第198話 自称勇者様の真相?

「いやあ、なんだか今回は驚かせ損ねた感が凄いねえ、はっはっは」

 わざとらしく笑うのは、予想通りこのフラマリアの国神だった、自称勇者様、ことケンタロウ・マツダ・フラマール氏だ。

 うん、神殿に着いてから、ちゃんと名乗っていただきました。ただ、名前を聞いた瞬間、何故かカナデ君とワカバちゃんが固まった。そういえば、この二人はラノベ版しか読んでないから、彼のフルネームまでは知らないんだったっけ?


「そういえば、そちらの漂流者の三人は……懐かしい気配がするねえ?」

 ケンタロウ氏も何やら不思議そうな顔になっている。懐かしい?


「あー……ひょっとして、同世界人、だったのか」

 しばしその様子を観察していたサーシャちゃんが、苦々し気にそう言う。ほう?そんなこともあるのか。


「……松田研多郎さん、なのですか?」

 ワカバちゃんが、文字を想起するように言葉を紡ぐ。器用だな?


「……器用だねえ、漢字が判定できるように話すなんて。確かにその文字で合ってるね。君たちの顔に見覚えはないけども」

 ケンタロウ氏はそう言うと首を傾げる。


「……だろうね、僕らが生まれるよりは、大分前の人のはずだし。僕は、瀧益子奏たきましこ かなでと言います。僕の知っている松田研多郎氏は、僕の母方の大伯父?にあたるみたいです」

「私は御子奈江若葉みこなえ わかばと申します。父方の祖母の戸籍上の従兄、実際にはお兄さんが、松田研多郎氏ですね」

 あら、この子達遠縁同士だったのか。そりゃ知らなかった。

 後で聞いたら本人たちも暇なときに色々話をしていて、その中でも割と最近知った事らしい。偶然って怖いねーって。


「ええ……?マジで?あいつらの……妹たちの子孫で、僕の身内ぃ……?直接の子孫じゃないにしても、そんな偶然ある?」

 神様のいう事ではない気がするけど、まあ確率の問題としては気持ちは判らなくもないな……


「あー、どういう理屈でこの世界に落ちたのかと思ってたけど、二人ともに、こんな強烈な縁者がいたなら、そりゃあ引っ張られるな……?」

 サーシャちゃんの方は逆に納得顔になった。そういや、サーシャちゃんは此処に落ちる前の全ての事情を把握してるっぽいんだったわね。


「ああ、確かにそれは言えるかも。ところで君は?どうも彼らを保護してくれたようではあるけど……何が、あったのかな」

 ケンタロウ氏がそのサーシャちゃんの発言を拾うと、彼女に真面目な顔で向きなおる。


「……世界が、外的要因で崩壊した。追跡は振り切ったはずだから、この世界に直接影響は及ばないと思うが。二人とは偶然一緒に遊んでたから、連れて逃げて来れたんだ」

 あれ、それを今そこでばらすのか。と思ったけど、ふたりは頷いただけだ。ああ、もう話してあるのね。

 それを聞いたケンタロウ氏は、極めて渋い顔に。ランディさんも眉を寄せ、レンビュールさんも、同様に厳しい顔になった。


「ああ、噂には聞いている。時折現れる、世界を丸ごと破壊し、その構成リソースを根こそぎ強奪する輩。世界を奪う者、と仮称しているが。まあこの世界は今の所防衛機構がきちんと働いてくれているので、さほど心配は要らないそうだが……そうか、あの世界は、故郷は、もうないのか……」

 神様間にもある程度横の連絡はないこともないらしい。ケンタロウ氏は、メリエン様の創った防衛機構の事は知っている様子。ひょっとして、神様間の派閥とかあるんだろうか。


「まあ無くなってしまったものは取り戻せないし、そもそも僕はこの世界の神の端くれに加わってしまっているから、この世界を出る訳にもいかないし、今更だね。

 無くなってしまったものを惜しむのは何時でもできるし、ここからは建設的な話をしようか」

 しばし沈痛な面持ちでいたケンタロウ氏は、そう言うとにぱっと笑った。



 まず、異世界人に招待状を送るのは、この世界に到来したものの、この世界自体に馴染めない人を探すのが主目的であるらしい。そういう意味では、今回のあたしたちは全員空振り判定だ。正直、既に馴染み切ってる感が否めない。例のいやだ、の人もその文面だけで大丈夫判定になったそうだ。

 なお馴染めない判定の人はひっそり観察しつつ、目立たぬよう保護して、原因を究明したり、余りにも向いてない人には、それなりに援助や助言をしたりしているようだ。元の世界に返すという選択肢は、彼にも取れないらしい。まあここの創世神のがめつい根性からすればそうだろうな、としか言えないけど。


「まあ、ダメな人は全くダメだったけどねえ。プレイしていたという乙女ゲーからどうしても思考が離れてくれない程度に精神が壊れちゃってた人とかは、僕でもどうにもできなかった」

 うん?なんだか微妙に聞き覚えのある話だわね?


「そいつは結局どうなったんだ?結構前の話っぽく聞こえたけど」

 サーシャちゃんが興味を示す。


「この国を飛び出してからの事は殆ど知らないなあ。もう百年以上前だから、とうに墓の下のはずだけど……最後に目撃証言があったのはオラルディだったかなあ、彼女」

 う わ あ。ひょっとして、アイツか!!!


「……何故君が反応してるんだろう、巫女ちゃん?何か心当たりでもあるのかい?」

 不思議そうに尋ねて来るケンタロウ氏。流石に他国の事件まではご存じないようだ。まあ対外的には、あのヘッセンの邪悪さんの件は、世間に公開した、いわばカバーストーリーでは敢えて触れてないもんな……


「あー、多分、以前某所で討滅したのが、その人の成れの果て、かなって……最終的にデーモン化までいって滅びたんですけど」

 あの件は誓約で詳細に関しては箝口令がですね……場所はぼかして、存在していたことだけなら、ばらすのは大丈夫だろうか?うん、大丈夫っぽい。


「デーモン?出てった時には人の範疇からはみ出してたでもないのに、またごっつい堕ち方したもんだねえ。というか君、デーモン討滅可能なんだ……」

 驚いた顔で、あたしの火力の方に興味を示すケンタロウ氏。


「まあ堕神討滅にも参加した娘だからな、魔力由来の火力は半端ないぞ」

 ランディさんが余計な口を挟む。今その情報って必要?!


「堕神?あー、サンファンのあれかあ!あのヒキニートの代わりに、新しくめっちゃカッコイイ狼神が生まれたって聞いたけど、会えないかなあ?巫女ちゃん繋ぎ取れない?」

 途端に何故かミーハーな事を言い出すケンタロウ氏。キャラぶれてませんか貴方?まあレイクさんが大変カッコイイ銀狼なのは事実ですけども。


「契約してる訳じゃありませんから、普通に手紙を書くくらいしかできませんよ。あと彼は今甥っ子の面倒を見るのに忙しいでしょうから、当分はサンファン国からは出てこないと思います」

 レイクさんの事だから、今頃は真面目にグレンマール王の守護と、甥っ子の世話をしてるに違いない。最初の時こそ、挨拶でもしに行くべきか、なんて考えてはいたようだけど。


「ねーちゃんがやっぱ謎だ……」

 サーシャちゃんがあたしを見てまた謎とか言い出した。でもそういえば、この子達が来てからって、あたし自身も何となくバカンスモードでのんびりしていて、火力自体、見せた覚えがないな……そりゃ謎にもなるか……



 なお、ラノベや伝記での晩年の記述があやふやだったり矛盾してたりする件を思い切って聞いてみたら、わざとだそうだ。人が神に至る、という道をあまり大っぴらにしたくないのが一つ、そして、だからといってその道を完全に閉ざすこともできないのが一つ、だそうだ。

 前者は尊大で人が自分の下に昇ってくるのが許せない性格であろう創世神対策で、後者はその創世神のやらかしで損耗したり欠けたりする神々への対策、ってのが何とも言えないけど。


「まあ正直、この世界の神なんて貧乏籤引いたみたいなものだから、なるもんじゃないと思うけどねえ」

 そうぼやくケンタロウ氏。実際なった方に言われると、実感が違いますね……


「ああそうだ、これを返しておこう」

 ランディさんがおもむろに、何か小さなアイテムを取り出す。ああ、例のディーライアが盗んだ神宝ね。そういえば、ランディさんが持っていたんだったっけ。


「あー、助かる。ランディが回収してくれたとは聞いてたけど、被害にあったりはしなかったかい?」

「いや、発動時には別の場所にいたからな、問題ない。発動者は塩になってしまったし」

 受け取りながら、ランディさんを気遣うケンタロウ氏、端的に答えるランディさん。

 神宝のほうは、ケンタロウ氏の手からふい、と消えた。どこかに転移されたのかな?


「塩、かあ。現地の民があれを起動できただけで、びっくりなのに、塩と化すなんて、ある程度使いこなしてたって事だよねえ。異端審問官って、どうも才能はあるのに、色んな意味で勿体ない人が多いよなあ」

 そう言うと溜息をつくケンタロウ氏。

 とは言うけれど、この世界の異端審問官って、才能はふんだんにあるのに犯罪に手を染めたり、一般では働けないレベルでろくでもない性格だったりする人をガチガチに契約で縛って働かせる職業だから、成り立ち的にそうならざるを得ないのよねえ。


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レイクさんが神化した後の噂で会いたいとか言ってたと聞いてるので、実は別にぶれてはいないという。

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