第39話
「なんでホームルーム抜けて来たん?」
「修学旅行の話しているから」
「ええやん、ちゃんと参加しとき?」
「……修学旅行、行きたくない」
「どうしてん?」
「だって、お金かかるし」
「今更やろ」
「だって、修学旅行って高いんでしょ? 母さんに頼めないよ!」
「ん? 修学旅行のお金は、直前に一括入金だと思っとるん?」
「え? 違うの?」
「入学した時から、修学旅行の日程は決まっているんや。それに合わせて毎月少しずつ学費とは別に学校にお金預けて貰っているんよ」
「は?」
「泉の修学旅行のお金はすでに貰っとる」
「でも、一週間も森谷先生と離れるんだよ? 俺、学校に残りたい!」
「修学旅行に行かない生徒は教室で自習や。保健室には非常勤の先生が来る」
「ん? なんで?」
「俺は、修学旅行に養護教諭として帯同するんや。泉は一人で教室で自習するんか?」
「え⁉ 行くに決まってるじゃん!」
「最初から素直に行くって言えばええやん」
「修学旅行、どこいくんだっけ?」
「それを今、ホームルームで話してるんや!」
「今戻っても浦島太郎だもん」
「なに上手い事いっとるん?」
「で? どこ行くの?」
「それが人に聞く態度か? 広島、京都、奈良や!」
「どうやって行くの?」
「新幹線」
「はやぶさ?」
「永遠に着かんで? のぞみや」
「へー、大阪停まる?」
「停まるけど、降りるなよ? 帰ってこれんで」
「どこで降りるの?」
「それもホームルームで説明しとる!」
「森谷先生が高校生の時は、修学旅行、どこ行ったの?」
「同じや、広島、京都、奈良」
「想い出きかせて?」
「広島で広島焼き食べて、京都で八ツ橋食べて、奈良でシカを見た」
「全部、食べ物じゃん」
「シカは食べれんよ?」
「え? ジンギスカンじゃないの?」
「それ、羊な? しかも、肉」
「京都のお土産で八ツ橋買ったんやけど、財布に小銭しかなくて値切った」
「店員さんに色仕掛けでもしたの?」
「まだ手のついていない新品の商品を、試食したいって頼んで、開けてもらった」
「……なにしてんの?」
「いまなら、全額電子マネーにチャージしたって言えばタダでくれるんちゃう?」
「世の中、そんなに甘くないでしょ?」
「修学旅行って何もって行けばいいの?」
「やから、ホームルームで……、もうええわ」
「諦めないでよ」
「諦めさせんでくれん?」
「後で林太郎に聞く」
「最初からそうすれば良かったんやない?」
「先生との会話を楽しみたくて」
「……楽しんでたん?」
「修学旅行、楽しみだなー」
「冒頭の会話は、なんやったん?」
「あ、チャイムなった」
「……ホームルーム終わったやん」
「アーカイブ残してくれないかな」
「大事な話しやから、ちゃんと参加してくれん?」
◇
修学旅行当日。
十二月の第一週に四泊五日で広島、京都、奈良に行く計画らしい。
当日は荷物を持って、学校に朝早く集合となる。そこからバスに乗り新幹線のターミナル駅へ向かう事になっている。
学校に集合した生徒たちは、皆いつもより早い集合に眠そうだけど楽しみにしている生徒が多いから、集合場所となっている第一体育館は賑やかだ。
点呼をとり、人数を確認する担任の先生たち。その横で、一人おしゃれなロングコートを着た森谷先生が体調の確認を行っている。海斗先生も行くらしいけど、こちらは薄手のダウンコートを羽織っており、どちらも注目を集めている。
この学校、若い先生少ないもんな。
クラスの女子も、森谷先生や海斗先生と一緒に観光したいって張り切っている。
学年主任が、シスター(教頭)に出発の挨拶をして、A組から順にバスに乗り込む。
俺が心配しているのは、バス移動が多い事。
乗り物酔いが結構酷い体質で、森谷先生にも事前に相談していた。
その甲斐あってか、移動の最初のバスは、A組のバスに乗ってくれるらしい。
「泉、これ飲んどき」
手渡されたのは小さな錠剤。
「なにこれ?」
「酔い止め、バナナ味やで」
「水ないよ」
「水なしで飲める。そのまま口の中で溶かせばええんや」
恐る恐る口に入れる。味関係ないよ、やはり薬だ。マズい味が口の中に広がる。
「余計酔いそうなんだけど」
「なるべく前の席に乗ったほうがええで」
森谷先生曰く、バスのエンジンは後ろにあるから後ろの席は振動で酔いやすいとか。
「俺は前に座ってるから、酔ったらすぐ言ってな」
「酔ったら話せないから隣がいい」
「しゃーないな、学年主任と席変わってもらうわ」
さりげなく隣の席をゲット。学年主任が林太郎の隣に座る事になり、林太郎は困っていた。
こういう時、A組で良かったと思う。長谷部のいる特別選抜クラス、G組は最後尾となるからちょっと離れて寂しいんだけど、森谷先生は先頭にいる事が多いらしいから嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます