第36話「男二人密室にて」
「私からは以上だ。リィド殿少しだけ二人だけで話したいのだがいいだろうか?」
「?いいですけど……」
嫌な予感しかしないが、断って帰るわけにはいかない。
アンザスに連れられ二階の倉庫にような部屋に入る。
「……!なんですか?」
部屋に入るといきなりアンザスはリィドの首に剣を突き立てる。
少しでも動けば死。
リィドは冷静に問いかける。
エリルから分かるように、アンザスが闇討ちをするとは思えない。
ならば、話し合いが可能だと判断した。
なるべく刺激しないようにするのが最善だ。
「非難してもらって構わない」
「それはそちらの回答次第ですよ」
「リィド殿。君は何か隠していないかい?」
ありすぎる。どこで気づかれたのか。
「……隠しごとはありますよ。アンザスさんとは知り合いですが、恋人でも酒飲んでバカ騒ぎする親友でもないですからね。けれど、騙すようなことは何もありませんよ」
「……王子のことです。何か隠していることはありませんか?」
「……」
リィドにとって予想外のことだった。
てっきりフェイシスの素性、悪魔関連のことかと思っていた。
「意味がわかりませんね」
リィドは依頼で少しの間影武者と過ごしただけだ。
「……王子のご様子が少し変わられました」
「……魔獣の襲撃に信用していた騎士団の裏切り行為。変わられるのは無理もないのでは?」
「っ確かに。それに関しては反省する以外ないですがそうではないのです」
「?」
「王子はとてもまっすぐで真面目なお方です。真面目すぎて周りが休養を進言するほどに。王女様の件以降ずっとでした」
「……」
「その王子が最近少しお変わりになりました。顕著なのが剣です。ただまっすぐ全力で剣を振るうお方が、相手に合わせて剣を振るう。相手の剣を誘うなど今までにない変化です」
「す、すみません。お、王子様にお願いされて手合わせしました。俺は騎士でもない、魔獣相手の我流の剣だと言ったんですけど、逆に珍しいのか是非と言われ……」
依頼相手、しかも王族相手のお願いを断れるはずもないと訴える。
「……リィド殿、エリルと剣を交えたこと、フェイシス殿と一緒にシュリギンに乗ったことは王子からも聞いています」
それが悪いことではないのならリィドに隠していることなどない。
「この変化自体は悪いことではありません。ただ、急すぎるので何かあったのではないかと」
リィドはここで気づいた。
こちらとしては最初から影武者だと認識した上で、王子として接していた。
影武者の本来の役割とは王子として周囲に思わせること。
あれが影武者であると気づいたのではないかとアンザスは探っているのではないか。
影武者とは陽のない世界である。用が済んだら、役目を果たせなかった者の末路はほぼ決まっている。
リィドからすれば王子の影武者の一人が代わろうと関係ないことだが、夢見が悪い。
「……」
「どうですか?心当たりありませんか?」
「……特にないですね」
「そうですか」
「?」
アンザスは剣を下ろし、リィドに握らせる。
「職務上必要でしたが、人しては非難される行いです。気が済まないのなら一太刀入れてください」
「別に何もなかったじゃないですか」
「し、しかし……」
「気が済まないなら今度、プライベートでまた食事でもご馳走してください」
「そうですか」
リィドとアンザスは握手を交わし下に降りる。
「お楽しみは終わったっすか?」
「何言ってるんだ」
こうして食事会は無事終わりリィド達は家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます