第31話「くちゅん」
「あ、そうだ皆先に戻っててくれ。俺とティタ姉は置いた荷物取にいくから」
強引だがティタ姉と二人きりになる。
「あ、遺跡には連れてけないからね?」
「仕事でもないのに近寄りたくないです」
「ふふ、リィドらしいわね。で、本題は何かしら?」
二人きり森の中。もちろん愛の告白だ。
そうであればかなりの男であるが、残念ながら違う。
「これは勝手なお願いなんですけど、フェイシスの件見逃してもらえないですか?」
リィドは頭を下げる。
「そういうことね」
フェイシスの素性が判明したのだ。ギルドの規則に基づけば、フェイシスの登録情報を更新する必要がある。
ミケも悪魔であることを隠さず登録している。使役悪魔として管理され無害である証明付きで。
元精霊、現人間という稀な情報を公開するのはこの度の悪魔にしかり、非常に危険があるだろう。
できることなら隠しておきたい。
幸い、フェイシスは検査で人間の診断があるためミケと隠しても違いバレることはないだろう。
保護した時に照会を出しているが、犯罪歴もないし、行方不明も出す人間がいないので経歴に矛盾が生じることもない。
後は、ティタ姉が黙っていてくれればだが。
「……」
もしティタ姉が見逃し、それが発覚した時は当然ティタ姉も処罰される。
もちろんリィド達より罰は重い。
リィドは頭を下げて犯罪の片棒を依頼しているのだ。
「じゃ、一つだけお願いごと聞いてもらおうかしら?」
「もちろんです、ティタ姉なら一つといわずいくらでもききます」
本音である。
「いいの?無茶なお願いだけど」
「頑張ります」
時間が止まった。もちろんそんなことはないがリィドには止まったかのように思えた。
「ティタ姉?」
ティタ姉はいきなりリィドを抱きしめたのだ。
まさか、実は悪魔との戦闘で瀕死になり夢を見ているのだろうかと不安になる。
リィドが挙動不審に停止しているとティタ姉が喋りだす。
「とっても無茶なお願いよ」
どぎまぎしかしない。
「約束して欲しいの。私より先に死なないで」
「……」
「事務の私に比べてリィドは命の危険のリスクが付きまとうわ。だから、無茶だけどお願い。私より先に死なないで」
優しい声色。
「あなたに気をかけてやってとは先生に言われたのは事実。でもこれは私個人の思い」
「……約束します。というか死ぬつもりなんてこれっぽちもないですから」
命が第一だ。
ティタ姉はリィドを離す。
「そう。帰りましょうか」
「はい」
来た道と同様に戻り、全員無事に王都から街にまで戻ってくることができた。
「やっとだな」
「落ち着くっすねー」
「帰るところがあるのはやはり良いものだな」
「盗みなどもされてないようだな」
「ミケ、物騒なこというなよ」
「そうだ。この街には警備局があるので比較的犯罪率は低いぞ」
ようやく家に辿りつくことができた。
皆気持ちは同じだろう。
「みんなありがとね」
フェイシスはちょこんと頭を下げる。
「まぁ、仲間だからな」
「そうだ。仲間なのだから、気にすることはないぞ」
エリルは泣きだしそうだ。
「なに言ってんすかー」
セツナはフェイシスに飛びつく。
「んっ」
リィドは危険を感じた。これはいつものあれだと。脳は理解しても体に伝達するまでには時間がかかる。
「くちゅん」
爽やかな風が吹き抜けた。
「ごめんね」
お約束。全員の服が綺麗さっぱり脱げる。
リィドは急いで服を着る。
「もしかして、フェイちゃんのこれって精霊だったころの名残的なあれっすかね」
「な、風の精霊はそんなスケベ精霊だったのか!」
悲しいのか人間は慣れるもので、エリルは最初恥ずかしさのあまり気を失っていたが、今は顔を紅くする程度になっていた。
「家の前で全裸の集団とか悪魔の吾でもひくぞ」
「全裸が言ってもな。服を着ろ」
「うむ、皆揃って風呂に入るのはどうだ?」
ミケは服が破損しているので再度着るつもりはない。もう風呂に入って新しい服を着た方が良い。
「いいっすね。血出して倒れないでくださいっすよ先輩?」
「こ、混浴だと」
「エリちゃん鼻血出たー」
「……はぁ。何で俺も一緒なんだよ」
いつの間にか賑やかになった。
賑やかであることが落ち着くことになるとは。
リィドは風呂に向かう女子を見送り、静かに家のドアを閉めた。
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