第7話 魂が帰る場所へようこそ!
今日も盛況だったテスラカフェ、夜が更け3人組のドワーフが真っ赤な顔で肩を組、ヨタヨタとテスラカフェから出て行く。
「またの御来店をお待ちしておりますにゃ!」ニャコブは最後のお客様を見送り、がらんとした店内を見渡しカウンターに向かう。
「ニャコブさん本日は最後までお疲れ様でした。今日はディナーもだったので大変ではなかったですか?」テスラがカウンター上のライトの魔石を残し店内の明かりを消す。
「にゃんのこれくらい朝飯前にゃ!」ニャコブが胸にポンと手を当てえへんとする。テスラがクスりと笑い紙袋をニャコブに手渡す。
「中にクロワッサンが入っているので、朝ごはんにでも食べてください。お給料は女将のサチーさんに怒られてしまったので、帝都銀行に直接振り込んで置きますね」
「ありがとうございますにゃ!マフィンも凄く美味しかったしクロワッサンも楽しみにゃ!それとお給料も助かるにゃ♪」ニャコブが尻尾をくねらせ喜びを現す。
「そうにゃ!蜂蜜のマフィン余ってるかにゃ?女将さんにはいつもお世話になってるにゃ、だからお土産にしたいにゃ!」
「おや、サチーさんの好物を知っていましたか。きっと喜ぶでしょう。ちょっと待っていて下さい。ケイティーに確認して来ますね」そう言ってテスラがキッチンに入って行く。待ってる間ニャコブが紙袋の中を覗くと美味しそうなミニクロワッサンが5個も入っていた。
「1個位いいかにゃ」そう言って紙袋に手を入れるとカランカランと軽快なベルがなる。ニャコブが咄嗟に「いらっしゃいませにゃ」と顔を上げ言うが誰も居ない。当たりを見渡しても
入って来た人はいないのだ。
「おかしいにゃ…気のせいかにゃ?」すると店内に月明かりが指し、窓際のソファーに誰か座っているのが見える。だが様子がおかしい、身体が透けて窓向こうの景色が見えている。その青白く透けた人がこちらを向きおいでおいでと手招きをした。ニャコブの全身の毛が一気に逆立ち叫ぶ。
「で、ででででたにゃっっっ!!!」クロワッサンの入った紙袋を落とし、獣人特有の身体で一瞬でカウンターの中に飛び込み、キッチンに向かう。中に入ると紙袋にマフィンを詰めるテスラとケイティーが目を丸くしてこちらを見ていた。
「どうした?そんなに慌てて?」ケイティーが聞くとニャコブが全身の毛を逆立てたまま震えて答える。
「でたにゃ…出たのにゃ!お化けなのにゃっ!」ケイティーがテスラを見て非難がましく言う。
「テスラ、言ってなかったのか?」
「すいません。お伝えするのをすっかり忘れていました」テスラが面目なさそうにニャコブに顔を戻す。
「ニャコブさん申し訳ありませんでした。彼は閉店後に来られるゴーストのお客様なのです」
「ゴーストにゃ!?ゴーストってモンスターなのにゃ!」ニャコブが両の腕を掴みガタガタと震える。
「ダメですよニャコブさん。ゴーストにも色々な方がいらっしゃいます。人や生き物に憑依し悪い事をするのはモンスター扱いですが、彼の様に何もしないお客様もいらっしゃるのです」
「本当かにゃ?村に出るゴーストはめっちゃ人を襲ってたにゃ」テスラが苦笑する。
「では、ご挨拶に行きましょうか。その方が信じて貰えると思います」そう言ってテスラはマフィンの入った紙袋をテーブルに置きキッチンを出る。ニャコブも恐る恐る顔を出して見て見ると店主がゴーストに頭を下げてからこちらに手招きをする。ニャコブがゆっくりと近づくと青白いゴーストが喋る。
「驚かせてしまい、すまんかったな。お嬢さん」ゴーストは近づくと輪郭がハッキリとし、よく見えた。彼は白髪の髪をオールバックにし髭も白く綺麗に切りそろえている。服は貴族が着るような立派な仕立てで青い宝石の着いた剣を腰に差している。だがやはり少し透けている。
「こちらは常連のゴースト、バルデンさんです」テスラが紹介する。
「ニャコブですにゃ。先程は大変失礼しましたにゃ!」ニャコブが腰を90度に曲げ誠心誠意謝る。
「顔を上げなさい。君の反応は正しい。ゴーストは怖いもの。それが当たり前なのだ。だから君は悪くない」その言葉でニャコブは顔を上げると、バルデンは優しく微笑み、テスラに顔を向ける。
「良い子が入って良かったな!」
「ええ、ニャコブさんは明るく気遣いが出来るとても良い子なのです」ニャコブは照れて顔が赤くなり、尻尾で隠す。
「そろそろあれを貰えるか?日が昇ると食べれんからな!」
「かしこまりました。直ぐにお持ち致します」テスラが胸に手を当てお辞儀する。ニャコブも習ってお辞儀をしテスラについて行く。
「とても良い方だったにゃ」
「そうでしょう?私も大変お世話になってる方なのでよろしくお願いしますね」テスラが小声で耳元で言い、ウィンクする。少しドキッとする。
「と、所で…バルデンさんは何を食べるのにゃ?ゴーストが何かを食べるって聞いた事ないにゃ?」テスラとニャコブがキッチンに入り言う。
「ゴーストは普通は飲み食い出来ません。しかし、ここでは別です」
「出来たぞーシャーベットアイスだ」ケイティーがいいニャコブが見てみると、透明な器に丸いシャーベットのアイスが3つ並んでいるが色がとても不思議だ。左のシャーベットは夜空の様に漆黒に染まり、中に幾万もの輝く星々が浮かび瞬いている。真ん中は昔読んだ絵本に出てきた私達が住む星のようで、大陸や海があり雲が流れていく。最後のは金色の輝きを放つ満月の様なシャーベットで明らかに光っている。
「にゃ、にゃんなのにゃこれ?!」ニャコブが顔を近ずけ見入っているとケイティーが言う。
「ニャコブちゃん食べちゃダメだよ?生きてる私達が食べたら大変な事になるんだから」ケイティーがイタズラっぽく笑う。
「毒なのかにゃ?」
「毒ではありませんよ。ただ掛かってる魔法が少々…」テスラが少しいい淀みはぐらかす。
「ではニャコブさん。お客様に御提供お願いしますね」ニコリと笑い送り出される。ニャコブが食器の置いてある所からデザート用のスプーンを取ろうとすると「こちらでお願いします」とテスラにスプーンを渡される。受け取ったスプーンは普段使うスプーンよりも装飾が凝っていて何やら彫ってある。魔法陣や古いルーン文字が細かに掘られている。ニャコブがトレーに載せてシャーベットを持ってキッチンを出ると薄暗い店内に突然、星々の輝きと煌めきが溢れ、床を染めていく。夜空のシャーベットが星を落とし、輝き瞬き始め、私達の星のシャーベットが雲を落とし星の輝きをほんの少し曇らせる。満月のシャーベットが水面に映る月のように波紋を残し月光を放つ。まるで夜空を歩く様な感覚、夜空は歩く度に波紋が広がりバルデンの元まで向かう。ニャコブは今の夢の様な光景にはしゃぐのをグッと堪え、バルデンにシャーベットを提供する。
「お待たせしましたにゃ!」
「おお!来たか!」バルデンがスプーンを取り漆黒の星のシャーベットを掬う。掬った場所からまたしても星がこぼれ出し、お皿、テーブル、ソファーも全てを染め上げる。口に運び頬張るとバルデンは目を閉じ味を噛み締めるように食べる。
「美味い!」今度は私達の星のシャーベットを掬う。すると店内はガタガタと揺れ出し、店内のテーブルや魔石のライトが揺れる。地震だろうか?だが窓の外の魔石の街灯は揺れていない。最後に満月のシャーベットをスプーンで掬うとその瞬間、世界が消える。ニャコブは宇宙に立って居た。前後左右の感覚を失い倒れそうになっていると。
「お嬢さん、危ないから座って居なさい」声の方を見るとハルデンが座った姿勢のままシャーベットを食べている。ニャコブは言われた通りにその場に座り込む。
「綺麗じゃろ?」バルデンの視線の先に大きな月が浮かんでいる。静かで優しい月光が全身を包み心地良い。反対方向に顔を向けると私達が住む星が静かに回っている。広大な海と大陸が広がり雲がかかっている。見ていると自分がどれ程小さいかを思い知りちょっぴりセンチメンタルな気分になり、両親を思い出す。
「これは何なのにゃ…?」ニャコブの声が木霊する。
「空のそのまた上、私達の魂が帰る場所じゃ」バルデンがしみじみとシャーベットを頬張る。
「そのシャーベットはいったい…どんな味がするのにゃ?」ニャコブは喉をならし、質問する。するとバルデンがニヤリと笑い。
「死んだ後に食べてみるといい」
気が付くと店内に朝日が差し込み、ピィーと小鳥が鳴いている。先程まで座っていたバルデンの姿はなく、空いた皿が朝日を受けて薄く光っていた。
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