男だけど悪の魔法少女になった。しかもお色気担当だったのでヒーローを誘惑することにした。ノリノリで。

棗ナツ(なつめなつ)

1 TS魔法少女、エロ特化の攻撃を仕掛ける



『ごめんね〜。君のこともほんとに大事だけど、恋愛対象としては見れないんだよね』



ついさっき、俺はフラれた。



『やっぱり私ヒーローみたいな人とか、目立って何かをする人に憧れててさ。何だろうねあのカッコよさ。

 君はずーっと2番目に大事な男の人だけど、1番目は他の人なの』



ヒーローとかいう存在に、負けた。



『ほら、君の親友もヒーローじゃん?だから………今はアイツが気になってて………♡』



ついでに言うと、ヒーローしてる親友に想い人を寝取られてた。








「くっそぉぉぉぉ!!!俺も力が欲しいよぉ!!!」



放課後、一世一代の告白を終え逃げ込んだ高台。

手すりに手をかけ、俺はどうにもならない感情を、見下ろす街にぶちまける。



「やっぱ諦めらんない!!だから俺は強くなって目立って振り向かせてやる!!」



決意は続く。誰も居ない展望台で叫び続ける。



《キミ、そこまで本気なのかい?》

「もちろん本気だよ!!これまで4年かけた恋愛だ、今後10年引き摺ってでも振り向かせてやらぁ!!」

《おっもwww》

「重いって?ふざけんな!!どんな手を使ってでもやってやるよ!!たとえ他者を傷つけてでもな!!」

《うへぇ、わらわレベルのメンヘラじゃん》

「うっさい!!ずっとキープ扱いされ続けてた俺の気持ち考えろよ!!むしろメンヘラにならない方がおかしいでしょ!!今なら世界巻き込んで自爆できるわ!!」

《いいじゃん面白いねキミ。採用》

「あ?どういうこっちゃねん??」



そうして俺は少し冷静になり―――気づく。




「てか、俺今誰と喋ってたんだ………?」




辺りを見回すが、誰も居ない。



「フラれたショックで幻覚や妄想の類が出現した……?いや普通に勘違いか……?」



少し休んだら家に帰って寝よう、なんて思って前に向き直り、また手すりに寄りかかろうとすると。





《わらわだよ☆》





「ギャア!?」





―――手すりの向こうに、謎の女性がいた。




なお全裸。ついでに宙に浮いてる。





《そんなぁ、驚くことないじゃん♡》

「何すかあんた!?公序良俗に反してるじゃん驚いて当然でしょ……」

《大丈夫、君―――朝倉あさくら梨央りおクン以外には見えてないからね》

「はい…………?」

《ご覧の通り、わらわは神だから》



そう言って自称神様は刹那のうちに姿をくらますと。

次の瞬間には俺の背後に回り込み―――抱きついてきた。

瞬間伝わる、豊満な胸の感触。あとその双頭にある………突起物×2。



《おほー!!やっぱり若い男っていいなぁ☆》

「怖い怖い!!」

《でも、わらわが神様だってわかってくれたでしょ?》

「否応なくね………」



そう言って神様はまた宙に浮かび、俺へと語りかける。



《親愛なる男、朝倉梨央よ》



どちゃエロな肢体からは想像もつかない荘厳さ。

それは、俺を導くまさに神らしい言葉で。



《メソポタミア神話の女神、イシュタルちゃんがお力貸しちゃうゾ☆》



しかしながらその荘厳さは、3秒後には無くなっていた。めっちゃアニメ声になった。

ついでに、グラビアでありそうな煽情的なポーズをしていた。

なおここまで全て、すっぽんぽん。威厳もクソもない。



「え………でも神様の力借りるって、『神宿かみやどしの儀式』が必要なんじゃ………」

《あんなの必要ないよ〜。そんなの無くてもお力貸せちゃうもん♪》

「ってことは………俺もヒーローになれるってこと………!?」



ヒーロー。

この世界の秩序を守るという目的で、日々戦う少年少女たち。

漢字で『神童』と書くことが示す通り、神様の力を身に宿し、悪の組織と熱戦を繰り広げている。


…………って言っても、悪の組織はヒーロー以外にはそこまで危害を加えないから、一般市民にとってはプロレスやスポーツ観戦のノリで楽しんでるけど。



で、本題。

選ばれし少年少女たちは、厳かに行われる『神宿しの儀式』で、正義で強い神様の力を受け取り、ヒーローとなる。

すなわち。今目の前にいる女神――イシュタルの力を受け取れば、俺もヒーローになれるということで。



「やりますやりますやらせてください!!」

《おー☆やけに乗り気になったねぇ♡》

「当然!俺はヒーローになるんだ!!力を得てモテる男になるんだ!!そしてアイツを恋に落とすんだ!!」

《思考回路がアホですき♪》



すなわち、先ほどフラれた想い人―――八木皐月やぎさつきの好きな人の基準、『ヒーローみたいな人とか、目立って何かをする人』になることができる。


悪の組織たち、たとえば激重ドM自傷癖バーサーカーとか、赤ちゃんプレイ強要ドS魔術師とか、そういう奴らを倒し。

皐月を振り向かせることができる。



《じゃあ、わらわの力、受け取ってくれるね☆》

「もちろんですよ!!やってやらぁ!!」



俺は確固たる決意の下に、イシュタルの差し出した手を取る。



《じゃあ契約成立だ。これから頼むよ、♡》

「…………リカ?誰それ?俺はリオですけど」



名前の言い間違いを指摘する間に、俺の周囲は闇に包まれる。

…………闇?ヒーローたちの契約する神って光とか正義系じゃなかったっけ………?



《ようこそ、我らが組織―――》



そんな思考を遮るように、イシュタルは闇へと身体を溶かし、俺の身体へと入り込んでくる。




《【自由とヒステリー】へ―――》




「…………ちょっ!?」



抵抗するが、力が入らない。

そして意識が遠のいていく。身体の支配権が奪われていく。

遠のく意識の中で、俺はある事実に思い至る。







【自由とヒステリー】って―――

メンヘラヒステリック魔法少女しかいない、悪の組織じゃね…………?













「現れたな!悪の魔法少女!!」



視界が明転する。

―――ここは、商店街の一角だろうか。

目の前には、いかにも〜な黒のコートを着た少年2人、あとヒラヒラのアイドル衣装を着た少女1人。



「急に虚空から現れて驚いたが!俺たち【ブルーベリー・ナイツ】には勝てない!成敗させてもらう!!」



彼らは俺に対し、臨戦態勢を取っていた。



「いやいや、別にヒーローたちと戦うつもりなんてないんだけど………」



そんな俺の高い声に、彼らは怪訝な顔をし―――また強い決意でこちらを睨んだ。



「うるさい!!いくら幸薄そうな少女だからといって俺達は騙されないぞ!」

「いやホントに俺戦闘の意思なんてなくてさぁ」

「俺っ娘!?昨今の魔法少女には俺っ娘なんているのか!?」

「僕、銀髪の女の子が性癖なんだよね………手籠めにしたい………」

「…………同性として腹立つ。こいつ殺す」

「………???」



会話の中で、ふと違和感に気付く。


高い声、『俺っ娘』、『女の子』、少女からガチで殺意を向けられている点。

あと、けっこう感じる胸部の重量感。

ついでに、股付近に感じる謎の開放感。



「…………ちょっと待っててくれない?」



そう言って俺はヒーローから少し離れ、商店街の服屋へと駆け込む。





「あらあら。べっぴんさんが来たねぇ。悪の組織でもお客さんは大歓迎だよ」



ニコニコな店主のおばちゃんに会釈し、試着室に入る。

そして、鏡を見る。











そこには。




絹糸のような銀髪をロングに伸ばし。


色素の薄い瞳を光らせ。


触れたら壊れそうな美しい表情をし。


出るとこ出てるメリハリのある体つきで。


肌面積がかなり多いえっちな衣装を着た女が居た。





「…………はは」



俺が引き攣り笑いをすると、鏡の中の少女も同時に笑う。




………ということは、つまり。











《おめでとう!君は魔法少女になったよ♡》






「やりやがったなァクソ女神!!!」





女神の力が働き。

魔法少女になっていた、ということで。



《ほら、力が欲しいって願ったのはリオくん…………いや、リカちゃん♡のほうじゃん》

「言い直すな!!てか俺の願いは男としてなの!!」

《神様は深層心理まで見越してるから》

「深読みってことじゃん!無駄な考察しないでよ!!」



脳内で響くクソ女神イシュタルの声に文句を言いながら、俺は頭を抱える。




《でもさ。ヒーローをボコせば想い人ちゃんがヒーローに幻滅するよね》




「……………?」

《すると、間接的に想い人ちゃんが君に惚れる手助けになると思わない?》

「……………!!!」

《つまり。ヒーローを倒すことは、君の利益になるんだよ》



「なんだって!?それはやるしかない!!」



《単純♡まるでわらわみたい♡》




イシュタルの助言により悪魔の方程式に気がついた俺は、やる気を持ち始める。

すなわちこれは………千載一遇の好機。



「よし。俺は魔法少女をボコボコにして奴らの世界ランクを落とす。そして皐月を恋に落とす」

《いいねその意気だ♪あと魔法少女のときは一人称も口調も変えちゃおう!ノリノリになるよ☆》

「―――うん!わたしはヒーローくんたちを倒しちゃうぞ!!」



俺…………いやわたしは、そのイシュタルの提案を受け入れ、服屋さんを後にする。

もちろんおばちゃんには挨拶した。こういうところで好感度稼ぐの大事だからね!




「それでさ。どうやって戦えばいいのさ?」

《あー、最初は思考誘導する暗示かけとくから、本能のままに動くといいよ。そうすればリカちゃんの戦い方を理解できるはず☆》

「はーい」






そうしてわたしは、律儀に待っていたヒーローたちの前に姿を現す。



「待ちくたびれたぞ魔法少女!覚悟の準備はできているか!!」

「…………っほぉ。やっぱこの子どちゃシコだぁ」

「あたし以上に可愛い女とかいらない。絶対に息の根を止める」



三者三様の待ち方をする彼ら。

今の間に、ギャラリーも集まってきたみたいだ。流石はヒーロー、人気コンテンツ。




そしてわたしは、彼らに対峙し。



「…………ねぇ、本当にこの感情のまま動いていいの?」

《いいよ〜!わらわの力って、基本的にこっち方向だから。好きにやっちゃいな☆》

「…………言質取ったからね」




本能のまま―――












先頭に立っていた元気なヒーローくんを押し倒すと。




「……………何ッ!?何するんだ!?ナニをするんだッ!?」




コートを剥ぎ、服を剥ぎ、パンツ一丁にして。




「ナニってさ…………わからないかなぁ………♡」




脳内に湧き出る性欲のまま、彼に馬乗りになる。




「わたしと…………良いことしようよ………♡」




火照る身体。染まる頬。早まる鼓動。




「逃がさないからね…………?ぜったいにわたしとしてくれるよね…………?」


「ヒィッ!?」




逃げようとする少年の手を取る。というか掴んで地面に叩きつける。逃がさない。




《…………まさかここまでノリノリになるとは………あなたの恋愛感情と性欲すごいね………》



そして本能のまま、あるいはそれが最強の攻撃になるという確信を持って。

彼の唇を、強引に奪う。







「………………!!!」

 




それと同時に、彼の意識が飛んでいく。

わたしの情動が、さらに加速していく。





そして涎を垂らしながら、わたしは周りを見渡し………告げた。





「さぁ…………次の獲物は、だれかなぁ………?」











それを見たギャラリーは…………口を揃えて叫んだ。





「「「やべーぞ!!変態魔法少女だ!!!!」」」


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