第21話

 六限が終わると、掃除の時間がある。

 大体一クラスは六班で構成されており、二班ずつ教室・特別室・廊下など、分担して清掃を実施する。

 トイレ掃除は清掃業者が担当しているが、清掃業者が入るのは午前中のため、夕方は生徒がトイレ掃除を担当する事になっている。

 現在、保健室の清掃は中等科の生徒が担当している。邪魔になるといけないので、急ぎの用事がある時以外は職員室に避難している。

 ……そろそろ、清掃が終わった頃かな?

 保健室は職員室の真下にある。保健室の両隣は事務室と保健準備室。

 保健準備室は、保健室登校の生徒が待機する場所で、授業に出られない時はここで自習をする事になっている。

 時代の変化からか、ストレスを抱えて不調を訴える生徒が増えている。保健準備室はいつもぎゅうぎゅう。

 なるべく、教室に行ける様にフォローはしているが、無理して学校にすら来れなくなったら大変だ。たまに顔を出して雑談したり、勉強を教えたり、真剣に悩み相談にのったり。

 決して、泉の話し相手ばかりしている訳ではない。ちゃんと仕事している。


 職員室前の階段を下りていると、下から話し声が聞こえてきた。

『好きです。付き合って下さい』

 ……ん? 告白?

 リアルに告白されている現場を見るのは初めて。あれ、でも自分も告白された事はあった気がする。いや、いま掃除中やし。

 ていうか、階段下は保健室の前。

 ……保健室、入れないやん。

 告白されている相手は、金髪? ん? 泉?

 ……そうよな、黙っていれば美形やしな。こんなおっさんより同級生の女の子の方がいいよな。

 ……ん? なに今の?


 告白現場を離れる様に、階段を上がり適当に歩いていたらしい。

 初めて見る廊下に辿り着いた。

 ……ここ、どこや?

 ぼーっとしていたら道に迷ったらしい。なんで?

 中等科のある棟はなじみが薄い。元々、自分も高等科から入学したから詳しく知らんし。

 どうしよう。戻っても、保健室入れないし。気まずいし。

 廊下のすみっこで小さく丸くなってみた。

 白衣のポケットにスマホが入っているから、海斗に電話して迎えにきてもらおうか?

 ……でも、今いる場所が分からんのや。


「森谷先生じゃないですか!」

「どちら様ですか?」

「中等科の保健体育教師です!」

「ああ、初めまして」

「ずっとご挨拶したいと思っていたんですよ」

「そうでしたか」

「こんなところで何をされているんです?」

「いえ、何も」

「お時間ありましたら、今度お食事でもいかがでしょうか?」

「はい?」

「養護教諭と保健体育教師は共通点も多いですし、仲を深めておきたいと思いまして」

「……そうですか」

「是非、筋肉について語り合いませんか?」

「なぜ?」

「森谷先生はとてもスリムでいらっしゃいますから! 是非、栄養のあるものを一緒に召し上がりませんか? タンパク質など!」

「……いえ、間に合っています」

「遠慮なさらず! 好きな食べ物は何ですか?」

「……米と肉」

「お肉! いいですね! 肉といえばタンパク質、そして筋肉! 是非お食事をご一緒に!」

 ……なに、このひと?ていうか話聞いて!

 なんで、こんなに近づいてくるん?


「森谷せんせー」

 聞きなれた声がして驚いて振り向く。

「……泉? なにしとるん?」

「森谷先生探してたの! 掃除終わったよ。保健室戻るよ」

 強引に手を引っ張られ、その場を後にした。呆然とする、体育教師。

 というか、なんでおるん?

「先生、筋肉には気を付けてよねー」

「……泉も筋肉やん」

「俺は良い筋肉なの!」

 ……なんで、安心するんやろ?

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