9番隊の変人と問題児

天石蓮

第1話 お腹減ったので帰ります

周りの人は息を潜めて身を縮めている。

自分の身に災厄が降りかからないように気配を消そうとしている。

そんな時だ。

ぐぅ~と誰かの腹の音が聞こえた。

一瞬で視線が音が鳴った方に向けられる。


(あー……お腹減った)

空腹を訴える腹をさすさすと撫でるのは、ボブカットの赤髪の女性だ。

彼女の名前はピスティ。

ピスティは壁に掛けられた時計をちらりと見る。

時刻は午後7時30分。職場から自宅までは1時間かかる。つまり帰宅すると8時30分……。

(……もう無理。お腹減った。帰ろう)

ピスティは知っている。このながーい話し合いを終わらせて帰る方法を。

ピスティはスッと手を上げた。

「あの、やります。9番隊の隊長」

周りの人たちはザワザワと騒ぎ出す。

ピスティが所属する8番隊の隊長の暗く沈んだ表情が、一瞬にして変わる。

「ほ、本当か!?ピスティ、引き受けてくれるのか!!」

「えぇ、まぁ」

「あ、ありがとう!助かるよ!」

隊長はピスティの手を取り、涙を流す。

(涙を流されるとは思ってなかった……)

ピスティはそんなことを思いながら、隊長の顔をじっと見た。

「あの、隊長」

「なんだ?」

「帰っていいですか。ミネストローネが我が家で待っているので」

隊長と周りの人たちは、ピタッと動きを止めた。

「え、ミネストローネ?」

「はい。今夜の夕御飯、ミネストローネなんです。詳細とかは明日聞くので」

ピスティは鞄を掴むとニコッと笑う。

「では、お先に失礼します」


人々の生活に支障をきたす魔獣を狩る人……をサポートするのがピスティの仕事だ。

ピスティが所属する8番隊は、魔獣や魔獣が目撃された土地を調査する仕事をしている。

そして、今度、新たに作られる9番隊、その仕事内容は……。


「はー……まさか、1番隊に所属している最強の魔獣狩りと一緒に仕事、というか監視することになるとは……」

ピスティは空を仰ぐ。

ちらちらと星が瞬いている。

そしてお腹が、ぐぅとなる。

「あ〜母さんの作るミネストローネ、楽しみだなー。想像するだけでよだれが……」

ピスティは、ふふふと笑う。

頭の中はミネストローネでいっぱいだ。

新たな職場となる9番隊のことは、頭の片隅に追いやられていた。

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