第3話 お前のスカートマジで鉄壁だな

エリーとも大文打ち解けてきたある日、俺はここ2週間ずっと…寧ろ出会ってから1日も考えなかった日がない例のアレについて聞いてみることにした。


「お前さー、そのドレスの中どうなってんの?あと、ドレス毎日違うの着てるけどどうやってんの?俺んとこ来た時何も持ってなかったよな?」


「まぁ!淑女のドレスの中を知ろうとするなんて…と、言いたいところですが、わかりました。そこまで気になるのでしたら特別にお教えしましょう」


「あ、なんかムカつくからやっぱいい。どーせドレスの中からでてくんだろ?」


大袈裟に驚いた振りをした後に、エリーが勿体ぶった話し方をしてきたので聞く気が失せた。


「な、な、なんですのっ?!キィイ」


「あーあー、叫ぶな叫ぶな。うるせぇ」


「お、おまえはわたくしにもっと優しくすべきですわっ!!」


「はいはい、お姫様~ご機嫌いかがでしょうかぁ?」


「キィイー!」


自身のことを淑女と言うが、エリーは良く地団駄を踏む。…それでいいのか淑女よ。


最初の頃はツーンとすました顔をしていたエリーだが、一緒に暮らし始めて少しずつ化けの皮が剥がれてきた。


初めの頃は顔を真っ赤にして耐えてみたり

(その後はツーンとして返事をしなくなる)


俺が何かを言うと屁理屈を言ってきたり

(こいつは拗ねたりと、小さな子供かよ)


なんだかそこら辺に居る野良猫のようだったが、今はよく吠える小型犬の様になった。


…どちらが良いかはわからん。


まぁ、何だかんだと暮らしてきて、今では俺とエリーは兄妹のような関係だと思う。


色も恋もない、ただただ なんか安心する関係だ。…俺はな、エリーがどう思っているのかはしらねぇ。


まぁ、生まれた頃からずっと教会に住んでた俺はそこんとこが他のやつよりも緩いのかもしれないけど。


キイキイと奇声を発しながら地団駄を踏むエリーを見ながらそんな事を思っていると、やっと気が済んだのかいつものように扇子を開き口元に持っていった。


そして、おすまし顔をしたエリーは何事もなかったかのように会話を再開した。



「このドレスのスカートの中にはわたくしの結界が常時展開されていますの」


そう言いながら開いた扇子を勢いよく閉じて俺の方に向ける。これはエリーの決めポーズだ。

このポーズをしているときに俺がエリーを褒めると『おーっほっほっほ』と高笑いをし始めるのだ。それに気づいてから俺は基本的にスルーする事にしている。


「…。いや、なんで?!なんでなんだよ?結界なら全身覆えよ!」


そういう俺に向かってエリーは(わかってねーなこいつ)みたいな表情をする。褒められたり驚かれたりしなかったことが不満なようだ。


「そこまで沢山魔力が無いからですわ!と、いうよりも魔力切れがおきないようにですわね」


「あー、なるほど。全部は無理だから1部分だけって事なぁ?ほんで、なんでスカートの中?心臓付近じゃねーの?」


「淑女たるもの命よりも貞操の方が大事…と、教えられてきたからですわ。…まぁ私の場合ですとスカートの中にマジックバックを入れているのでこちらが理由ですわね。」


少し違和感を感じさせる表情をした気がしたが、次の瞬間には扇子で口元を隠しながらお決まりのツーンポーズをしていた。


「お前、スカートの中にマジックバック入れてんのかよ」


「わたくしはわたくしの大切なものを誰かに触られることが一番嫌いですの」


まただ。また、変な表情をしやがる。なんなんだよ。


「お前の住んでた部屋の中、何も物がなさそうだな」


「ベッドはありましてよ?」


「いや、思った以上に何にもなかったんだな!なんかわかんないけど…こええよ!」


俺はエリーがお貴族様だと思っているし、それは間違いないと思っているが…俺が話を聞くエリーの生活とか色々な事に何だかいつも違和感を感じる。


まぁ、お貴族様がどんな生活をしてるかは知らないけどな。ただ、俺の予想と違うってことだ。


そして、この森に来る以前の事やエリー自身のことを話すエリーの表情はいつも暗い。無理矢理聞く理由もないから俺はいつも興味ないふりをしてる。


エリーは思ったよりも傷つきやすいのかもしれない。…なんだかふと、そう思った。





それから俺たちは何度も喧嘩をし、ぶつかり合いながらも同じ月日を過ごした。


「見てくださいまし!炭になりましたわ!」


「お?…おお!おおおおお!エリー凄いぞ!お前ちゃんと魔法の調節をできるよう努力してんだな!」


「レンはいつも一言多いんですのよっ!」


「本当のことだろうがよ?」


「キィイ!」


今まで空に消えていた卵焼きが原型を止めるようになった。




「レン!レンー!穴が一個だけになりましてよっ!」


「おお!エリー凄いぞ!嫁に出れるようになるには後もう一息だな!」


「ですからなんで一言余計なことを言うんですのっ!」


「そろそろ自分の開けた穴を繕う練習も始めるか?」


「うっ…わたくしは昔から裁縫は苦手ですの。では、ごきげんよう」


「エリーお前どこにいく気だよ!ごきげんようじゃねーんだよ!」



今まで穴だらけだった洗濯物は穴が殆ど開かなくなった。



「レン!レーン!わたくしには掃除のスキルがないみたいですの!きっと呪われていますのよ!」


「どんな都合のいい呪いだよ!あと、お前は家具ごと家の外に俺を吹き飛ばすことをやめろ!」


「まぁ、レンはそんな所にいましたの?」


「はっきり俺の方見ながら喋ってたじゃねーかよ!」


「ま、そういう日もありますわね。ふぅ」


「ため息はくな!俺が吐きたいわ!」


掃除は相変わらず全くできないが、エリーと俺の関係がゆっくりと変わってゆくにつれエリーも成長してきたのだ。



お前と呼んでいたがエリーと呼ぶようになった俺


お前と呼んでいたがレンと呼ぶようになったエリー


俺にとってエリーは初めは嫌な女だった。俺の顔を見るたびにその醜さにか顔をそらしたり、寝起きに会うと顔を真っ赤にして俺の寝室のドアを力一杯閉めたり。俺はリビングの床で寝てんのにだぜ?




少し慣れてきてからはうるさいけど頑張る女だと思った。明らかに見たことも触れた事も無いような事をしとけと言うと、文句を言う事もなく頑張ってやり始めるのだ。


教会にいた頃新しくきたやつにやっとけと言った時に、そいつは『俺はやった事がないから上手くできない』だからやらないと言った奴がいた。


他にもお貴族様の子供が来たときに『そんなことは下賎なものがすることだ』とか言うやつもいたし。…何しに教会に来たんだよって思ったな。


それを考えるとエリーは努力家だ。上手くできるかどうかじゃなくて、やろうとすること自体が凄いと俺は思った。




今のエリーはその努力が一年掛け実り出してきた頃だ。失敗の度合いも減ってきたし、俺に聞いてくる事も減った。


出来ることが増えたから交流も減るかと思ったが、そうじゃなかったし

少し経てば元の場所へと帰るだろうと思ったけど、そんな素振りは無い。


今では何かに成功するたびにキラキラした瞳を俺に向け、俺と目が合うと『ふふん』と得意げな表情をするようになった。


新しいことが出来るようになれば大声で俺をよんで『ほめろ』と催促してくる。


今でもやっぱりじっと顔を見ていると涙目になり目線を逸らされることはあるが、もうそれについて気にならない程に俺はエリーを気に入っていた。




この間、綺麗だった髪の毛を邪魔だからと顎のラインでバッサリと切り『わたくし何でも似合いますの』と言って俺を驚かせたエリー


その前は、いつの間にか屋根に上り『絶景ですわ』とご機嫌にしてるかと思えば、次の瞬間『降りれませんわ』と泣いて俺をびっくりさせたエリー


川に魚を獲りに行ったのになぜか網に絡まって『助けてくださいまし』と言ってたエリー


山菜を採りに行ってまたユニコーンラビットに出会い『レン!わたくし絶体絶命ですわ!』と叫んで気絶したエリー


星が綺麗だと外で寝転び、湯冷めしたのか次の日に鼻水を垂らし『水も滴るいい女なんですの』と、適当な事を言っていたエリー


いろんなエリーを俺は見た。


俺にとってエリーは子生意気な妹みたいなもんだった。でも、今は正直言ってよくわからなくなった。


この感情は一体どんな感情なんだ?

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