第10話
「ふーん、それで? 保健室で子づくりして? 婚姻届ラミネートして? チャペルで結婚式したんだー」
「……やから、海斗、ごめんって」
卒業式の翌日、テラスで遅めの昼食を食べながら、きのうの事を話した。
泉が言っていた、警備員って、海斗の事やったんか……。
きのう、卒業式を迎えた泉。
講堂での卒業式を教員として見守り、卒業生として見送った。
その後、保健室に戻り、出会った日からの事を想い出していた。
廊下からバタバタと足音が聞こえて、泉が勢いよく保健室に飛び込んできた。
と、思ったら、なんか、そのまま、保健室のベッドで抱かれる羽目になって……。
制服を着て、学校での最後の想い出やって言っていたけど、卒業しても三月三十一日までは、学生やから。
なんで気付かんかったんやろ……。
今朝、いつもより早めに出勤して、急いでベッドのシーツを洗濯した。
同僚である町田先生は、お子さんが熱をだして、卒業式の後、すぐ帰られたから。
タイミング良すぎん? あいつ毒でも盛った?
その後、予定があるなら、手加減してくれればええのに、好き勝手されて。
ほんま、勘弁してくれ。
誰か人が来たらマズいからって何度もたしなめたのに、廊下に立ち入り禁止の看板置いて、(トイレ掃除のおばちゃんから拝借)念のために、海斗を警備員として配置して、急患が出た時は、対応する様に指示していたらしい。
よくそんな悪知恵がはたらくな……。
体ダルいから無理やって言ってるのに、婚姻届にサインさせられて、教材室に連れていかれ、婚姻届がラミネートされていく過程を見守った。
それだけで終わらず、また、手を引いて廊下を走り出すから。
どこいくん? って聞いても、答えてくれず、連れていかれた先はチャペル。
シスター(教頭) に許可とったんか? って聞いたのに、後で蓮が怒られてくれればいいからって、とんでもない置き土産を残して卒業しやがった。
まあ、その、チャペルでの出来事は、一生記憶に残るだろうって位、感動したけど。
ほんま、記録にも記憶にも残る生徒やったな。
今朝、職員会議で、公開説教され、とんでもない恥をさらした訳やけど……。
保健室での秘密の出来事だけは、海斗のお陰で秘密のままやったから。
なにか、お礼をしなければ。
「なあ、機嫌なおしてや、なんか、今度お礼するから」
「いいよ。泉が、女の子紹介してくれるっていうから」
「は?」
「泉が紹介してくれる女の子だったら、高校生とか期待できそうだし?」
「……いや、教員免許、失ってもいいんか?」
「それで? 今朝、シスター(教頭)と話していたのは、それだけ?」
「……おん、あのな? 俺、三月三十一日で学校辞める事になった」
「はあっ⁉」
「同僚の町田先生が、四月からフルタイムになるんよ。それに、泉が卒業するまでの契約延長やったから……」
「そんな! 学校にも慣れて、生徒にも慕われているのに契約終了なんて!」
「臨時職員やからな、元々、こうなる事は分かってたんよ」
「でも、あんまりだよ」
「こういう時の為に、岸先生は、看護師の資格を取る様に勧めてくれてたんよ。仕事を失う心配がない様にってな」
「泉は知っているの?」
「さっき、電話した」
「なんて?」
「安心して、産休に入れるねって」
「……蓮が?」
「おん」
「……避妊する気はないんだね」
その後、樹にも話して、泣かれた。
二年間の付き合いやったけど、樹とも海斗とも出会えたし、学校に置き忘れた
『想い』を解放できたから。
俺もこの学校を卒業する時なのかもしれない。
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