ex6.増殖する称号とは。
偶数部なので称号回もありまーす。
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西海を大きくトゥーレ側に迂回しながらも南下する帰りの船旅は今のところ順調だ。
いつメンしかいない船だから、大部屋雑魚寝でも特に問題ない(そもそもランディさんとアンダル氏はほぼ寝ない訳ですが)。
ただ、流石にだだっ広いままだとちょっとどころじゃなく寒かったので、間に合わせでランディさんが持って来たパーテーションをいくつか配置して、所々に魔法陣電池で動く暖房器具を置いたりはしている。その結果、一応男女で部屋を分けるような雰囲気にはなっている。実際には全員いっぺんに寝るわけじゃないから、そこらへんは割と適当だけどね!どうせあらかた未成年!
ああいやワカバちゃんはこないだ十八になって成人年齢になったって言ってたわね。そして、多分ハルマナート国に帰着するのと大差ないところで、あたしの本来の誕生日も来る、はずだ。
そういえば住民登録するときに、あたしなんも考えずに自分本来の誕生日書いたから、春になったらまず税金の通知が来るな……従軍治癒師の職を明らかにして活動した分は証明書経由で自動申告になるから、基本面倒な申告作業はしなくていいのはいいんだけど、三人組は来年度は一応申告書類の書き方を学ばないといけない気がするな?
《今大丈夫ですよね?称号の件でご相談が》
シエラから突然そんな風に言われた今は昼下がり、ちょっと夜に見張番なんかやってたので、休憩中なわけですけど。板張り床に小さい絨毯を敷いて、その上に置かれたこたつがぬくい。この世界、何気に掘りごたつが普及しているそうだけど、ここは船上なので天板の裏にあたる部分のやぐらに暖温石が取り付けられている、異世界で言うところの遠赤外線こたつに近いタイプだ。その上にこたつ布団を掛けて、上に天板が乗っている。少人数用だとかで、蜜柑の籠を一つ置いたらいっぱいいっぱいなサイズ。まあ今はあたしの顎と、さっきほうじ茶を飲み切って空になったマグカップしか乗っていませんが。
ああいや称号ですね?って何があったの……?まあ、見るしかないわね。
〈称号管理:一覧〉
[落ち来りし者]
[大魔王級魔力保持者+]
[龍の友]
[聖獣の盟友]
[中級召喚師++++]←Up
[上級治癒師++]←Up
[上級魔法師:光限定+]
[シューティングマスター+](隠蔽中)
[スタンピード制圧者]
[境界の巫女](隠蔽中)
[解明せし者]
[もふもふマスター]
[中級護法師+++]
[魔法開発者★★]
[若葉裁定者++++]←Up
[聖獣の庇護者]
[通りすがりの医療従事者++]
[新たな神を鎮めし者](隠蔽中)
[異世界人同盟]
[狐の盟友]
[神滅を観測した者]
[魔を威圧せし者]
[調伏せし者]
[海を救いし者]←New!
[海神の友誼を得し者]←New!
[調停者を支えし者]←New!
[内外の仲介者]←New!
ちょ、増えすぎ!!!召喚師のプラスは超級増えたせいだからいいとして、裁定者称号のプラスが一気に二つ増えてるの、何これ!?新規もなんか数が!おかしい!
《その辺はもう今更なのですけど、実は今回称号が増えたタイミングで、隠蔽可能なものがもう一つ増えまして、どれがいいかと。あ、裁定者は相変わらず隠蔽不可です》
今更扱いで色々スルーされましたけども、えーと……海を救いし、一択でしょうこれ。回りまわった結果がたとえそうだったとしても、大袈裟が過ぎるわ!下の二つは神殿関係者以外には意味が判らないでしょうから、大丈夫だと思うんですよね。
《海神の友誼もレア称号なので、港で見られると割とおおごとになりそうですが……でもそうですね、確かに海を救いし、よりはアリですね、地元民にも二人ほど保持者がおられるそうですからね、友誼のほう》
でしょう?なので隠蔽は救う方でお願いします。
……ん?神殿関係者以外には判らんでしょ、と切ったけど、[内外の仲介者]って、これ何の称号なんですかね?レガリオン神関連の称号はその上の調停者よねえ?神殿以外、どころか自分が判らないわ、これ。
《そういえば、何ですかね……詳細が、見えませんね?》
そうなのよ。他の称号は隠蔽中の巫女以外は大抵の場合何で付いたか、と付加効果が何か、が読めるのだけど……ん?あ、効果は読めるわね。隠蔽系の効果をやや増大。隠蔽……あ、あー!ひょっとして、称号名自体も偽装なのね?小月の神様!
それに気付いた瞬間、称号一覧の文字がゆらりと揺らいで、一瞬だけ、[小月の加護]という文字が浮かんで、また元の[内外の仲介者]に戻る。成程、なるほど……
《小月の君に気に入られたのですね……現状だと大変ありがたい事かと》
そうね。ライゼルのあのズボラに発見されるのは、絶対回避したい事案だから、本当にこれは助かる。
小月の神様は名を秘す神だということで、神殿関係者には小月の君と呼ばれているらしい。なんとも雅感があるというか、奥ゆかしい感じの呼び名、いいですねえ。
取りあえず称号絡みは一旦仕舞って……うーん、何かを、忘れている気がするな……?
「ねーちゃん、起きてる?」
サーシャちゃんがパーテーションの端から顔を出す。
「寝てはいないわよ。こたつで寝ると流石に風邪ひきかねないし」
そもそもこの時間からうたた寝すると、夜寝つきが悪くなりそうですしね。
「ああ、起きていたか。連絡鳥がレガリアーナから来ておる。よくもまあ移動する船にまでやってくるものだね、この子等も」
続けて顔を出したランディさんの手の中で、キョトンとした顔からの、あたしを視認した途端ちょっとビビってる連絡鳥さん。はて、技能判定絡みの仕事はきっちり片付けて、忘れ物は特にないはずなんだけど、でもそうだ、なんか忘れてる気は、するんだよね……
ランディさんが連絡筒から出してくれた手紙を受け取る。差出人は、あれ?グランディード公爵家?今回宰相様以外に特に接触しなかったと思うのだけど、と思いながら手紙を開く。
……あ。
「あーあーあー……忘れてた……」
そうじゃん、ヴァルスンドの一人残された姫を確認した方がいいんじゃないかとか、思ってたんじゃん!あれこれあって完全に頭からすっ飛んでた!!!うん、レッゲスト公爵家に会いに行ったら既に帰途に就かれたようで、などと書かれておりましてですね……
とはいえ、流石にここから戻るのは、もうなしだ。既に海路にあって、戻るのは難しい旨を返信するしかなさそうだけれど……
「何の手紙?ヴァルスンド、の……身代わり姫?」
サーシャちゃんが横から手紙を覗き込んで、妙な事を言いだした。身代わり?
「身代わり、とは?このメルマイア姫って元侯爵家の次期当主の妾腹の娘の妹の方、のはずだけど」
恐らく例の翻訳チートが謎現象を起こしているのだろうと推定して、知っている範囲の差出人の情報を述べておく。
「そいつじゃあないな。ただ、ニセモノ、って感じじゃない。あくまでも、身代わりだ。本人に悪意はないし、そもそも多分巻き込まれた側だ。そこを把握したことを明記して、返信してやるのがよさそう、かな」
なんだか前に遺跡に囚われてた人たちからの手紙を呼んだ時より精度が増してませんかねそのチート……?
そこへこれまたやってきて、なになに、と手紙を更にサーシャちゃんの後ろから覗き込んできたのはカナデ君だったんだけど、
「あ、この人治癒師さんだね」
この子もなんか謎方面に精度が増している……?まあそうね、治癒師だというなら、その旨も明言しておけば、保護はして貰えそうよね。
という訳で、言われた通りに文面を作成して、やっぱりあたしが近付くと鳥がビビり散らかすので、ランディさんに頼んで連絡鳥に持たせてもらう。
うん、確かにこうすることで、彼女にとっての最悪の事態は回避できる、そんな感じはする。あとは本物の行方だけど、そちらは今じゃなくても、恐らくは大丈夫、だけど探すだけは探させるべきなのかなあ。そっちは、妙に気が向かないんだけど、何故だろう?
そして連絡鳥をリリースしたランディさんが、何故かじーっとこっちを見ている。
「どうかしました?」
寝てはいないから、顔にヨダレがついたりはしてないはずだけど……
「称号が、一見ですべては見えない状態になっておる……複数、増えたのだな?」
まさかの:称号が増えすぎてスクロール状態、らしい。マジか。いやまあ確かに四つ追加は想定外だけども。
「うむ、恐らく技能上限の低い人間だと、スクロールができないだろうから、下部の三つ?は見えないだろうね……」
隠蔽分を考慮すると、一度に初見で見えるのはニ十個までか……
状況の割にランディさん驚いてないな、と思ったけど、ケンタロウ氏が四十個越えたところで数えるのを止めていたと聞いた。そこまで増える可能性……あるんだろうなあ……
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主人公、やらかさないをやらかす。
今回の連絡鳥さんはランディさんとカーラさんの魔力を覚えていて、その魔力を辿って飛んできています。ちょっとずれても自前の飛翔で追いつきますしね。
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