第20話 : 「テレパス」

「テレパス」


「ん? アリス様? 今頃、何かご用でしょうか?」


「エーテル、もうゴブリンの居場所に到着しているの?」


「はい! アリス様、ヴェリスとサフィエルも一緒に、ゴブリンの近くにいます。」


「サフィエル?」


エーテルは、自分がうっかり口を滑らせたことに驚いた。アリスにまだサフィエルを紹介していないことを思い出し、テレパシーでの会話中にもかかわらず、自然と頭を下げた。


「申し訳ありません、アリス様にはまだ紹介しておりませんでした。サフィエルは、アリス様がくださった貴重な赤い巻物から召喚したカルマ・エルフです。」


「おお! 彼女がカルマ・エルフなのね!」


アリスの声は興奮気味で、それがエーテルにも伝わり、彼も興奮した。


「はい、アリス様。」


「それで、見つけたゴブリンについては?」


アリスの問いに、エーテルは一瞬躊躇した。何を報告すればいいのか。アリスは不可解な知識を持つ存在であり、すでに全てを知っているはずだとエーテルは思った。しかし、知っている限りの情報を報告するのが彼の役目だった。


「彼らはまるで蛆虫のように忌まわしい種族です。生活は普通のようですが、食糧は私の見積もりでは約二週間分ほどしか持っていません。まだ詳細な調査はしていませんが。」


「また、彼らは数人の人間の女性奴隷を持っており、まだ手を付けられていない人間の女性もいます。おそらく、何かの儀式か伝統のためでしょう。」


「ゴブリンの男たちは主に戦闘訓練、水源を掘る作業、その他の任務に従事しています。一方、女たちは水の供給所で列を作り、順番を待っています。」


「私の観察によると、彼らは六人の個体によって指揮されています。」


「興味深い情報ね。続けて、エーテル。」


「ええと、ほとんどが低レベルのゴブリンですが、中には中級の者もいます。」


「なるほど... 彼らは私が知っているゴブリンと似ているようね。人間の女性をさらうのが大好きなようだわ。それなら、命令を変更するわ。どんな手段を使っても構わないから、彼らを制圧しなさい。破壊はしなくていいわ。」


「なぜかは分からないけれど、これらの人間が情報収集に役立つかもしれない気がするの。」


一方、アリスは自分の人間性が著しく薄れているのを感じていた。何の情けも感じていなかったが、外界の情報を得るためには人間が必要だと考えていた。限られた情報源でも、会話の相手がいるかもしれないからだ。


すると、エーテルの表情は瞬く間に輝き、まるで目標を達成したかのように笑みを浮かべた。エーテルはエクシプノのような優れた戦略家ではないため、血を流さずに征服する戦略を考えるのは難しいだろう。しかし、エクシプノに助言を求めることはできた。


「ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか、アリス様?」


「ん? 何かしら?」


「ゴブリンの居場所にいる人間たちを全員救出する必要がありますか? そして、これらの人間たちは実験に使われるのでしょうか? それとも、尋問の後にアリス様の奴隷にされるのでしょうか?」


突然、場が一瞬静まり返った。


(えええええ!?!? 彼は何を言っているの!?)


アリスは心の中で叫びたくなった。エーテルの質問があまりにも奇妙だったからだ。アリスはゴブリンの領地にいる人間を情報収集のために使おうとしか考えていなかったし、それ以降の計画は考えていなかった。


アリスは答えを引き延ばしつつ、エーテルに意見を聞くことにした。


「その人間たちを私の役に立たせるなら、どうすればいいと思う?」


エーテルはアリスの答えに興味津々だった。アリスの奴隷になるよりも、何か別の用途があるのではと期待していた。


低俗な人間を最高の主君の奴隷にするのは間違いだとエーテルは感じた。再び、奴隷にするよりは、何か別のものに変えるべきだと反省した。


「もし実験に使えないのであれば、彼らを敷物に変えるのを提案します。申し訳ありません、そういう意味ではなく、靴用の敷物として使うのが良いかと。」


「アリーナやエクシプノ、他の従者たちも、きっと私と同じ考えでしょう。」


再び、数秒の沈黙が訪れた。


「エーテル、こうするわ。まず、これらの人間の女性を尋問して情報を集める。次に、重要な情報があれば、彼女たちの心を操り、人間の集落にスパイとして送り込む可能性もある。三番目に、有用であれば、実験の対象となるかもしれない。」


アリスの声は瞬時に冷たくなった。


「四番目に、もし潜在的な力を持った人間がいれば、迷わず忠誠を誓わせるわ。」


エーテルは、アリスの考えに心から感嘆の表情を浮かべた。人間を敷物にするよりもはるかに先を見据えたアリスの考えに、彼は感服せざるを得なかった。


「なるほど! 私の浅はかな考えをお許しください。」


「大丈夫よ、エーテル。それで、ゴブリンを征服するための計画はどうなっているの?」


「私の計画?申し訳ございません。まだ計画を立てておりませんが、できるだけ早く作成し、必ずアリス様にご満足いただけるよう任務を遂行いたしますので、ご期待を裏切ることはいたしません。」


「そう。まあいいわ、命令を下してからまだ数時間しか経っていないからね。計画は慎重に考えて、小さなミスが命取りになることもあるからね。困ったことがあれば、遠慮なく私かアリナに【テレパス】で連絡して。」


「承知しました、アリス様。ゴブリンたちにアリス様の偉大さを伝え、彼らに崇拝させます。」


「好きにしなさい、エーテル。ただし、彼らを滅ぼすのはだめよ。必要があれば、彼らの総人口の10%以上は殺さないように。わかるかしら?」


「はい、理解しました!」


エーテルは、上官に厳粛に問われる軍人のようにきっぱりと答えた。


「よろしい。それでは、私はオークを征服する仕事に取りかかるわ。」


「はい、アリス様なら私よりもはるかに上手くオークを征服できることでしょう。」


「ふふふ、そうかしら?それじゃあ、またね。」


「さようなら、アリス様。素晴らしい一日をお過ごしください。」


【テレパス終了】


「はぁぁぁぁ……」


エーテルは深い息を吐き、砂漠のような荒れ地に立っていた。


「どうでしたか、エーテル様?」


サフィエルが好奇心に満ちた表情で尋ねた。エーテルがアリスとの【テレパス】を終えるのを待っていたのだ。当然、彼女は何が話されたか興味津々だったが、エーテルの部下である彼女には、その内容を尋ねる権利はなかった。


「そうだな。ゴブリンをどのように征服するかは私たち次第だが、流血の事態になるなら、総人口の10%以内にとどめるべきだ。」


「なるほど……」


エーテルは、以前と同様にサフィエルとヴェリスと一緒にいた。


【テレパス】


「ヴェリス。」


アリスの声がヴェリスの心に響いた。その声を聞いた瞬間、彼女は誰からのものかすぐにわかった。


「ア、アリス様!?な、なぜこのような低位の召使いにお声をかけていただけるのですか?」


ヴェリスは驚きと恐れで声を震わせ、アリスに何か大きなミスをしてしまったのではないかと考えた。


ヴェリスはまるで宿題を忘れて叱られるのを待つ学生のように、不安と緊張に包まれていた。


「あれこれ考えずとも良い。お前はまだ私の召使いだ。新しい任務を与える。」


アリスの言葉を聞いて、ヴェリスは胸を撫で下ろし、冷静さを取り戻した。そして、興奮と期待が高まり、アリスが自分にどんな任務を与えるのか気になり始めた。


「わ、私に何の任務でしょうか、アリス様?」


「お前には、エーテルと彼の部下たちがゴブリン族を征服する過程を監視する任務を与える。エーテルに助力することなく、中立を保て。お前は私の目となり、常に【テレパス】で報告しろ。これが私の命令だ。」


ヴェリスは、その重要な任務に驚き、信じられない思いで立ち尽くしていた。アリスの永久召喚生物や召使いたちにとって、任務を受けることは名誉であり、最大の喜びだった。しかし、重要な任務を受けるということは、それだけ自分がアリスにとって重要な存在であることを意味していた。


「ヴェリス?」


アリスは呆然とするヴェリスを呼び戻した。


「は、はい!申し訳ありません、アリス様。こんなにも重要な任務をいただき、本当に嬉しく思います。この任務を全力で遂行いたします!」


「そうか。それならば、エーテルに聞かれたら、もっと重要な任務を私から受けたと言っておけ。」


「承知いたしました、アリス様!この重要な任務を任されたことに感謝し、今後さらに精進いたします。」


「ふん、そうだな。では、ヴェリス。」


【テレパス終了】


【テレパス】が切断され、ヴェリスは別れの挨拶を言う暇もなかった。


「本当に?エーテル様がアリス様との会話で私の名前を出してくれたんですか?」


サフィエルは、エーテルがアリスに自分のことを話したと聞いて、興奮した様子で尋ねた。


「そうだ、もしかしたらアリス様が後でお前に会いたいと思っているのかもしれない。」


「ありがとうございます、エーテル様。このことは決して忘れません。」


その後、エーテルは【テレパス】を終えたように見えるヴェリスに視線を向けた。


「ヴェリス、誰かから連絡があったのか?」


「はい、アリス様から新しい任務をいただきました。今後は、あなたがゴブリン族を征服する過程を常に監視するよう命じられました。申し訳ありませんが、これはアリス様のご命令です。」


エーテルはヴェリスの返答に少し驚いた。


「まあ、そういうことなら仕方がない。アリス様の指示通りにやってくれ、ヴェリス。」


「はい!アリス様を失望させないよう全力を尽くします。」


「ヴェリス、サフィエル、今から他の召使いたちと連絡を取るつもりだ。しばらくの間、私の体を見守ってくれ。」


「承知しました!」


ヴェリスとサフィエルは声を揃えて返事をした。


エーテルは石の上に腰を下ろし、足を組んで座った。


「よし、元の体もこの姿勢で座っているはずだ。」


エーテルは一瞬目を閉じ、再び開けたときには、すでに彼は部屋の中にいた。そこにはテーブルと椅子、そして部屋の奥には巨大な鏡があった。


「戻ってきたか、エーテル?」


「おかえりなさい、エーテル!」


「こんにちは!」


「ぐぅ…あぁ、エーテルか?」


「お前がここに戻ってくるとは思わなかったな。」


「まあ、まあ〜。お前の体、まるで幽体離脱みたいで、密度がないじゃないか。」


エーテルは、他の召使いたちと同じ部屋にいたが、その体は密度と重量感を欠いていた。なぜなら、元の体はアリスに召喚されているからだ。


より正確には、エーテルは今、アリスの召使いのいる次元にいた。


他の召使いたちの言葉を聞いて、エーテルは少し頭を下げ、誇らしげな笑みを浮かべた。もちろん、これはアリスが自分を召喚し、重要な任務を与えたことを見せびらかすためだった。


「皆さん、歓迎してくれてありがとう。」


エーテルはゆっくりと歩き、自分の椅子に腰を下ろした。


「ここでおしゃべりするつもりはない。今はアリス様の命令を遂行中だからな。エクシプノ、ゴブリン族をどう征服するべきか、お前の助言が欲しい。」


「ふむ、エーテルのような変わり者が私に助言を求めるとは思わなかったが、問題はない。」


エーテル以外の全ての召使いたちの視線が、巨大な鏡に集中した。その鏡には、アリスとアリナがオーク族を監視し、征服の準備をしている姿が映っていた。


「何にしても、エクシプノは知性の高い召使いだから、お前の助言が必要なんだ。」


「いいだろう、いくつか助言をしてやろう。」


エクシプノの赤い瞳が鋭く輝き、彼女はまるで口が裂けるような広い笑みを浮かべた。


========================================

こんにちは、フォールン・リリーです。


もしこの物語を楽しんでいただけたら、コメント、いいね、そして評価を忘れずにお願いします!


この小説のイラストは、私のTwitter(@fallenlily7)で見ることができます。


よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る