第7話 もふもふ兎さんと一緒。
今御厄介になっている城塞に住んでいるのは、イードさんと庭師の片方のひと、もう一人の庭師さんと洗濯とかしてくれるおばさまは通いだ。
結構広い城塞なんだけど、他のスペースには、イードさんと仲の良い、聖獣と呼ばれる、魔力と知性の高い存在や、そうまでいかなくても人間族に好意的な獣が、割と好き勝手に出入りしている。その筆頭がハイウィンさん。
聖獣でも魔力が特に高いと、ヒト型にもなれるけど、あくまでも仮の姿、変装のようなもの。人間族との間に血を残すなんて無茶やれるのは龍くらい、らしい。
ややこしいことに、この人間族というカテゴリには、獣人族というケモミミ勢なんかも含まれる。いるんですってよ、獣人。
そして、龍化するこの国の王族は、聖獣でも獣人族でもない。うん、訳が判るようで、判らん。
ご先祖の龍の人が、なんか今この世界にいる龍とは別物だったんじゃないか、という説が濃厚だそうだけれど。
部屋に引きこもって勉強してばかりでも、肩がこる。というわけで、時々城塞の中を散策するのだけど。
なんでかな、気が付くと獣の皆さんがそばに居る。
監視されてるわけではない。ただ傍にいて、たまに触らせてもくれる。だいたいみんな毛並みが大変良いので、短時間ながら至福のもふもふタイムを堪能できたりする。
住み込みの庭師さんのほうが、獣たちのブラッシングが趣味になっちゃったそうなんだけど、最近はあたしもたまにそれを手伝うようになったので、獣の皆さんとの距離が更に縮まりつつある。
ええ、至福のひと時過ぎて、段々かける時間が長くなってます。自重?知らない子ですね。
本日は、アルミラージという角の生えた大き目のウサギさん風の聖獣さん?をブラシがけしております。ふっかふかになるんだよ君たち。
二本の短かい角がそれぞれ二股になった白兎の子と、ユニコーンめいた真っ直ぐな一本角の茶兎の子がいて、どちらも身体はふかふかのふわふわだ。
《二本角のアルミラージなんているんですね……》
シエラが知らなかった、という声。
二本角ねえ。幻獣というよりUMAだった気がするけど、ジャッカロープだったりしないんだろうか。
(おう、そうだぜ、なんかごっちゃにされてっけど)
え?なに?
(おれおれ、二本角のほう。アルミラージじゃなくて、ジャッカロープ幼体なんだわおれ。なんか、気が付いたら知らんとこにいて、1本角の連中に混ぜて貰ってるけどさ)
《声じゃないけど、声がする?あ、これか、〈動物意思疎通〉ってスキルがありますね》
あー、そういえばなんか希望してないのにスキル一つ付けるとか、召喚時に言われたな?それがそうなのかしら。
(へえ、意思疎通スキルなのか、だったら言葉を認識してない連中にも言うこと聞いてもらったりできそうだな、便利そうだな)
(わかるのかー。じゃあおしりのとこ、もうちょっとごしごししてー)
ちょっと眠たそうな声が割り込んでくる。こっちがアルミラージの子かな。言われた通り、おしりのあたりにブラシを。
(わあ、つうじたー。そうそう、そのへん、ありがとー)
それにしても、伝わってくる言葉に、随分違いがあるような。
(おれは転生者でもあるからな、といっても転生前も人間じゃあないし、記憶はもうほとんど残ってないけど。ジャッキーって呼んでくれ。おれの名だ)
(あたしー、なまえほしー。まだないのー)
《聖獣候補に名前を付けられるって滅多にないことですよ。あちらの希望ですし、ぜひつけてあげてください。決めたら、声に出して呼んであげてくださいね》
シエラもそんな風に後押ししてくれたので、名前をあげることにした。
そうね、アルミラージのあなたには、ミモザ。黄色い花の名前よ。どう?
(わあい、それがいいわー)
「わかったわ、あなたは、ミモザ。よろしくね?」
(よろしくなのー)
声に出したところで、何かふわっとしたものがあたしから抜けて、ミモザに吸い込まれたような?
《名付けで魔力がリンクしたのよ。初めから名のあるものの名を聞くより、繋がりが強くなるから、意思疎通しやすくなるわね》
「え、嬢ちゃん、そいつに名前付けちまったのか」
隣で大きな山猫のブラッシングをしていた茶髪のおじさん(いや、髭こそ生やしてるけど、まだ結構若い、マッシブなあんちゃん、のほうが正しい気がするけど)がびっくり顔。
「え?あら、許可が必要だったり、しました?この子が名前が欲しいというから、ついあげてしまったのだけど」
やっべ、そういえばここの子はもともとイードさんに惹かれて来てる子たちじゃなかったっけ。
「まじかー。ああいや、名前を幻獣のほうから求めてきたんなら、報告だけイード様にしてもらえば、それでいいはずだ」
名前が今の段階で付いていない子は、来てはみたものの、イードさんを何かの理由で気に入らなかった子だから、横から奪ったとかそんな話にはならないそうだ。
ジャッキーはどうなのかしら?
(おれの名は転生前の名前がそのまんま今の名前さ。たまにそういうこともあるんだってよ)
(めったにないよお。あるみらだと、あたしのひいおばーちゃんがそうだったくらい?)
こてん、と仰向けになりながら、ミモザが教えてくれたけど、なるほどなあ。世の中は奥が深い。
もちろんおなかも念入りにブラッシングいたしました。全身ふっかふかよ!
「ほう?あのアルミラージに名を?」
報告したら、イードさんが興味深げな顔になった。
「ええ、名前が欲しいって言われたので、つい。名は教えても大丈夫なのかしら?」
「いや、それは言わなくていい。名を持つものから直接聞くのでなければ、意味がないのだよ」
なるほどなあ、召喚術関係でそうなるんだろうけど、奥が深い。
「……って何?名をまだ持たぬ、どころかまだ言葉を発さぬアルミラージと会話をした?どういうことだ」
あれ、妙なところでイードさんが引っかかったぞ?
「あれ、言葉を理解する幻獣なら普通にお話できる、とかじゃないんで……すね……?」
途中でイードさんが目ん玉ひん剥いてなんだそれは!という顔になったので。語尾がすぼんだ。その顔ちょっと怖いよ!イケメンが台無しよ!?
結局、そういうスキルを持ってると白状させられました。ははは。
普通は幻獣側にせよ人間側にせよ、言葉を話せるようになってから、なんだそうだ。
「〈動物意思疎通〉、だと……スキル持ち自体が比較的珍しいというのに、文献にもないスキルじゃないか……そなた、召喚師になるべく生まれてきたようなスキルと魔力を持っておるとは……」
何とも言えない目で見られています、なう。
これはあれか、羨望のまなざしってやつかしら?まあ、向いてる先はあたし本人じゃなくて、あたしの出所微妙なスキルの方だけど。
それでも召喚師やらないか、とかは言わないのねえ。
なんとなく、言い出しそうなタイプなんだけども。
「ところでモイよ、何故勧誘せんのじゃ?召喚師としての才能は十二分にあろうに。追い越されるのが嫌などというまいな?」
あっ、ハイウィンさんが言ってしまった。いや別に勧誘されたいわけじゃないわよあたし?
「勧誘?何故そんな必要が?国内には召喚師の手は充分足りておろうし、そもそもカーラどのは召喚師を目指しているわけでもなかろう?」
不思議そうな顔でイードさんがそう返す。
「スキルは確かに召喚師に向いておるし、莫大な魔力を持つというのも良い事ではあるが、別にだからといって召喚師でなくてはならぬ、というものでもあるまい。むしろ、その魔力を生かすなら、治癒師や巫女などのほうが余程向いておろうよ。
少なくとも世界内召喚には、たとえ真龍族を呼ぶとしても、これほどの魔力は必要ない故なあ」
つまり、世界の外からものを呼ぶには、それなりに余計な魔力を使う、ということか。
でもこの世界は召喚で他所から持ってくるのはもう要らない、みたいなことも前に言っていたものね。
「まあ趣味でアルミラージあたりを呼び出して一緒に遊ぶ程度なら、手ほどきはしても良いぞ。ハイウィンを呼べるなら護衛にもなろうしな」
教えたくない訳ではなかったようで、そんな提案をされました。もちろん乗ったわよ。
ミモザとジャッキーを任意で呼び出してもふれるとか、そんな楽しそうな話に乗らない訳ないじゃない!
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