第14話 着せ替え人形の気持ち。
こんにちは、カーラです。今、お城の衣裳部屋にいるの。
うん、質実剛健が旨であっても、衣裳部屋はちゃんと豪華でした。
なにせ、女性王族の数が大変少ないので、余った予算がこの辺に来がちだとかいうそんな話。
と言っても、ここにあるのは所謂国内の服飾店の試作品が殆どなのですって。
つまり、新しい服飾のアイデアや新素材に金を出して、王族自らが試着モデルをやって市場に出せるかどうか検討したり宣伝したりしているという、ある意味色気のあるんだかないんだか、って話でした。
なお年単位だと結構な利益が出ているってんですから本格的ですね?
「カーラちゃん可愛いから何でも似合いそう」
お城専属だという侍女さんとお針子さんを連れてきたサクシュカさんが大変嬉しそうに笑う。美人の笑顔、プライスレス。
なおジャッキーはハイウィンさんに連れられて、聖獣式治癒のお勉強に行きました。
「黒髪ですから、大半の色が選び放題ですわね、羨ましいですわ」
丸い眼鏡をかけた、見た感じ若いお針子さんのほうが、てきぱきとあたしのサイズを測りながら相槌を打っている。
彼女の髪の色は明るい新緑の色なので、なるほど補色系を選ぶと大変なことになりそうな?
「うーん、数年前のサーラメイア様と、今のセミナリューラ様の丁度中間くらいですわねえ。サーラメイア様の昔の御衣裳から当たってみましょうか」
なるほど、そう簡単に合うサイズって訳にはいかないか。
そういえば龍の一族の皆さんって揃って高身長よね。侍女さんとお針子さんは今のあたしよりちょっと小柄だけど。
「サラ姉さまの?お胸のサイズが合わない気がするわ……若い頃は私とほぼ同じ体形でしたもの」
そういえば同腹でも兄弟姉妹って?と思ったら、卵が産まれる段階では同時でも、卵から出てくるまでの個人差が激しいらしい。
イードさんは、とにかく出てくるのが遅くて、完全に男子勢では末っ子認定。
他の人たちはそこまで極端ではないけど、ほぼ同時に出てくることは案外ないのだと言っていた。
卵生種族、奥が深いな。
なおサーラメイア様は女王様の妹で、サクシュカさんの姉。セミナリューラ様は女王様の娘で、一応次女。
今の所後継者候補は一番下のセラフィレイア様、らしい。
移動中にいろんな話をした中に入ってました。王族基礎知識?
邪魔をするのも申し訳ないし、こういう豪華な衣装に縁が微塵もない人生だったから、おとなしくしているあたしです。
いやほんとに、こんなの着て大丈夫かあたし。ちゃんと歩ける気がしないんですがそこのヒールのお高い靴とか。
《いや、もとをただせば私の身体だし、多分なんとかなるんじゃない、かな……ヒールは、ごめんなさい修行の邪魔だっていって全然練習してません……》
シエラ、今その告白は要らなかったと思うのよ。いやまあローファーくらいの靴で妥協させてもらおう、うん。
結局小一時間くらい着せ替え人形になりましたハイ。
最終的に選ばれたのは、淡い黄緑色にこれも明るいコーラルピンクの差し色の入った、シンプルな、でもスカート周りや袖口はふわっとしたドレス。
コルセットはこの国では一般的ではないということで、割と楽に着られるタイプでした。ああよかった。
というか、ここにある衣装の中では、かなり近代的な型紙を感じる服ですね、相変わらずマキシ丈だけど。
靴はサイズの合うのがローファーしかなかった。ハイヒールはこれも南部諸国ではあまり一般的ではないらしい。
「これねえ、作った当時はあんまり売れなかったのよ、時代を先取りしすぎたらしくて」
サクシュカさんがあたしが着せられた衣装の肩先をつまんで苦笑い。まあそりゃあ、毎度毎度なんでもかんでも大ヒット、とはいかないわよね。
それでもここの王族の支援する服飾店は外れが少ないことで有名なんだそうだけど。
「ああでも、そろそろ売り時かもしれませんねえ、このシンプルなライン」
お針子さんがそう言いながら、細かい部分をあたしの身体に合わせていく。
結局胸のサイズのほうに合わせて、他を詰める感じになりました。いや人としては標準的な感じで、多分そこまで大きくはないんですけどね?
うん、龍の王族の皆さん、お胸は皆さん基本ささやかなんだって。普通の人と違って赤ちゃんで生まれないし、お乳もあげないからじゃないかなーって言ってたけど。
あれ?じゃあなんであたしのお胸サイズにあった衣装が?と、思ってたら、答えがどたばたとやってきました。
「サクシュカー、お客様にわたくしの昔の服ってきゃあああかわいいいいい!」
なんだか、とってもふくよかな奥様?おねえさま?が現れました。もしかして:サーラメイア様?
サクシュカさんより、大分年上に見えるなあ。
「サラ姉さま、落ち着いて、はしたなくてよ?カーラちゃんがびっくりしちゃうじゃない」
サクシュカさんが窘めているところをみるに、やはりこれがサーラメイア様でいいらしい。
なんというか、ふくよかな、というか、ふっくらした体形、甘やかなピンクゴールドの髪にペリドットのような若草色の瞳。可愛らしい方、というのが第一印象だ。
「あらあらごめんなさいね。わたくしサクシュカリアの姉でサーラメイアと申しますの。ちょっとみっともない姿で申し訳ないのですけど。
なんでも今回はサクシュカが大変お世話になったとか。ありがとうございます」
にこにこと挨拶された。うん、喋ってるとこも可愛らしいわこの方。っつかサクシュカさんその名前って略称だったの!?
でもみっともない姿って?可愛いとしか思わないのだけども。
……いやもう前世の自分がガリッガリだったから、ふっくらした人見ると羨ましさのほうが先に立つと申しますか。
「はじめまして、カーラと申します。
年上の方にこんなこと言うのは失礼かもしれませんけれど、サーラメイア様はとっても可愛らしくて素敵な方だと思いますわ。あと、私、改めてお礼を言われるほどの事をした実感というのも、まだあまりないのですけど」
どっちかというとやらかした!という意識のほうが強いのです、ええ。
「いやいやいや、それは謙遜が過ぎるってものよ?あとサラ姉さまが可愛いには同意しかないわね!
ああでも、実感がない、は判らなくもないか。そもそもあなた、私たちの戦い、初めて見たんですものね……
でも正直あなたがいなかったら、私は今回帰れたかどうか、判らなかったわ。エンブロイズはまだしも」
後半は真剣な顔で言うサクシュカさん。確かに、今回見たなかで、一番大きな怪我をしたのは彼女だろう。
でも。
気のせいだと思いたいけど、一番ダメージが蓄積されていたの、マグナスレイン様ではないだろうか。
怪我は確かに全くされてなかったけど、なんか、今思い返すと、あの方だけ瘴気っぽいものをまともに受けてた気がするのよね……
「そんな大変なことになっていたの?サクシュカですらそうだというと、マグナ兄上は大丈夫なの?無事お戻りなのは聞いておりますけれど、龍から戻ったところを誰か見ていて?」
サーラメイア様が心配そうな顔になってそんなことを言い出した。
「……いいえ、確か兄上はそのまま裏手の森に向かわれたような」
サクシュカさんが固い顔でそういうので、あたしも頷く。
「サクシュカ、裏の森に行きましょう。マグナ兄上をそのままにしておいてはいけないわ」
真剣な顔のサーラメイア様。
「そうね。ああ、そうだわ、カーラちゃんも一緒に来てもらいましょう。私より治癒の力が強いのよ、彼女」
治癒が強いというか、アホみたいな魔力でごり押ししてるだけですけどね、まあ今は言わなくていいか。
取り合えず様子を見に行こうというおふたりに、あたしも付き合うことにしましたよ。
うん、今置いていかれると、絶対迷子になるからね……
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