エレメントブレイヴ4 ~新作死にゲーに閉じ込められて、困ってます~

白銀悠一

第0話 イントロダクション

 豪華絢爛な城内で、戦闘が繰り広げられていた。

 銀の鎧を装備するベージュ髪の少女が、多数の兵士と戦っている。


「どりゃあ!」


 気合の掛け声と共に、鈍器が振るわれる。

 銀色のメイスが煌めく。兵士の身体が宙を舞う。


「いい調子だな、フミカ!」

「カリナもね!」


 別の少女が笑いかけた。

 金髪の、魔法少女を意識したような風体の少女だ。

 緑のハットとドレスが特徴的。杖で炎を描いて、兵士を燃やしている。


「こんなところで、いちいち死んでられないし!」

「全くだ!」


 魔法少女は鎧の少女と背中合わせとなり、敵の大群へ炎を浴びせる。

 しかしあまりの数に、魔法が追い付かない。

 やべえ、と焦った瞬間、破竹の勢いで誰かが集団を薙ぎ払った。

 

 その剣技の主には心当たりがある。

 軽装の、騎士然とした青いポニーテールの少女だ。

 青色の騎士帽子を被り、サーコートを纏っている。


「雑兵にかかずらってる暇はない」

「雑兵って……それはあんたがそう思ってるだけだろ」


 呆れる魔法少女に、鎧の少女は同意する。


「雑魚だと思ってるのは、ナギサさんくらいですよ」


 騎士少女は血に塗れた刀を振り払い、現れた増援と対峙する。

 凄まじい剣圧だ。

 一撃受けたら即死だというのに、意に介さず兵士を斬っては捨てていく。

 

「フミカ、後ろだ!」

「うおっと!」


 鎧の少女に、大男が棍棒を振り下ろす。咄嗟に盾を構えて防いだ。

 ダメージは免れたが、スタミナ切れを起こしてしまう。

 直撃を受ければ死は避けられない。


「まずいっ!」


 天高く棍棒を掲げた大男は、


「グギャガッ」


 悲鳴を上げて、斃れる。巨体の背後にいた赤髪の少女の姿が見えた。


「油断は禁物、ですわ」

「ヨアケさん!」


 暗殺者のような印象を覚える少女だ。

 純白のフードを被り、鋭利なナイフを所持している。


「わたくしの見立てでは、そろそろ頃合いかと思います。フミカさんは、どう思いますか?」

「私もそう思います……!」


 頷いた直後、足音が響いた。

 リズムは軽快だが、一歩一歩が重く聞こえる。

 

 雑兵は掃討した。

 メインディッシュの時間だ。

 

 四方向から、四つの人影が姿を晒す。

 黄金の鎧を着込んだ風貌で、一目で騎士とわかる。

 

 その異形ぶりも。

 頭部が人の形をしていない。

 花が咲いていた。赤い、バラのような花が。


「あの人の仕業でしょうか?」

「そうかもしれません……!」

「考察は後にしとけ! ボス戦だぞ!」


 魔法少女に言われて、戦意を高める。

 視界の上部に、ボスのライフとスタミナゲージが表示された。

 花頭の騎士が、四人の少女に向かってくる。

 

 メイス、杖、刀、ナイフ。

 それぞれの得物と、剣と盾を持つ騎士が対峙する。

 

 魔法少女は、剣戟を避けて火炎放射を浴びせた。

 暗殺少女は敵の背後へ回り込み、その背中へナイフを突き立てる。

 騎士少女は卓越していた。敵の攻撃へと難なくカウンターを合わせ、ダウンしたところへ追撃。

 その花を両断した。

 

 鎧の少女は剣を盾で防ぎ、メイスで反撃。

 真正面から戦いを挑んだが、騎士の方がステータスはあらゆる面で上だ。

 防御の合間を縫って斬られ、ライフが半分になってしまう。


「回復しないと……!」


 騎士から距離を取って、回復用の瓶を取り出した。

 黒糖のような液体を飲む隙を、騎士が見逃すはずもなく、


「なんて、ね!」


 放たれた突きを少女がシールドで弾く。怯んだところをメイスで追撃。

 少女は知っていた。シリーズ経験者ゆえに。

 回復しようとするプレイヤーを、猛追する仕様だということを。

 

 スタミナがゼロになった騎士が膝をつく。その足をメイスですくった。

 仰向けに倒れた騎士の前に立ち、両手でメイスを握りしめる。


「うおおおッ!」


 メイスの輝きが増した。眩い光を纏った鎚矛で、花頭を殴打する。

 光が炸裂し、少女と騎士を覆う。

 後に残っていたのは、騎士の死体。

 それと、ピースサインを作る少女だった。


「いぇい」

「やったな、フミカ!」

「カリナもね! すごかったよ。かなり上達したんじゃない?」

「ま、まぁな。だって、お前のためでも、あるんだし……」

「ん? なんて? ちゃんと喋ってくれないと聞こえないよ?」


 小声で呟き、頬を染める魔法少女。

 その顔を鎧の少女が覗き込んできて、逃げるように顔を逸らす。

 片や騎士少女と暗殺少女がお互いを称え合っていた。


「流石は、ヨアケだ。強敵を前に、物ともしない」

「いえいえ、ナギサこそ。あなたは本当に素晴らしいですわ。やはりあなたは、格別です」

「君のためならばな」


 心なしか、キラキラしたエフェクトが見えるかのように錯覚する。

 勝利の喜びを分かち合う四人の傍に、小さな影がそっと飛び寄る。

 物陰から様子を窺っていた、銀髪の妖精だ。


「終わったみたいだね」

「ミリル、どこにいたの?」


 鎧の少女に妖精が応える。


「柱の陰に隠れてたよ」

「お前もちょっとは手伝えよな」

「それは本末転倒だし」


 意味深に笑う妖精。彼女は階段の先を示す。


「行くんでしょ?」

「そうだね」


 少女たちも階段を見上げる。

 その先にある、花の意匠が施された分厚い大扉を。


「行こう、みんな!」


 鎧の少女の一声に、皆が頷いた。

 その様子を、一歩離れて妖精は見守る。


「悲願の成就まで、後少し……。ふふ、ふふふふっ」


 邪悪な表情の妖精に、気付く様子もなく。

 少女たちは、階段を進む。

 ゲームをクリアするべく、一段一段、駆けていく。



 

 アルタフェルド王国は、楔の力によって外敵を討ち払った。

 楔の祝福を享受して、栄耀栄華を極めたのだ。

 

 しかし、その繁栄に陰りが生じた。

 心は壊れ、身体が狂い、魂は囚われた。

 かの者は告げた。楔を壊さねばならないと。

 

 さもなくば。

 囚われたまま、朽ちるだろう。

 勇気を持って、応じたまえ。

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