第38話「ハンガンド王国」

 翌日二人は準備を整え、さらに翌日キュリドーンが引く輸送車に乗り、ハンガンド王国に向かった。


「所属希望者かい?……っと別のところかい。ちょっと待ってくれ」


 二人はまずハンガンド王国の王都に向かった。

 まず情報を集めるために王都に決めた。

 王都にあるギルドで身の保障をしてもらうために依頼で来たことを報告した。


「リィドさんに、セツナさん。確認できた。この国はシェラザード王国と大きな法の違いも、文化の違いもないので、くれぐれも法遵守してくれくらいかな」


 職員に宿の情報など提供してもらい、そちらに向かう。


「二人。期間は最低で一週間。最大で一か月。ひとまず一週間分だけ先に払います。可能ですかね?」

「……可能です。しかし、今一部屋しか空いてません」

「な」

「それでお願いするっす」


 一瞬躊躇うリィドをよそにセツナは即答した。


「いいのか?」

「それは毎晩手を出してもってことっすか?」

「あのですね、な訳ないだろ」

「冗談っす。もう恥ずかしくないっていうのと、何より万が一狙われたり、襲われた時のこと考えて同室のが対処しやすいからっすね」

「なるほどな」


 リィドは今まで魔獣専門だったので勝手やセオリーといったものを知らない。

 その点セツナはこういったことはプロだ。大人しく従う。


「ひとまずうちは情報収集してくるっす」

「分かった。俺は何してたらいい?」

「そーっすね。先輩は食堂や酒場など人が多く集まるところに行って貰えれば」

「行くだけでいいのか?」

「そーっすね。先輩意外と人見知りっすから無理に情報聞き出そうとせず、普段通りしてればいいっす」

「確かにそうだが、いいのか?」


 情報収集のために訪れるのに話しを聞かないでいいのか。


「周囲の様子や、噂話など耳に入ってくるのを覚えてればいいっすよ」


 直接的に役に立つことは少ないが、そういった情報などは意外なところで役に立つ場合もある。そうセツナに言われ、リィドは早速近くの食堂に向かった。

 それなりに賑わっており、リィドは食事しながら耳を傾けた。


「ねぇ?君一人?相席いいかしら?」

「もちろんです」


 即答である。

 麗しき女性が声をかけてきた。断る理由などあるはずもない。


「私はユース。君は?」

「リィドです」

「リィド君ね。見かけない子だけど旅の人?」

「旅じゃないですけど、シェラザードの人間です」

「へーお隣さんか。買い物?」

「それもありますね。ユースさんはこの国の人ですか?」

「あら?……ねぇ、私の顔よーく見て?」

「綺麗な顔ですが……」


 さすがのリィドも美人局を疑う。


「そっか。まぁ、隣国だけど、知らない人は知らないかー」


 口調から有名人なのだろうか。リィドは流行に疎く、ましてや他国のこと有名人など知らない。


「すみません、シェラザードでも王都じゃなくて地方の街の人間なんで」

「ううん。ごめんなさい。改めて自己紹介するわね」


 リィドの胸が高鳴る。


「私はユース。ギルド所属の魔術師ね」

「ギルド」


 これは運命の悪戯だろうか。


「魔術師っていっても魔術具の開発ばかりやっているわ」

「ギルドの宝ってことですね」

「それは微妙ね。開発ばかりしてて依頼をこなしすのはあまりしないから」

「でも奇遇ですね。自分もギルドの人間ですよ。まさしく運命の出会いです」

「君も?てことは依頼か何か?」

「はい。内容は言えませんがそんなとこです」

「そっか。じゃ、せっかくだし王都案内してあげましょうか?」

「是非」


 願ってもない。ギルド所属の人間でそれなりに名前が有名。ならば、美人局や策略にハメるという可能性も低い。

 情報を入手できるうえに、美女だ。


「王都の中心部はさすがに有名だから少しはずれの方に連れて行った方がいい?」

「ユースさんと一緒ならどこでもいいですが、是非はずれの方でお願いします」

「ふふ、そんなこと言われたの初めて」

「な、それはさすがに……謙遜しなくていいですよ」

「謙遜じゃなくて、事実よ」


 食事を済ませるとさっそくユースに案内され王都を見て周る。


「ここら辺が武器や、魔術師のためのお店が集まってる箇所ね」

 王都だけあって人も多い。


「リィド君は後衛職かな?」

「どちらかといえばそうですね。最近は後ろからサポートが多いです。まぁ、俺がやる依頼は魔獣関連が多いので」

「そっか。チームでやってるの?」

「はい。五人でやってます。まぁ、常に全員でじゃなくて、二人くらいで組んで依頼こなしてが多いですね」

「なるほどね。魔術師はいるの?」

「いないですね。魔術を使えるやつはいますが専門はいないです」

「まぁ、魔獣相手ならそんなものか」

「チームを探してるんですか?」

「ううん。ちょっとした調査よ」

「調査?」

「そう。魔術具開発の参考に魔術師に話し聞いたりしてるから」

「ああ。すみませんお力になれずに」

「そんなことないわ。あ、ここ魔獣の素材など売ってる店よ。行ってみる?」

「はい」


 リィドは特段欲しいものはないが、参考に品を見ていった。

 セツナとエリルは欲しいものは各自で購入している。

 ミケに関しては武器や魔術具といったものが不要だ。

 ミケ曰く足枷をつけさせるのが趣味ならばつけてもいいとのこと。

 リィドが買うのはフェイシスの分のみだ。

 フェイシスは武器は使わないので、手袋型の魔術具を使っている。必要なのはそれくらいだ。

 なので素材はあまり必要がない。店内で買うものは無かった。


「次、魔術具の店寄ってもいいですか?」

「もちろん。欲しい物あったりするの?」

「特段欲しいものはないですが、手袋の魔術具があれば見ときたいですね」

「お仲間さんの装備?」

「そうですね。自分は戦闘では魔術具は使わないので」

「そっか。でも珍しいわね」

「そうなんですか?」

「そうね。素手で戦うっていうのが少ないからね」

「ああ。それは確かに」

「だから買う人が少ないから作る人も少ないってわけ」


 リィドも手袋は王都でしか見たことがない。

 魔術具もこれといったものはなかったため店を出た。


「あ、あそこって食料品ですか?」

「そうね。行ってみる?」

「お願いします」


 何か珍しいものや普段食べないものがあれば買うつもりだ。

 理由は短銃明快。フェイシスのためだ。

 フェイシスが喜ぶ、食事するのを見るのがリィドの日々の小さな幸せだ。

 リィドはいくつかの品を買い鞄にしまう。


「ちょ、え、何それ?え?」

「な、なんですか?」


 リィドの胸の鼓動が高鳴る。

 ユースが尋常ではない速度でリィドに迫って来た。

 リィドは壁においやられ、ユースは覆いかぶさるように迫った。


「その鞄見せてもらってもいい?安心して、見るだけだから」


 前にセツナにかなり珍品であることを聞いたいたので、魔術具を開発してい人間からすれば興味を引かれるも納得できる。


「見せるくらいならいいですよ。これは、貰い物で製作者は亡くなっているので大切にお願いしますね」

「……ありがとうございます」


 ユースは宝物のように大切に鞄を受け取る。


「空間魔術を組み併せてる?ん?、何この術式……」

「なんだい?」


 騒ぎに気付き、店主がやってくる。


「騒ぐなら外でやって……ってなんだ、ユース様か」


 店主はユースを知っているのかユースだと気づくと戻っていった。


「あ、ごめんなさい。こちら、返すわね」


 ユースは鞄をリィドに返した。


「いやーまさか、こんな物がお目にかかれるとは。一応なんだけど売ってくれないよね?」

「はい。ごめんなさい」

「ううん、鞄は使ってこそだしね。でもすごいわねその鞄」

「そんなにですか?」

「ええ、私が見ても四割も術式が理解できなかった」


 リィドからすれば驚きである。

 先生の魔術がすごいことは知っているがどれくいすごいかはあまりわからない。

 セツナ、ミケが絶賛していて、セツナは見ても一割分かるかどうかと言っていた。

 それが四割も分かるというのなら、かなりの知識の持ち主だろう。


「ねぇ、リィド君って連絡用の魔術具持ってる?」

「家にならありますね」

「そっか。ならこれ私の連絡先」

「へ?いいんですか?」

「うん、迷惑じゃなければだけど」

「そ、そんなはずないじゃないですか」

「はは、なら良かった」


 リィドは宿の前まで送ってもらいユースと別れた。

 まだセツナは戻っていないようだった。

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