彼女のいる図書館。

暗黒星雲

第1話 僕が図書館に通う理由。

 僕のお気に入りスポットはこの街に一つだけある図書館だ。


 何ゆえ気に入っているかというと、それは司書のチヒロさんがメチャタイプだから。物静かで清楚で、それでいて本の知識は凄くて、僕の探している本がどこにあるのか直ぐに教えてくれる。数億冊ある蔵書の中から。


 夏休みで時間の余っている僕は、今日も図書館へと向かった。


「今日はどんな本をお探しですか?」

「21世紀の小説で『酔っ払い盗賊シリーズ』と『青春チャレンジ』、それから『火星の冬シリーズ』ですね」

「そちらは電子書籍となります。また、データが破損しており一部のページが欠落していますが、それでもよろしいでしょうか?」

「構いません。僕のお父さんは欠損したページを再生するのが得意なんです」

「そうでしたね。良い御趣味をお持ちですね」

「どうして再生するのか想像もつかないんですけど」

「うふふ。では閲覧キーを発行します。期限は一週間となっております。延長をご希望される場合はwebで手続きできますのでよろしければご利用下さい」

「ところでチヒロさん。今度……非番の時に……僕とデデデ……」

「デデデ?」

「デデ……レコデン。何でもありません。失礼します!」


 やっちまった。ちょっとお食事でも……と言おうと思ってたのにデートと言いそうになった。


 明日、ちゃんと言おう。

 僕は焦って自宅へと戻った。


「ただいま」

「おかえりアキラ」

「閲覧キーを貰ってきました。今から送信します」

「受け取った」


 僕のお父さんは大きい人だ。体がメチャデカい。身長は三メートル位で横幅は五メートルもある。書斎でギュウギュウに詰まっている。


「お父さん。質問があります」

「何だね」

「どうしたら欠損したページを復元できるのでしょうか?」


 僕がいつも抱いている疑問だ。


 何故、電子書籍のページが欠損しているのか。それは500年前の強烈なガンマ線バーストにより、多くのコンピュータが破壊されほとんど全ての電子データが失われたからだ。もちろん、社会機能も全て停止し世界中が大混乱した。その時に多くの人命が失われたという。それ以降、紙で残ったデータを電子化してつなぎ合わせたり、サーバーにかろうじて残っていたデータをサルベージしたりと途方もない労力をかけて復旧に尽力した。その際、技術的学術的なデータが優先されたため、文芸関係は多くのデータが失われたらしい。


「そうだね。アキラにはまだ話していなかったね」

「はい」

「データとして残っていないものでも、人の記憶には残っているんだ」

「人の記憶ですか? 過去の人の記憶を見ることができるのですか?」

「この場合は個人の記憶ではなく、人類の集合知とでもいうべきものになる。アカシックレコードを知っているかい?」

「わかりません。何の事でしょうか」

「人類の歴史、文化、その全てを記録している大いなる存在だ」

「それは神? 造物主?」

「神仏とは別の存在だ。いや、ある意味一体だと言って差し支えない。しかし、アカシックレコードには意思も何もない。唯々存在しているだけなのだ」

 

 壮大な展開だ。この話が僕に理解できるかどうか自信がない。


「私はそのアカシックレコードにアクセスできる権限を与えられたのだ。書籍関係に限定されているのだけどね」

「それで……この街の図書館は途方もない蔵書を誇っているんですね」

「そうだね。他の図書館の数百倍もの蔵書の中には私が復元した書籍が多いよ」


 そう。僕のお父さんは書籍の復元に関しては世界一。


「今日借りた本、僕が読んでも良いですか?」

「ああ。明日には復元できているだろう」

「明日……」


 そうだ。僕はチヒロさんを誘ってちょっと外出したかったんだ。


「あの、お父さん?」

「何だい?」

「明日、僕は司書のチヒロさんを誘って、少しだけ外出したいんだ」

「外出? まさか町の外へ出るのかい?」

「いや、外じゃなくてもいい。チヒロさんと図書館の外でお話したり、出来ればお食事に誘ったりしたいんだ」

「なるほど。わかったよ。今日は早く休みなさい」

「はい。お父さん」


 僕は自分専用のベッドに横たわった。数本のマジックアームが伸びてきて、僕の体に数本のコードを接続した。これで僕は休止する。翌朝にはお腹いっぱいで元気満タンな僕になっているんだ。

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