エヴァの事件録
@luyluy
第1話 エヴァとエヴァ2
日本から、最も離れた国ブラジル
そこには、たくさんの日本人の血を引く人が生活している 日伯両国の国策により
日本人が移民して来て 来年で90年らしい。。。。
いわゆる日系2世で、日本に行ったこともない彼女には祖母や母から聞いた
日本の生活や日本語には、それほど興味は持てなかった
しかし その反面、彼女の暮らす街の優良企業や人気のレストランのほとんどが日系人の経営であり
街を走る二輪車の99%が[HONDA]や[YAMAHA]であり 彼女の同級生の夢中になる対象が
自分のルーツである日系人の企業や日本製であるという事が彼女の自尊心を僅かながらに 刺激するという程度には、自分の中の日本人の血を認めてはいた。
そんな彼女の名前はエヴェリン·緑·島袋·ソッチ日本人には、馴染みのない長い名前だが
ブラジルでは、珍しくもなくファーストネーム·セカンドネーム·母方の名字·父方の名字という構成だ
これに結婚をするとパートナーの名字がプラスされるので、とんでもなく長くなるが ブラジルでは、普通である
家族や友人からは、エヴァと呼ばれている 顔見知り程度の人達にはジャッパと呼ばれたりもする。。。
今日も彼女は、兄から譲り受けた愛車 赤いHONDA Biz(100ccのスクーター)を駆り大学へと向かう
自宅から州道を、ほぼ一直線の通いなれた道を時速80キロで飛ばす およそ15分の道のりだが
彼女にとって思考をOFFからON ONからOFFに切り替える大切な時間だ
時速80キロに達すると彼女の脳内で【カチッ】と音がして 日常のだらしのない自分から
大学のキャンパスに相応しい頭脳明晰なしっかりとした人格へと切り替わる
二重人格では?と聞かれるが 決してそうではないと。。。思う
自分で意識して切り替えなくては、だらしのない自分が24時間を支配してしまう為
自分の強靭な意志の力で切り替えているのだ。。。と思う
実際に、この方法に目覚めたのが兄のバイクを拝借して乗り回していた15歳の時で
時速80キロに達した瞬間に何かが閃いた 今日のテストでどうしても解けなかった問題が。。。
どこに置き忘れたのか、失くしてしまったのかわからなかった鍵の在り処が。。。
不思議な事にONの状態のまま帰宅すると 宿題がすらすらと進み
足の踏み場もないほど散らかった部屋にどうしても我慢ができずに、テキパキと片付け掃除を始める
自分の部屋に満足すると夜勤で留守の兄の部屋まで掃除をする始末である
これが疲れ果てて寝るまで続くわけで 自分にとって不健康きわまりない状態なわけだが
必要な人格であることに気づいて以降のエヴァは、成績優秀 一部では品行方正
一部では怠け者という自分を、見事に使い分け 州立大学の特待生を勝ち取った訳である
いつもの駐輪場にBizを停め 常備している布でBizのフロント廻りを拭いていると肩越しに声を掛けられる
「おはようエヴァ」高校からの同級生で名前はジャッキリーニ愛称でジャッキーと呼んでいる 男の子と間違われそうな短髪で長身の女の子だ 今日も”Os Cavaleiros do Zodíaco"(ブラジルで大人気の日本のアニメ 聖闘士星矢)”と書かれたTシャツだ
「おはようございますジャッキー」軽く会釈をして朝の挨拶を返す
「今日もエヴァ2だね」ニヤッと笑う ジャッキー
「その呼び方は、好きになれません 他に人がいる時には、やめてくださいね」
「エヴァ1の方が面白くて好きなのに。。。鼻にピーナッツ詰めて 取れなくなって大騒ぎしたり」
「やめてください! 子供のときの話です」本気で赤面するエヴァ 「17歳のときね。。。」
「今日の講義は?」いまだ顔の赤いエヴァに聞いてくる
「犯罪心理学です C3棟です」
「またマイナーな講義を。。。」
「弁護士になる為には必須ですから それに面白くって私は大好きです」
「そっか 私は、あっちだから またね〜」 手を振って見送るエヴァ いつもの朝の風景である
席も疎らな犯罪心理学の講義 講師を務めるのは連邦警察で凶悪犯罪のプロファイリングを担当していた
50代の元捜査官で アメリカで数年前に実際に起こった未解決事件を様々な角度、人物に焦点を当てて
プロファイリングしていく 実に有意義で面白い授業内容なのに不人気な理由がわからない
そんな講義に集中していると“あっ”と言う間に時は過ぎ
講師のアンブローズが本を閉じ 講義の終了を告げる
そそくさと中庭に出て、いつものベンチに座り 家から持参してきたサンドウィッチをかじる
裕福な家庭の学生は、中庭を抜け食堂へと歩いていく その姿を横目に見ながら
水筒のコップを捻り コーヒーを注いでいると 横にジャッキーが座る
「あたしの分、ある?」サンドウィッチを指差し聞いてくる
「1レアル(1レアル=約30円)です」サンドウィッチの包みを1つ渡す
「ツケておいて」我が家もそれほど裕福ではないが ジャッキーの家庭はファベーラ(スラム)に近い地区に住んでおり別居している父親の僅かな仕送りで生活しているらしい あまり多くを語らないが。。。
「午後は講義無いんだよね〜 エヴァの家に行ってもいい?」
「ごめんなさい 午後は図書館で勉強してから サークルに顔を出します」
「そっか じゃあ一人で行ってるね エヴァのお母さんには遅くなるって言っておくよ」
彼女の目当ては、我が家で契約している日本の国営テレビの衛星放送と、日本語を話す 祖母との世間話である
彼女は独学で日本語を話すほどの 日本マニア。。。と言うより日本語のアニメを見るために日本語を学ぶ
アニメオタクであった
「はい では、お願いしますね」
その後 図書館に行き 人権問題の過去の判例集を丸暗記し 3時からの1時間を1学年後輩のアドリアーノの家庭教師に費やす
「エヴァ先生 去年のブードゥー教の生贄にされた子供の事件覚えてます?」アドリアーノは素直で頭が良く
生徒としては楽な男の子なのだが 唐突に関係のない話を挟んでくるのが玉に瑕だ
「覚えていますけどブードゥーという単語は相応しくないですよ ブラジルでは、カンドンブレが正しいですね」
「生贄とか黒魔術に呪いとか本当に効果があるんですかね?」
「ありますよ 生贄はともかく呪いに関しては、効果はあります ただ呪われている本人が呪われているという事を認識する必要があると思うんですけどね 例えば 貴方だって誰かにお前を呪ってやる!!って言われたら嫌な気持ちになりますでしょう? その嫌な気持ちにさせる事が呪いの効果ではないでしょうか?」
「そんな事 気にしなければ何でもないじゃないですか」小馬鹿にしたように笑い飛ばす アドリアーノ
「気にしない人は、何でもないでしょうね でも世の中には、気にする人の方が多いのですよ ちょっと気にする人もいれば ノイローゼになるほどの人も居るんです 実際に死亡した例もありますし。。。」
「エヴァ先生は、気にする人ですか?」
「どうでしょう? 多少は気にするかもしれません。。。」
「実は兄貴が3日ほど帰ってこないんです 珍しい事じゃないんですけど 連絡も一切取れなくって 父や祖父がブードゥーの呪いだとか騒いでて。。。」
「呪いだとか言う 根拠があるのですか?」
「それが。。。数週間前に黒魔術士の女の人が飼っている黒猫を兄貴に殺されたって怒鳴り込んできた事があって」
「あの街外れの教会の?」
曖昧に笑いながら頷く アドリアーノ
今日もまんまと授業を脱線させられてしまった
「じゃあ 来週までに。。。ここから、ここまで暗記してきてくださいね」
「うげっ また暗記ですか?」苦虫を噛み潰したような顔で抗議をする
「また来週ね お疲れ様でした」
駐輪場に向かい常備している布で愛車Bizのシートを拭き跨がる
大学の外周道路に乗り入れ アクセルを開ける この道は交通量も少ない上に長い直線が続き、実に気持ちが良い
ギアを3速から4速に上げ さらにアクセルを開く 時速80キロに達し エヴァの脳内で【カチッ】と音がしてスイッチが切り替わる エヴァ2からエヴァ1へ
「ぷっは〜 疲れた〜速度を落として安全運転、安全運転っとまたエヴァ2に切り替わったら
疲れるからね〜
課題も済ましたし、サークルに顔を出してから家に帰って、ジャッキーとアニメ見て夜ご飯まで寝よう。。。」
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