第34話

 今日は学園祭。

 秋の土日を使って、二日間、開催される。

 目玉は、講堂で行われる吹奏楽部の演奏会。大会でも金賞の常連である、吹奏楽部に入部したい生徒は多い。

 文化部の代表とされる所以である。

 将来、入学を希望する中学生や、他校生も多く訪れる。

 学校の指定通学カバンの他に、購買のみで売られている校章入りのサブバッグがあり、それを購入する事を目的として来校する人もいるんだとか。

 そんなにいいの?あのバッグ?

 女子は持っている人多いけど。男子は荷物少ないし。坂道一キロ登ってくるの?バッグ買うために?よくわからない。

 クラスの出店は、俺が保健室に登校している内に決まっていたらしい。

 なに?コスプレ喫茶って。

 この学校、コスプレ好きな人多くない?

 それぞれ着たい衣装を挙げていった中に『白衣』ってあって。森谷先生の正装は、コスプレ認定されているらしい。

 だって、ついこの前知ったけど、いつもメガネかけているの、ちゃんと先生に見えるように変装しているんだって。視力は悪くないって。つまりは、伊達メガネだ。

 ああ、コスプレ用品に『伊達メガネ』が追加されてる。

 もう、あの人、全身コスプレ中じゃん。

 うちのクラスの出店、手伝わせようかな?

 去年はケガの手術で入院していた頃だから、学園祭は今年が初めて。

 こういうのって、彼女とかいる人は楽しいんだろうなー。校内を堂々といちゃいちゃできるじゃん?

 別に校則で男女交際は禁止されていないし。

 彼女なー。

 森谷先生に、女子の制服着せようかな?

 ラックに掛かっているコスプレ衣装の中にセーラー服あるし。

 先生に、スリーサイズを聞いた事がある。

 上から100・100・100ってごまかされたけど。絶対、そんなに大きくないって。メジャー二周すれば、そのくらいはあるって言ってたけど。一周は何センチ?

 そもそも、一メートルは何センチ?

 そんな事を考えながら、保健室に向かう。

「何しに来たん?」

「コスプレ衣装を借りに来た」

「そんなん、どこにあるん?」

「いま着ているじゃん」

「白衣は正装やって何回言わせるん?」

「うちのクラスでは、白衣+伊達メガネはコスプレだって答えが出た」

「誰が言ったん?」

「多数決で、全会一致で可決された」

「一クラスまとめて手当放棄するで?」

「クラスを代表して白衣を借りてこいって、だから代わりの衣装を持ってきた」

「なんで制服?」

「俺の希望」

「女子の制服しかないやん」

「セーラー服かブレザーか二択だよ?」

「どっちも女子やん」

「サイズ的にはいいかなって」

「スリーサイズ教えたよな?」

「一メートルが何センチか分からなかった」

「一メートルを超えるのは身長だけや」

「時速は?」

「車に乗れば一五〇キロは出る」

「スピード違反で捕まる前に、制服着て?」

「高速道路には最低速度があるんよ」

「何キロ?」

「五十キロ」

「軽すぎない?」

「体重ちゃうで?」

 結局、言いくるめて白衣とメガネを借りる。

「なあ、白衣とメガネ貸すなら服着替えなくてもよくない?」

「いま気付いたの?」

「確信犯なんかい!」

「気を付けてよー? 悪い男にだまされないようにね?」

「今、目の前の男にだまされてるんやけど?」

「将来、良い夫になる予定だから」

「金髪+ピアスが何言っとるん?」

「俺、白衣着るとマッドサイエンティストっぽくない?」

「なにそれ?」

「悪の科学者」

「厨二病やん」

 森谷先生の女子制服コスプレ、正直可愛い。なんで入るんだこんな小さい服。

「来客の予定あるから、ペンは返せや!」

「なんでペン? ていうか、来客って誰?」

「秘密?」

「なにそれ、あやしい! 密会?」

「ちゃうわ!」

「じゃあ、俺の冬服置いていくからそれ着て」

「暑いやん、なんで冬服?」

「だって、制服一セットしかもってないもん」

「……なんで学校にあるん?」

 普段、タイトな服着ないから分からなかったけど、女子の制服、サイズぴったりだった。

 大丈夫?あの人?

 あの恰好で校内巡回していたら、ナンパされそう。

 白衣+伊達メガネは好評だった。

 どこ歩いても森谷先生のコスプレ?って言われた。みんなコスプレ認定しているんだな。

 夕方、保健室に再び立ち寄る。

「森谷先生、お疲れさまー」

「ああ、いま来客中やから後で来てくれん?」

 ……あれは、前の保健室の先生? 赤ちゃん連れて来てた、何の話?

 春に聞いた話を思い出した。

 前の先生が戻ってきたら契約終了だって。

 保健室前の階段に座って、考え事してた。仕方ない事、でも、卒業までは一緒に居たい。

 しばらくして、保健室から出てきた女の先生に会釈して、保健室に入った。

「……なんの話だったの?」

「来年の四月から、学校に復帰するって」

「……じゃあ」

「この前、朝礼でも言われてたし、覚悟はあったんやけどな。今日、シスター(教頭)に呼び出された」

 頬を冷や汗が伝う。残暑が厳しい日なのに、体はまるで氷の板のように冷たく硬ばっていた。

「自分の博愛の概念では、泉の面倒は見きれないから。責任もって、卒業まで森谷が面倒見ろ、ってな」

「……へ?じゃあ」

「泉が、卒業するまで契約する、って話」

「先生!」

 嬉しくて、思わず抱きついた。

 優しく、抱きしめ返してくれた。

「こら、喜ぶな! 他の生徒、八九九人と同じくらい手がかかるって言われてるんやで?」

「それでもいい!」

「泉、あと一年半、いっぱい楽しい想い出つくろうな?」

「うん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る