召喚乙女は無双したくない? ~知識チートが役立たず?もふもふとのんびりしたいので一向に構いませーん。

うしさん@似非南国

第1部 ハルマナート国編

第1話 落ちる。

「だあああああああああれかあああああああああああああああ!たすけろおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 現在のあたし、落下中。取り合えず声を限りに叫ぶのは、救助要請。断じて、悲鳴ではない!


 この状況で無意味な音声でしかない悲鳴なんて上げてても、なんにもならない。それよりとにかく助けを呼ぶんだ、けど。


 これあたし、どこからどこへ落ちてるの?!

 見えるのは、ただただ、明るい空の色。雲一つない、いい天気ですね?ちゃうわ!!!


 ただひたすら、真っ逆さまに空から落ちていくあたし。これなんて死亡フラグ?いやこれフラグじゃないわ、普通に生命の危機だわ!

 なんであたしがこんな目に合わなきゃいけないのよ!?



 頭の下にはまだ、雲しか見えない。今のうちに、何があったか、思い出そうとしてみる。これは走馬灯ではない、断じて。


 今日のあたしは、気分が余り宜しくなかった。

 まあそりゃそうだ。死病に侵され余命いくばくもない、って奴だもの。この半年くらいは、だいたい毎日、気分も体調もどん底だ。

 まだ歩けるだけ、ましだけれど。

 自棄を起こして、到底うまくいかなさそうな延命プロジェクトの被験者なんてのもやったら、逆に寿命が縮むような目に遭ったし。

 いやまあ、一部の技術は、あたしの不自由になった体のあちこちの部分を補ってくれているから、全面的に失敗したというほどでもない、はずなのだけど。プロジェクトは先日凍結が発表されてしまった。まあ、あの死にそうな目にあって、あの効果じゃ、実際実用には程遠いな、なんて素人でも思う出来だったからね……


 気分転換に、病院の屋上に出て、手すりに手をかける。別に飛び降りたりじゃなくて、単に身体を支えたいだけよ?

 すっかり痩せ衰えた自分の腕が視界に入ってしまって、ちょっと気が滅入るけれど、眺め自体はまあまあいい。

 といっても、この都市の風景は何割かがホログラフィだ。この都市に、自然なんてものはほとんどない。医療特化の研究都市だからねえ。

 それでも多い時には一千万都市だったというから、大したものよね。まあ最近は人口がだいぶ減ってるというけれど。


 眼下には、大きな池、これもホログラフィ。実際には落下事故の際の救命設備なんかが隠されている。ので、仮に落ちても、まず死ぬことはないんだけども。


 この時代、各種技術は大きく進歩していたけど、それでもあたしの病気は治せないものだった。

 まあ、あたしが死んで困るのはあたしだけだ。家族なんて、とうにいない。皆、同じ病であたしより先に死んでしまった。

 伝染性ではないし、更に遺伝性はないとは言っていたけど、正直後者は怪しいよね。


 そろそろ夕方、流石に病院の患者用の寝間着じゃ、ちょっと気温が低い。そろそろ諦めて部屋に戻るか、というところで、事件は起こった。


 どかん、ばりばり、とかそんな音だったと思う。

 あたしのいた位置の、真下の階から炎と、煙。


 そして崩れる屋上。放り出されたあたし。


 天地が逆さまになった状態で見たのは、ほぼ中央あたりから真っ二つに破壊された、病院の建物。

 どこかで、テロリストが、なんて声がしたような気もする。


 まあこの位置なら池の救助システムに落ちるから問題ないだろうと思っていたんだけれど。


 突然あたしの周囲が、強い光を放つ。なんだこれ、暇つぶしに調べたことはあるけど、そんなびっくりシステムだったっけ、あれ?

 と思っている間もなく、とぷん、と、何か、水面のようなものを通り抜ける感触。


 そして、意識が暗転したかと思ったら。



〈――召喚者、確保。記録魔法付与:当世界に不要なパーツ保持――魔力に変換します。健康状態:不良。相応しい身体条件検索:合致一、コンバート実行。希望スキルを一つ付与できます。

 ――スキル付与完了しました。――エラー。魔力反応過剰。エラー。緊急リリースします〉



 そんな声が聞こえたような、耳で聞いてはいなかった、ような?希望スキル?いや待って、あたしなんも希望してないけど?

 そして、リリースという単語にん?と思ったところで、空中に放り出された、と、いう次第なわけよ。

 回想終わり。うん、ちゃんと覚えていたわ、多分、要らんことまで。


 それにしてもどこまで落ちているんだ。いい加減地上が、いや今見えたらあたし死にますね、できれば、助けが来るまで落ちていたい?


 流石に混乱してきた頭で、じゃあもっかい叫ぼうか、と思ったら、ぶわりと下の方から強風が吹きあげて、あたしの身体を持ち上げた。

 おおう、本当に助けが?!と思ったところで、ぼすっ!と何かの上に落ちた。


 なんだろうこれ、すごくもこふわしているわね。

 身体を起こす。あれ、落ちている最中はそれどころじゃなくて気付いていなかったけど、あの常時付きまとっていただるさと痛みが、ない。

 それに、腕が全然細くない。いや、これって女子の平均的な細さかな。あと着てるものが、なんか違うな?何年も履いてないスカートが視界をひらひらしてたわ、そういえば。

 おまけに、落下中に、そして今手元に見える髪の毛。あたしは癖のある黒髪のベリーショートのはずだけど、綺麗な亜麻色の、緩くウェーブがかかった長髪だ。


 そして、顔を上げて判ったことだけど。

 あたしが落下した先は、でっかい、推定グリフィンの背中の上、でした。グリフィンなんて小説や漫画、あと紋章学でしか見たことないけども。

 白頭鷲のような頭から、背中の中程まで、ふわふわした羽根が鬣のように続いていて、あたしが落っこちたのはその丁度真ん中へんだ。

 顔を上げると、身体を覆う外側の羽根から、頭だけが出る。その下は、ふわふわの綿毛のような羽毛だ。ああ、暖かいなあ。

 空を落ちるのって、結構冷えるんだなって、その時初めて気が付いた。


(ヒトの子よ、怪我はないか?落ちた折に、痛くはなかったか?)

 女性の優しい、なんだか不思議な声がする。多分、このグリフィンさんだ。直感的に、そう思った。

「大丈夫、突風に持ち上げられてたし、羽根がふわふわだから、痛くはなかったよ。ありがとう」

 ちゃんとお礼を言わなきゃね。でも、言葉通じてるかなあ。あたしが理解できてるんだから、大丈夫だと思うけど。


(よいよい、そなたの叫び声が聞こえた故、飛んできたが、間に合ってよかった。この下に落ちるのは、大変まずいからの)

 なんでも、この下は魔物しかいない大森林で、人食いと言われるタチの悪いやつの巣窟になっているらしい。うわあ。


(しかし、そなたなんでこんな場所に落ちてきたのじゃ?強い魔力は感じるが、空を飛べるというわけでもなかろうに)

 グリフィンさんの疑問ももっともだけれど、魔力?そんなものあたしにあったっけ?

 あ、そういえば落ちる時になんか変な声が、なにかを魔力に変換しますって言ってた、ような。


「魔力は良く判らないけど、なんか召喚されて、空中に放り出されたっぽい?そんな無責任なもんだっけ、召喚って」

 ぶっちゃけ、病床で暇つぶしに読んでいた小説や漫画でしか、そんな事例は知らないけど。魔法なんて、絵物語でしょ、というのが、あたしがいた世界のはずだ。


〈検索:召喚/325件の文書が該当。一覧を表示しますか?〉


 突然脳裡に響く、無機質な声。なんだこれは。取り合えず数が多すぎじゃないですかね。今は表示は、なしで。


(そなた、妙な魔法がかかっておると思ったら、被召喚者か。いずれかは知らぬが、愚かしい者どもの国よ、懲りぬことだ)

 お?なんか情報の気配。


「おねーさんは召喚のこと知ってるの?懲りないって、悪質系?」

(ほほ、この年でおねえさんなどと呼ばれる日が来ようとは。気に入った。我はハイウィンドブラスト、グリフィン族の、今は女首長よ。名を覚えておくがよいよ。召喚に関しては、ほれ、今もう着く場所がある故、そこで聞くほうが早かろう。専門家がおるでの)


 おねーさんことハイウィンドブラスト女史に言われて前を見る。高い塔、広い庭。お城、ですかね?いや、城壁が凄くがっしりしている。これは、城塞だわ。

「専門家?」

(うむ、我も親しくしておるヒトの召喚術師よ。召喚術師と言うても、我らのような聖獣専門で、異界びとの召喚は禁止すべきと常々説いておるもの故、案ずることはないぞ)


 これは、随分ややこしい世界に連れてこられちゃった気配、ですね?

 まあ、何も判らないことだし、当面はこの気のいい聖獣さん、グリフィンおねーさんと、そのお友達に頼るとしましょうか。

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