第24話 決戦の日

長いような短いような二週間が過ぎ、いよいよテストの日を迎える。

俺は早めの睡眠を取り目は冴えていたが過去一番テストで緊張していた。

いつもより少し早めに起きてテスト範囲の復習を軽くしつつ準備をする。

そして準備が終えるといつも通り家を出て電車に乗った。


(やれることは全部やった……朱里さんにも合格点はもらえている……あとは本番で自分の力を出すだけだ)


昨日の復習は朱里さんの家でやらせてもらったがそのときに10位以内なら全然狙えるとの評価は貰った。

だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。

何かやっていないと落ち着かないため今日の科目の教科書を開き僅かな時間も復習していく。

だが教科書を見て『あれ?これなんだっけ?』と思う場所は無く安心する。

朱里さんの教え方すごく上手かったからなぁ……


俺は電車を降りていつもの待ち合わせ場所に向かう。

そこにはもう朱里さんが立っていて俺を見つけると笑顔を浮かべて小さく手を振ってくれる。

俺は小走りで駆け寄った。


「おはよう、朱里さん」


「おはよう、翔吾くん。昨日はよく眠れた?」


「一応ね。今すっごく緊張してるけど」


「ふふ、大丈夫だよ。いつも通りの実力が発揮できれば絶対にいい点数取れるよ。私が保証する」


「それは頼もしいよ」


俺達は顔を見合わせて笑い合う。

そしてどちらからともなく学校に向かって歩き出した。

学校につくまでの間朱里さんが問題を出してくれる。


「うーん……それじゃあsincerelyの意味は?」


「敬具、だよね」


「正解!良い正答率だね〜!ちゃんと覚えられてるよ」


朱里さんはニコッと笑った。

単語はカッコ付けの穴埋めで出る可能性があるため覚えておかないといけない。

1問の配点は低くても10問出れば10点だ。

満点が9割というのはかなり厳しいし逆に言えば出るとわかってるんだから勉強しておけば10点プラスは確実でやらない手はなかった。


「英本文の意味は覚えてきた?あれを覚えてないとテストで時間なくなっちゃうし正答率もぐんと上がるよ」


「昨日寝る前に3周してきた」


「流石だね。翔吾くん」


「朱里先生の教育の賜物だよ」


俺は苦笑する。

本当に朱里さんはいろんなことを知っていた。

冷静に考えればわかることだったんだろうけど今まで俺はとにかく範囲の勉強さえすればなんでもいいと思っていた。

でも違って勉強に頭を使うのではなく勉強法に頭を使うのだ。

効率良く勉強しないと結局身につかずにただの自己満足になってしまうのだから。


「えへへ……私も勉強は頑張らなくちゃだもの。中学校では勉強法たくさん考えたなぁ……」


ただ、それでもやはり俺の緊張は完全には消えてくれない。

どれだけ頑張っても人の本質は変わらない。

小心者で臆病な俺はまだ心の中に確かに存在しているのだ。

自然と手が震える。


(大丈夫だって言ってんだろ……!全部頭の中に入ってんだからそこから引っ張り出してくればいいだけだ……!)


自分を叱咤する。

そんなときだった。

俺の左手が温もりに包まれる。

見ると朱里さんが優しい笑顔をたたえながら俺の手を握っている。


「あ……」


「どう?落ち着いた?」


さっきまでざわめいていた心が落ち着いていく。

手のぬくもりが体の全体に染み渡っていくような心地だった。


「ありがとう。大丈夫だよ」


「そっか。じゃあテスト一緒に頑張ろうね!」


俺は大きく頷くと朱里さんはニコッと笑った。


◇◆◇


俺と朱里さんは手を繋いだまま教室に入った。

クラス中に勝負のことは知れ渡っていたので視線が集まる。


「よう、朱里」


もう既に教室に来ていた音取がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら話しかけてくる。

朱里さんの表情が厳しいものに変わりキッと睨む。


「だから名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」


「別にいいじゃねえか。テストが終わった頃には俺の彼女になってるんだからよ」


「そんなことになってないもん。私は翔吾くんの彼女のままだから」


バチバチと二人の間に火花が散っているような気がする。

視線を外した音取が俺の方を見てくる。


「おう、陰キャ。てめえ負ける準備はしてきたのかよ」


もう十分に朱里さんから勇気はもらった。

さっきまでの震えももうない。

朱里さんが戦う意思を示したのに俺はおろおろする、そんなことは絶対にできなかった。


「負けるために準備してきたわけねえだろ。このヤリ◯ン野郎が」


俺が精一杯睨みつけると音取の表情が余裕のある舐めたものから怒りへと変わる。

胸ぐらを掴んでくるが恐怖は感じない。


「あぁん?あんまり舐めたこと言ってんじゃねぇぞ?」


「暴力で訴えるのか?勝負方法は試験の点数だって言うのに。本当に意識が下半身にしかない猿だな」


俺がそこまで言い切ると音取は自分の席に戻っていった。

朱里さんがすぐに駆け寄ってくる。


「もう……!事実だからってあんまり挑発しちゃだめでしょ?」


朱里さんは俺の崩れたネクタイを優しく直しながらそう言う。

口調は穏やかだがなかなかひどいことを言っていて吹き出しかけた。


さぁ……勝負の4日間だ……!


────────────────────

翔吾のキャラが崩れすぎないレベルで頑張って精一杯の悪口言ってみた。

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