10 女の子に染まりつつある朝倉梨央さん(16歳男性)
「おっつかれー!!」
「お待たせしました〜」
怒涛のデビュー2daysを終え、一息ついた10月はじめの週末、晴れの昼下がり。
繁華街の駅にて、待ち合わせしていた先輩2人がやってきた。
「ふぁぁぁ〜。雪菜さん沙夜歌さん、おはよーございます」
「眠そうだねぇ」
「いつも日曜日はお昼くらいまで寝てるんですけどね。今日は隣の部屋が引っ越しでドタバタしててあまり寝れずじまいで…………」
「あちゃー。どんまいだ」
「たくさんお買い物して、夜は早めに寝ることにしましょうね」
「ほんとに優しさはありがたいんですけど…………えっと…………」
「ん?どったの?」
「何かご不満でもあります?」
会って早々優しさを見せてくれる2人に感謝はするものの。
…………どうしても、言いたいことがありまして。
いつものサイズなせいで、ダボダボのパーカー。
ウエストがゆるゆるでベルトをきつく締めている、幅が広めのパンツ。
普段の靴じゃ足のサイズが合わなくて、奥から引っ張り出したサンダル。
イシュタルのご指導により、一応ポニーテールにセットできた銀髪。
「いや、やっぱり女の姿は慣れないなって………」
そう。
今日、まさかの
◇
―――ことの始まりは、金曜日。
「みんなで遊びに行こう!!」
風紀委員室で放課後だらだらしていると、雪菜さんが大声張りながら部屋に入ってきた。
「なんですか突然」
「ゴートゥーショッピング!!」
「何も情報入ってきません」
「いやさ、先生に『今週のサボり分帳消しにしてやるから、体育祭用の備品買い出しに行ってよ』って頼まれてさ。それなら一緒にみんなで買い物もしちゃおうかと!」
「…………それ、体よく雑用押し付けられてるだけじゃないすか?」
「梨央くん梨央くん。雪菜は楽しそうにしてるんだから、口を挟んじゃだめですよ」
「沙夜歌さん……」
「あの子は褒めて伸びるタイプなんです」
「もはやママじゃん」
「ガチでママだが?」
「自称ね」
「毎朝おはようのキスで起こしてるんだが?」
「沙夜歌さんがそれを言うと犯罪の匂いしかしないです」
「よしよーし。雪菜は素敵なアイデアを持った偉い子ですねぇ」
「わーい!!うれしぃ!!えへへぇ」
「…………ごめんなさい沙夜歌さん。俺、貴女の性癖が分かった気がします」
「いらっしゃい。こちら側へようこそです」
…………ヤバい。年上黒髪美人が子どもみたいに無邪気に笑ってるの、破壊力尋常じゃない。そら母性に目覚めるわ。この子どもピアス20個と首輪3本してるけど。
「それにしても、この間戦った響季ちゃんって子、とってもオギャみを感じましたね。アレは真正のバブちゃんです」
「…………あの日のことは、思い出したくないです…………」
「半裸ファッションショー、クズ女への百合キス、響季ちゃんへの逆ナン、雪菜への首絞めプレイ」
「あぁぁぁぁぁまた黒歴史が増えていく………」
「響季ちゃんを泣かせたのは100歩譲って認めましょう。問題は雪菜の首を絞めたことです」
「アッハイ、ソコデスカ」
「アレはわたくしだけの専売特許ですが?わたくしが雪菜にどれほどの愛情と劣情を以て生きているのかお分かりですか?わたくしが毎日自分の部屋に保管した雪菜の使用済みぬいぐるみを10分抱き締めているのをご存知なのですか?」
「怖いです。あと使用済みぬいぐるみってなに」
「雪菜はストレスが溜まると、ヒーロー時代や魔法少女時代の自分のぬいぐるみを取り出して、ハラワタ掻っ捌くのです」
「……………」
「いっぱいあそぶぞぉー!!ばぶー!!」
「…………目の前に居る可愛い生物と、その自傷モドキなメンヘラが同一人物とは思えない」
「昔は自分の身体を掻っ捌いてましたから、だいぶマシになったものです。今でも変身中は超回復するとか言ってめちゃくちゃ自傷してますが」
「あー…………だから身体の所々に傷跡が………」
「なのでわたくしは傷がつかないようないじめ方をするのですよ。首絞めもその一環なのに、あろうことか梨央くんは…………ましてや梨央くんは男の子だし………」
子どもを痛めつけられた母親みたいに、こちらを睨んでくる沙夜歌さん。
いや、そのお子さん痛めつけられるの大好きなんですよ………なんてことは勿論言えない。
すると、沙夜歌さんは何かを閃いたような顔をし、にやにやと笑い出した。
「そうだ梨央くん。週末は女の子として遊びましょう」
「……………はい?」
「わたくし、女の子としての楽しみを梨央くんに知ってほしいなって思ったんです。
…………あと男の子状態で雪菜とデートするとすぐ恋愛に発展しそう。雪菜は絶対に渡しません」
「前半嘘ですよね。狙いは我欲しかない後半部分ですよね………。
てかそんな雪菜さんチョロいんですか?そもそも3人で遊ぶしデートじゃなくない?」
「え!?私途中で抜け出して梨央とデートする気満々だったんだけど!?夕焼けのなか愛を育むつもりだったんだけど!?」
「ほら」
「…………ごめんなさい俺が間違ってました。この人思った3倍恋愛狂ですね」
「ねぇねぇイシュタルさん、別に魔法少女にならなくても女の子になることは可能ですよね?」
「急に呼び出さないで寝てたんだから………。まぁ、わらわの手にかかればそのくらい余裕だけど」
「ってことで、日曜の13時、駅前集合で♡」
「…………もし男のまま来たら?」
「変身して、公衆の面前でオムツ交換を行います。全世界に発信してもらいましょう」
「…………はい、リカちゃんモードで行きます」
「えー!?それ私にメリット無くない!?」
「雪菜。美少女3人ですよ?ナンパの嵐ですよ??」
「…………梨央。可愛い女の子にしてあげる」
「あんたホントにバカだな」
◇
「まーね!まだまだ日が浅いし慣れないのも仕方ないよ。でもファッションチェック的にはいまひとつかなぁ」
駄目出しをしてくる雪菜さんは、ベージュのセーターに茶色のショートパンツ、膝まで丈のあるブーツに濃い茶のベレー帽と、活動的で秋らしいブラウンコーデ。
「そうですね。せっかく素材は良いんですし、誰しもが振り向くような美少女にしちゃいましょう」
ウキウキの沙夜歌さんは、首まである黒のインナーに、質感のあるグレーのワンピースを重ねた大人な装い。厚底の黒いブーツのお陰で、身長もいつもより高く感じる。
「2人ともファッションセンス高くないですか………??」
男モードでも着ていたダボダボファッションなわたしは、めっちゃ恥ずかしくなる。
せっかくならこのくらいオシャレさんになりたいなぁ…………かわいくなりたいなぁ…………
「……………ハッ!?」
今わたしかわいくなりたいって思ってなかったか………?いや一人称は変えてるけどさ、脳内のパラメータが完全に女の子に染まってない………??
「へぇ〜。その顔は『もっとかわいくなりたい』って思ってた顔だなぁ??」
「心の中読まないで!?」
「わたくし達に身を任せてください。アイドルみたいなとびきりの美少女にしてあげますよ?」
「アイドル……!!とびきりの美少女………!!ふ、ふへへ………」
「もう完全に女の子楽しんでるねぇ」
「かわいくて愛らしいです」
…………そんな訳で、わたしたちは街へと繰り出す。
オシャレな美少女に、なるぞぉ!!!!
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