ることを専門にしてる人間もいる。
当然魔獣とは比べ物にならないほど当人に力量を持たなければ成り立たない。
つまり、襲撃にきたのはかなりの実力者であるはずだ。
「セツナ、ミケを頼む」
セツナにミケの介助を頼み家の中を進む。
「エリル、大丈夫か」
エリルが倒れていた。
涙を流し、胸元は真っ赤に染まっていた。
「すまない、わ、私のせいだ……」
「っ!エリル、フェ、フェイシスはどうした?」
エリルは指を指す。
「フェイシス!」
リィドはドアを開ける。
「な、あ、え?はい?」
ドアの先に広がっていた光景に思わず固まる。
「リィド?おかえり」
「た、たただいま」
フェイシスは無事だった。
そして一糸まとわぬ輝かしい出で立ち。
白く透んだ芸術のような肌。
肌を色どり光を乱反射する水滴。
どこか魅惑的な雰囲気を醸し出す湯気。
そう、フェイシスは入浴中であった。
「一緒に入る?」
「はっす、すまん」
リィドは芸術的な回転を見せ退出、ドアを閉めた。
悪魔狩りの襲撃はどうなったのだ。
悪魔ではないフェイシスとエリルが無事なのは理解できる。
しかし、襲撃があったのなら何故のんびりと入浴しているのか。
フェイシスの入浴中に襲撃が発生。
ミケが襲われエリルが応対。
フェイシスは悪魔ではないのでそのままというありえないような状況になったのか。
「エリル、状況説明してくれるか?」
「ああ。すまない」
エリルはこの惨状を語りだした。
始まりは前日リィドとセツナが帰ってくると連絡を受けた。
「せっかくだし、料理作らない?」
フェイシスが提案した。
前にお店の店主に感謝のお祝いや感謝の気持ちを伝えるのに手料理を振る舞う、と聞いたことがある。
なのでリィド達のために料理を作ろうと。
しかし、ここで問題が発生した。
フェイシスはきちんと料理を作ったことはない。
そしてミケも言わずもがな。
残るはエリルのみだ。
「わ、私には無理だ」
ミケは知らないがエリルは料理の腕前はからきしである。
食べられるものはできないとエリルは断る。
「大丈夫じゃて、吾は悪魔じゃ。味覚が違うからの」
フェイシスのため、ミケに言いくるめれてフェイシスに料理を教えることにした。
エリルの調理をお手本にフェイシスが料理を作る。
「フェイシス、その野菜は優しく扱ってやらんと」
ミケが注意するも時は既に遅し。
赤い汁が飛び散る。
「うへー」
フェイシスとエリルは赤く染まる。
多少、多少、多少些細な実に些細なハプニングはあったもののフェイシスの料理は完成した。
フェイシスは汚れが酷いので先に風呂に入ることに。
お手本としてできたエリルの料理をミケが食す。
「だ、大丈夫なのか?」
エリルは気が気ではない。
エリルが料理が得意ではないことは致し方のないことではあった。
エリルは騎士団に入ってからは騎士一筋で料理とは無縁だった。
騎士団には料理担当がいるためエリルは料理をする機会がなかった。
個人的にあこがれがあり、料理本を読んだりしていたので作れることは作れるのだ。
味以外はいたって問題がない。
「うむ。確かに見た目とはかけ離れている味だがそんな……」
しばらくするとミケが悶えだした。
「く、やはりか。何故だ」
悪魔すら理解できない奇跡。
そして、遺された料理。
捨てるのは騎士道に反する。
エリルは覚悟決め死地に足を踏み入れる。
「なるほどな……」
ひとまず、リィドはこの惨劇を理解できた。
「もうじきフェイシスも風呂出るだろうから、エリルも入ってこい」
「す、すまない。しかし、この料理を片づけねば」
「分かった分かった。俺が片づけておくから」
「リィド……」
エリルはリィドに思わず抱き着く。
リィドは平然と胃の腑に収める。
「無理するなよ?」
「まぁ、なんだ大丈夫っぽいからな」
前回もリィドからすれば特に問題なかった。
もちろん、翌日腹の調子に変調をきたしなりどはなくいつも通りだった。
安堵が強かったがリィドは感動していた。
子供の成長を感じる親のように。
「先輩、ミケちゃんから大体の話は聞いたっす」
ミケも無事なようだ。
そもそも、食事しただけなので大事にはならないはずだが。
明日は一日休むことをリィドは宣言した。
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