第113話 一時の別れと新たな出会い。

同時更新の2話目です。新着からの方は一つ前からどうぞ!


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 割とグダグダ感はあるけど、取り合えず最初の目的地は決まった。いきなりサンファン国完全横断は正直草通り越して大草原だけども。


「ルートとしては、このままマッサイトとの国境沿いに海まで出て、そこから海岸沿いに北上する方が無難だろうなあ。間違っても蛇の管理地域には入るべきじゃないし、王都方面に出ると、麒麟は置いていけとか言い出すに決まってるからなあ、あいつら」

 黒鳥がボヤキ半分にルートを決めている。あたしとしては特に異論はない。サンファン国内、黒鳥とカル君以外は多分全然知らないだろうから、ここはお任せするしかないのよね、多分。


「まあそれが無難だろうな。ただ、難民などに遭遇する可能性は高くなりそうだが」

 ランディさんの懸念もまあもっともだ。流石にそこまで関わりだすと、キリがないわよね?


【俺の管理区域は出国希望者はほぼ全員出した後だから、そこまで遭遇はしないと思うぞ。流石に黒鳥んとこの辺りはちと判らんが、この場所辺りを通るよう誘導だけしてくれれば、後はなんとかしてやるよ】

 朱虎氏がそんな風に請け負ってくれたので、少し気は楽になる。


「むしろマッサイト側を通ってけばいいんじゃねえの?どうせ関所があるわけじゃないんだし」

 カル君の意見は、確かにもっともなんだけど、麒麟くんが多分それをよしとしない気がする。

 というか、今日もあたしがモフるまで、境界をぴょこぴょこ縄跳びみたいに飛び跳ねて、行ったり来たりしてたからなあ。


【あんまりくにからはなれるのは、ちょっと】

 お昼寝から起きたところで聞いてみたら、案の定そんな返事。ただ、積極的に王都のほうに向かおうとかそういう感じもしないのよね、謎だ。


【ぼくは、いろいろたりていないから、まだ、みやこには、いけない】

 おお、ちょっと長文が喋れるようになってるじゃないか!昨日までほぼ単語でしか喋ってなかったのに!

 よくできました、と撫でたら、えへー、と嬉しそうにしている。姿は変わっても、そういうところはあんま変わらないね。中身が同じなんだから、当然といえばそうなのだけど。


「急に喋り方が上手になったのは隠蔽が解けたせいなのかね?」

 ランディさんは原因が気になる様子。


「俺と長期間一緒にいたからかも?といっても俺の方はそこまで変化は……ない、よな?」

 自分の状態を言い切ることができない様子の黒鳥。まあそこは仕方がない。


「ん-、今の化身状態になってからは、そこまで大きく変化はしてないと思うけれど。姿と精神年齢が合致してる感が強くなって、違和感なく子供やってるなー、くらい?」

 素直に所感を述べたら、見事にがっくりされた。デスヨネ。



 取りあえずは国境に沿って歩くことになった。麒麟くん、ぴょこぴょこ縄跳びモードで行ったり来たりをしなくちゃならない、らしいのよ。遊んでる訳じゃないんだって。

 フレオネールさんと朱虎氏とは、暫くお別れだ。二人とも麒麟くんを撫でて、別れを惜しんでいた。


【じゃあ済まんが、白狼と麒麟の事、宜しく頼む。本当に、あんたらにはまかせっきりの世話になりっぱなしで、何か、返せるものがあればいいんだが】

 朱虎氏が申し訳なさを全面的に駄々洩れさせつつそう言う。


「お気を付けてどうぞ。この辺りは人気も少ないので、こちらは大丈夫だと思います」

 フレオネールさんは落ち着いた様子。昨日の段階でこの辺りを一通り確認済だそうだ。


「それじゃ、出発しますね、また後日?」

【いってきまあす】

 フレオネールさんはともかく、朱虎氏にもう一度会うのは、なんだか随分先になるような、そんな気がしないでもない。でも、まあ、きっと会うはずだ、そちらは、確信している。



 国境を、麒麟くんがぴょこり、と踏み越えては、またぴょこり、と戻ってくる。

 ずっとそれを続けているので、あたしたちの進むペースは、あまり早くはない。

 本当は化身で人の姿になっているほうが安全な気はするのだけど、幼いままなので、まだ化身はできないそうだし、仮に無理に化身したとしても例の白狼獣人の姿になっちゃうから、危険性に大差がない、そうな。


 マッサイト側で、たまに人に行き会う。たいていはびっくりした顔をされるけど、カル君の顔を見て首を傾げ、ああ、みたいに納得する人が多いんだけどなんだこれ。


「カル君、きみ、めっちゃ顔バレしてないかい?」

 休憩中のアウトドアお茶タイムで、ランディさんがにこやかに問う。


「うーん、俺だと判ってる、って訳じゃなさそうなんだよなあ。知り合いが混ざってたけど、声かけてこなかったもん」

 カル君本人も首を傾げている。どうなのかしら、本当に気付かれていたなら、そのうち接触してきそうよね?

 なんて思っていたら、案の定、グレーの髪に黒い猫耳の獣人の若いお兄さんがやってきた。小一時間ほど前に遭遇してた人だ。おお、尻尾がグレーと黒の縞々だ。


「こんにちはー、お兄さんたち何処まで行くの?」

 おや?想定外の問いかけが来た。いや、不審者未満の扱いなら、そんなもんか。


「我らはこのまま国境沿いに海の方まで出る予定だよ。ほぼ横断だね」

 ランディさんがさっくり行程をばらす。まあマッサイトの人に隠す情報じゃないからね。


「へえ、物好きな。ここらへんはまだ逃亡者が来るから、トラブルにならないよう気を付けてくれよな。もうちょい南まで下っちまえば、その辺は逆にサンファンの方に質の悪いのが出るようになってるから、そっちに注意しな」

 そんな風に忠告してくれた猫獣人さんは、マッサイトの諜報系の軍人さんだった。


「で、やっぱカルっちだよな?イメチェン激しすぎて最初気が付かなかったけど、って今のこの顔ぶれだと、オレどこまでタメっていいの?」

 そしてやっぱりカル君の知り合いだった。っつか仲良さそうな口ぶりですね?


「ぬー、古なじみだとやっぱバレるよなぁ。ああ、俺もう平民だからいつもの口調でいいぞ」

 理由こそ言わないけど、さらっと王族籍離脱をばらすカル君。


「ええ?!なんでまたそんな?って、えっ、もしかして、もうあの飛んでる姿見れねえのそれって?!」

 声の大きさこそ抑えているけど、驚く猫獣人さん。ああ、この人もカル君の龍の飛びっぷりラブ勢か。判る判る。


「飛びたい場所はだいたい飛んじまったしなー、もういいかって」

 心にもない事を言い出すカル君。そうじゃないでしょ?

 最近、ようやっと少しだけ、人の称号が見えるようになってきたのよ。カル君の称号で見えるのは、[スタンピード制圧者]、[アシストマスター]、そして、[スピードスター☆☆☆]、この三つだ。スピードスターはパエトーンに速度勝負で勝たないと付かない、そして、ワールドファースト系称号には、ランクはなくて、条件を複数回満たすと、星が付くのよね。

 ハルマナートを出る直前に、サクシュカさんが変な称号が増えてないかとチェックして、絶句してた。なんで増えてるのって。多分それまで☆二つだったんだな……

 そんなスピード狂が、空を捨てるとか、ほんと君ね……

 余談だけど、この世界、音速を越える生き物はおらんそうな。真龍でも無理だと言ってたので多分、世界としての制限事項の可能性が微レ存?いや流石に生身で音速越えるのは風魔法あってもきっついか……


「またそういう心にもない嘘つく。お前そーゆーとこだぞ」

 案の定、一瞬で嘘だと見抜いてぷんすこする猫獣人さん。なんだか随分付き合いの長い人のようだ。


 お茶を出して、そのまま話を聞いてみたら、この猫獣人のノーティスさんは、なんとカル君とタメで、付き合いも十年以上になる同業の古い顔なじみだそうだ。猫獣人って年齢判りにくいんだよって話は前にフレオネールさんとかに聞いてはいたけど、イードさんより年上だなんて全然見えませんでした。カル君も大概見た目詐欺だけど、ナニコレ類友?となったのは、許して欲しい。

 諜報系の仕事と言っても、友好国同士だと基本は友達付き合いの延長みたいなもんだ、とはノーティスさん談。


「で、そこの黒っぽいちっこいのって、隠し子?」

 そしてやっぱり隠し子ネタを振られて、ぐにゃ、としけたしょっぱい顔になる同顔男子二人でした。もはやお約束になりつつあるわねぇ、いい返しを誰か考えてあげた方が良いかもしれない。


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ついにカーラさんがカル君の称号に気付いた。なお全部は見えていない(あと二つほど隠れてる

龍の王族は一般人より称号も技能も付きやすいよ。多分異界の血のせい。

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