世界の理

聖女とは初めから聖女ではない


この国には聖女が生まれることが度々ある。


聖女はこの世界に瘴気が増え、世界の均等が危うくなると生まれる存在である。


『さてレントよ。この聖女だが…あまりにもこの世界に都合がいい存在だと思わないか?』





「はっ!」

俺が目を覚ますと神殿長が書類仕事をしている姿が見えた。


「…頭いてぇわ、何か吹っ飛ばされたんだが。」


俺がそう言いながらソファーから身を起こすと、書類に目を向けていた神殿長が俺の方を向いた。


「レント。お前は知っているか?今この世界の均等は崩れ、危うい状態になっていることを」


「はぁ?意味深なこといわれてもわかんねーんだけど」


「私が昔言った事を覚えているか?聖女についてだ。」


「あー…あぁ?この世界に都合がいいってやつ…か?」


「そうだ。私達だけに都合のいい存在などいないのだよ」


「…どう言う意味だよ。」


「聖女は◯◯であるために、この世界の理から外れたものである。」


「なんだ?なんて言った?」


「レント。お前はもう気づいていいはずだ。お前はもう…起きたほうがいい。」






この国には聖女が産まれる。聖女とは天から授かった娘であり、その出自も分からない娘である。


天から授かった聖女は天の知識を持ち国を豊かにもする。


傷ついたものを癒し、人の心の内を見ることができ、先に起こりうる天災を予言する。


聖女とは誰に教えられる事もなくそう言った知識を持っている者である。



さて、聖女とはそれだけを聞くとまさに天からつかわされた、神の使いだと思うだろうがその認識は違う。


聖女とは初代国王がつけた名称なだけなのだ。



聖女とは王国と神殿で誓約を誓ったものであり、誓約を誓わなかったものは…魔女である。



考えてほしい。


聖女の持つ力は簡単に人を堕落させ、信奉者を増やし、国を傾けることのできる存在である。


そんな危険な人物の性善性だけを信じることができるのか?




聖女は絶対に産まれると教会へと足を運ぶ。その理由はわからないのだが、絶対に教会にゆくのだ。


教会には聖女が来訪するとわかる仕組みがあるので、聖女は自我が定まる前に国と神殿に誓約魔法を使われるのだ。


誓約魔法の内容は些細なモノであり、個人の尊厳を損なうモノではない。


ただ、魔女へと反転してしまうことを誓約にて縛るのである。



誓約魔法はその者の魂へかけられる楔であり、これは聖女が亡くなるまで縛りが取れる事はないのである。


聖女は魔女であり。善であり悪である。



これは国王と神殿長が代々引き継いでいかなければいけない事実であり、儀式なのである。





ただ、一つ。


聖女が聖女の契約を結ぶと国の未来が変わるのである。


本来の世界の道筋と変わる為か、その世界に綻びが生まれるのだ。


元々の筋書きの上から新しい筋書きを書く様な物なのかはわからないが、どうしてもおかしくなってしまう所が出て来る。




ある時は聖女が来たことにより善政をしていた国王が悪逆非道の独裁者になっていったり


ある時は人を救うべく生きてきた聖職者が子供を殺し食べるような悪魔になってしまったり


ある時は死んだはずの者が生き返って生活して活躍していたり


大昔の王国がいきなり地図に増えていたり


異世界から大量に人が落ちてきたり


気付けば当たり前だったことが消えていたりと



何かおかしな事が知らないうちに起こって居るのだ。


これらは文字にするとわかりやすくおかしな出来事なのだが、その時過ごしてる人々はそれをおかしな事だと理解ができないのだ。


理解が出来ないのなら今こうして理解できて居るのがおかしな話だと思うだろうが、それには理由がある。


この世界に聖女が産まれると、世界の中心となる者が出て来るのだ。


その者は気付けば当たり前の様にそこに居て生活をして居る。

その者自身も気付いていないのだ、気付けないのだ。


ただ一つ、その者がこの世界を愛す事ができると、世界が元の形へと戻ろうとしだすのだ。


所謂ハッピーエンドに向けて動き出すという事だ。







…あぁ、体中がいてぇ。


「レント、おきろ。」


「…あん?誰だよ」


後ろから俺に声をかけるやつが居る。


「レント。レント。おきんか。」


ッチ。俺は舌打ちをしながらまだ痛む体を起こし、声がした方を向く。


「やっとおきたか、レント。」


「ぁあ、なんか体がいてぇんだが?」


神殿長のアクアブルーの瞳が俺を心配そうに覗いてくる。


「お前はワシの結界に弾き飛ばされたんだ」


「なんでだよ!んなもんはってんなよ!飛ばされる方の身にもなれ!」


ふざけんなよ…人の事呼んでおいて吹っ飛ばすとか。


「いや、お前が魔女に憑かれていたからだ」


「はぁ?どういう事だよ」


神殿長はため息を吐きながら、意味わかんねー事を言い出す。


「レント…お前は魔女のお気に入りになってたんだよ」


「…魔女って誰だよ。んなもん知らねーよ」


俺は意味のわからない神殿長の話にうんざりしながらも会話を続ける。


「聖女の事だ。レント、お前は気付かなかったか?違和感は無かったか?聖女は今もう既に聖女では無い事に。」


「はぁ?しらねぇ…事はないな。確かにおかしな事はずっとある。それが何なのかはわかんねぇが」


「聖女の話は昔したよな?お前はどこまで覚えている?」


「あー?この世界に都合のいい存在はいないみたいなこと言ってたよな?」


俺は昔話した内容を思い出すと言うよりも、ごく最近この話をしたような妙な既視感に襲われた。


「そうだ。聖女は現れた時にその時の国王と神殿長にて契約魔法を行使し聖女が魔女にならないようにするんだ。そうじゃないと、危険だからだ。」


「で、それが本当ならなんで魔女になってるって話になんだよ」


矛盾した内容にだんだん腹が立ってくる。


「それはわからん。だが、魂に欠けている楔は解ける事はない。つまりは聖女は魂が二つあるのかもしれない。」


「あぁ?何でだよ」


「それを今から調べないといけないんだよ、レント。お前を使って」


何で俺なんだよと思い文句を言おうと思うが、あまりにも神殿長が真剣な顔をしているので言う事はできなかった。




「さて、レント。君の全てを見せてもらおうか。」




そう言った神殿長は何だか泣きそうな顔をしながら俺を見ていた。

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