初めてのトー横
小野進
1話目
雑多、雑踏。とにかく「雑」という言葉がよく似合う。
キャッチ・キャッチ、何処を見てもキャッチの海。
どうにもしようのない街。
それでも、どこか楽しい。
私なんて、「対象」の一つに過ぎないのだ。
それは金蔓としてかもしれないし、ただ「そこに在るだけの人間」としてかもしれない。
けれど、彼らにとって私はモノであり、一箇所にとどまる一点に過ぎないのだ。
すえた香水のにおいと、下卑た笑い声。
どうしようもなく不快な周りの全てのものが、どういう訳か全て心地よい。
何なのだろう、この気持ちは。
融けたわけではない。私と彼らとは、決定的に違う。
「私は怖がりだ」というところが、彼らとは根本的に異なっている。私の奥底には、常に恐怖がある。戒を破ることに対する恐怖、戒の奴隷になる恐怖、他者に対する恐怖、他者に対する自分に抱く恐怖。
彼らには、無い。少なくとも、私の視点ではそう思える。公権力への恐怖も、未来への恐怖も、人間関係の恐怖さえも。彼らが恐れることがあるとすれば、それはきっとただ一つだろう。
それは、この狭き界隈からつまはじきにされてしまうことである。
大人が、他者が何と言おうと、彼らの世界の全てはここなのである。彼らがここを喪うことは、つまり、彼らの自己同一性における死、もっと言えば、彼らそのものの死を表す。
私は怖い。
彼ら彼女らが怖い。
このイカれた街の何もかもが、怖い。
だけど、この怖さを楽しんでいる自分も何処かに、しかし確実に、いるのだ。
その紛れもない事実が、何よりも私を恐怖させるのである。
初めてのトー横 小野進 @susumu-ono
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