第2話 エヴァとブルーノ

「おかえり〜 エヴァ‼」

「ジャッキー 人の家でその格好はくつろぎ過ぎじゃない?」

履いていたジーンズを脱ぎ捨てて 我が家の居間のソファーにTシャツと面積の少ないパンツで

横になる ジャッキー

長身でスリムな肢体におもわず目を奪われてしまい 一瞬“むっ”とする エヴァ

「今この家には女しか居ないから大丈夫!」

そのままの姿勢でテーブルに置かれたポテト·チップスに手を伸ばす


「それにしても今日は街が死んでいるみたいに静かだよね。。。」

ジャッキーが窓の方へ目を向ける

「昨日の決勝でブラジルがフランスに負けちゃったからね~ 勝ったら勝ったで煩いしね~」

4年前 前回のアメリカ大会 優勝時には深夜まで花火と車のクラクションが鳴り響き

15歳だったエヴァは兄貴の運転するBizの後ろに跨りブラジル国旗をはためかせながら

街を走り回り 行き交う車に手を振り喜びあったのは、いい思い出である



「そういえば、次のワールドカップって日本と韓国の共催なんだって! 行ってみたいよね〜

サッカーはどうでもいいけど 秋葉原に行ってみたいな〜」

「次のワールドカップは2002年か。。。その頃には弁護士になれてるのかな〜?」

「エヴァ2次第だね!」

「そうだね! あの娘には頑張ってもらわないとね!!」

目を合わせ “ぶっはは〜”と笑い合う2人

その時 階下に聞き慣れたエンジン音が止まり 駐車場の鉄柵が“ギィー”と開く音と同時に

ソファーから跳ね上がり 脱ぎ捨てられたジーンズを掴むと 飛ぶようにトイレに駆け込む

ジャッキー



それから5分後

トイレで化粧を直し アニメ柄のTシャツから白のブラウスへと着替えお尻の曲線が強調された

ジーンズを履いたジャッキーが当然のように我が家の食卓の兄貴の横に座る

「お兄様 今日は早かったんですね」 そう言うと

「早くないんだよ。。。本当なら今日は午前中で帰れるはずだったのに。。。」

あくびをしながら新聞を広げるブルーノ


ブルーノが持つコップに泡が立たないように慎重にビールを注ぐ ジャッキー

それを見ていたエヴァがコップを差し出すが“ドンッ”と目の前にビール瓶を置かれ

ブルーノの為にお皿に料理を盛り付け始める ジャッキー

(ブラジルではお酒は18歳からです)


実を言うと ジャッキーが頻繁に家に顔を見せるのは、日本語を覚えるという目的以上に

兄のブルーノに会いたいがためである

勤務時間が不規則な警察官なために、いくら待っていても会えないことの方が多いのだが

本人曰く「高校生の時に初めて見て一目惚れをした 上手いこと結婚できれば日本に行くビザが手に入る」という純粋なのか? 不純なのか? そういった理由で数年に渡り片思いを続けている

男性と付き合った経験も無く 純情すぎるが故に告白も出来ず

鈍感なブルーノにもその想いを察してもらえずに延々とこの関係が続くのかと思うと

とても面白いのでエヴァも放置する事にしていた



「ところでエヴァ 最近エヴァ2を見ていないんだが。。。」

「あの娘で居続けると疲れるからね 学校だけで十分だよ〜」

「そう言うがな 俺の部屋もお前の部屋も足の踏み場もないほどの惨状なんだが。。。」

「あの娘は家政婦じゃないの!! 自分で掃除して!! ついでに私の部屋も!!」

“ドンッ”とテーブルを叩く エヴァ

「お兄様の部屋でしたら 私が掃除しますのに お兄様の部屋を見てみたい」

「いや 気持ちは嬉しいんだが。。。若い女の子に見せられる状態では無い。。。」

「見られたらまずいあんな物や こんな物が出てくるもんね〜」

手で胸に小山を2つ作り ニヤニヤっと笑う エヴァ

食事も終わり3人で2階の居間へと移動しテレビをつける


「そう言えば 私が家庭教師をしてるアドリアーノの話なんだけどね」

「「エヴァ2がねっ!」」

声を揃える ジャッキーとブルーノ

「エヴァ2も私でしょう!? その反応はおかしんじゃない?」

「いやもはや別人格 というかお前がエヴァ2に養ってもらう未来しか見えない」

その意見にうんうんと頷く ジャッキー

「ま〜 そうなるんだろうけど。。。」

うんうんとあっさりと認める エヴァ

「それで? アドリアーノがどうしたって?」

「彼のお兄さんが、3日ほど帰らずに連絡も無いんですって それで彼のお父さんとお爺ちゃんがブードゥーの呪いだって言ってるらしいんだけど。。。」

“ブードゥー”というワードにぴくりっと反応したブルーノがエヴァを見る

吸いかけのタバコを灰皿で揉み消し 他に誰も居るはずのない部屋を見渡し

ソファーの背もたれに預けていた背中をゆっくりと離すと 声を押し殺して話し出す

「ここだけの話なんだが 今日の昼頃に身元不明の死体がでてな。。。」

うんうんと頷きながら 続きを促す エヴァとジャッキー

「被害者は20歳前後の男性 死因は検死の結果待ちだが、おそらく頭部の外傷だな

持ち物、指紋からは未だ身元の特定は出来ていないんだが。。。その。。。」

言いにくそうに話を濁す ブルーノ

「そこまで話したんだから言いなさいよ! 私の可愛い生徒のお兄ちゃんかもしれないって

思ってるから話したんでしょう!?」

「実は、現場がマリアーバの河川敷なんだが遺体の周りには、まるで黒魔術の祭壇の

ような装飾が施されていたんだ。。。」

喘ぐように喉を上下させ ようやく言葉を絞り出す エヴァ

「被害者と現場の写真は持っていないの?」

「持って帰るはずないだろう! 明日アドリアーノのお兄さんの写真は手に入らないか?」


その後 翌日の打ち合わせをし、ブルーノに送ってもらうと駄々をこねるジャッキーをBizの後ろに乗せ家まで送る 

「エヴァ。。。きっとアドリアーノのお兄さんじゃないよ」

「そうだね お願いだからアドリアーノのお兄ちゃんではありませんように。。。」

心からそう祈る いつも明るいアドリアーノの悲しんだ顔を見たくはないから

「送ってくれてありがとう また明日」

「うん おやすみ」

未だ舗装されていない赤土が剥き出しの道を Bizのアクセルを慎重に開きながら 帰路へと着く














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