第12話
「森谷先生、おはよー」
「泉、なんでおるん? 今日、土曜日やで?」
「長谷部と一緒に、ボランティア活動に参加するの!」
「ほお、感心やな。どこ行くん?」
「老人ホームだって。俺、お婆ちゃんっ子だから、すごい楽しみ!」
「そうか、沢山お婆ちゃん孝行してこい」
「ボランティア活動に参加すると、内申点が上がるって長谷部が言ってた」
「ああ、泉はマイナスからのスタートやもんな。絶対、老人ホームでは口にすんなよ?」
「行ってきまーす!」
先日の健康診断の残務整理。土曜日だけど、休日出勤。
前年度の健診結果と比べて、異常がないかを慎重にチェックする。
……気になるのは、高等科一年生。
校医の問診で不調を訴える生徒が多かった。まだ四月、新しい環境に慣れるまでの、正常な反応にも思えるが。
◇
「森谷先生、ただいまー」
……って、あれ? 先生いない。どこ行ったんだろ?
……え⁉うそ。先生、ベッドで寝てる! 寝顔、可愛い!
毎日遅くまで仕事してるって、長谷部が言っていたもんな。生徒会長の長谷部は、生徒会の仕事で下校時間が遅くなると生徒玄関が閉まっているため職員玄関を使う。
その際に、保健室の前を通るから、保健室に灯りが点いている事を知っていたという。
どうしよう、エアコン点いてるから風邪ひいたら大変だ。
この前のブランケットどこにあるんだ?
◇
「俺も、岸先生と同じ保健室の先生になる!」
「今すぐ進路を決めなくても良いんじゃないか? 蓮は成績も良いしどこの大学だって入れる。大学に入ってから、進路を決めたって遅くはないんだぞ?」
「ええねん。もう決めたんや。あんたと同じ景色がみたい。動機はそれで十分や!」
――――夢?
未成就で終わった、恋心。
あの日、想い出と共に保健室に閉じ込めて、卒業した。
……ああ、何で今頃思い出すんやろ。
「森谷先生、おはよー」
「……デジャヴ?」
「もうー、寝ぼけないで」
「ああ、ブランケット掛けてくれたん? ありがとう」
「どういたしましてー。ねえ、先生、これあげるー」
……折り紙、の、鶴?
「老人ホームのお爺ちゃん、お婆ちゃんと一緒に俺が折ったの」
「へえ、器用やな」
「本当は、あと八九九羽折って全部で九〇〇羽にしたかったんだけど、時間がなくて」
「……九〇〇? 千羽鶴じゃないん?」
「違うよ! 九〇〇で合ってるの! この学校の生徒は全部で九〇〇人でしょ?」
「おん」
「いつも遅くまで頑張っている先生に、生徒の皆九〇〇人がきっと、ありがとうって思ってる。それでね、生徒の皆九〇〇人が先生頑張れって応援してる。だから、俺は生徒代表として先生に鶴を折ったの。こいつは一羽だけど、九〇〇羽分のパワーを持っている。名付けて、スーパー鶴!」
……そこまで考えてくれているとは思わなかった。
「……それは強そうやな」
一瞬、視界がぼやけた。
あんたは、こんな景色を、毎日ここから見ていたんやね。
……なあ、岸先生?
いつになったら、気付いてくれるん?
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