Hulu実写化『十角館の殺人』〜見事な作品でした

奈良原透

『十角館の殺人』

1987年の作品なんですね。


このトリックは、今だに、全く色褪せていない。


古典的なクローズドサークルの孤島での事件というのがまず、嬉しかった。


が、クローズドサークルの作品のパターンは出尽くしており、こちらも早々驚きはしないのだけれど、こちらの想定の上を行くトリックで、本気で驚いた。


今回の映像化でも、強調されていた“あの一行”を読んだ時の驚き、ショックは、今も忘れられない。


快感を覚えるほどの爽快なやられた感。


ミステリーを読む時の醍醐味を味合わせてくれた一冊である。


思えば、『十角館の殺人』を機に始まった新本格派ブームはすごかった。


綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖等の作家が次々と作品を発表し、読み漁った。


新本格派を牽引したのは、やはり綾辻行人だった。


この方のスゴいのは、叙述トリックだ。


もし読んでない方がいらしたら、ぜひ読んで欲しい。


館シリーズも見事なんだけれど、私が心底驚いたのは『殺人鬼』。


当時流行りのスプラッターに乗った作品かと思って読んでいたら、最後の最後であらビックリ。


読んでいる途中、殺人鬼の殺し方のあまりのエグさに気分が悪くなること数度。


お金を出して買ったハードカバーで、好きな綾辻作品だから、読むのをやめなかったのだけれど、ラストで知る叙述トリックの見事さに素直にお見事と拍手してしまった。


叙述トリックは、文章得手の方にしか成功し得ず、また、読み手のこちらも色々な作品を読んでいくうちにパターンを学んでいく為、スカッと決まると嬉しい。


その点で、読書好きの方で、綾辻作品を未読の方がいらしたら、叙述トリックの名手の作品をぜひ読んで欲しいと思う。


叙述トリックの大きな特徴の一つは、文章の力で読者をミスリードさせ、最後の種明かしで驚かせるのが醍醐味なので、映像化が不可能な作品が多いということである。


そして、『十角館の殺人』が、映像化されるという。


煽り文句も“あの一行の映像化”と、原作を読んだ人であれば、その一行を読んだ時のショックを思い出さずにいられないもの。


それは、期待します。


もちろん、ヘボい映像化ならケナし倒します。


そんな気持ちで、Huluを見る。


全五話。


お見事で御座いました。


          *


この後、極力、ネタばれ無しで書きたいと思いますが、どうしても感想の中で匂わせてしまう部分もあります。


原作を既読の方であっても、登場人物の心象を丁寧に描き人間の物語としての側面も深くなっているので、見応えはあると思います。


また、原作を知っているからこその面白さもキチンとあります。


特に、私には原作で少し唐突に思えた最後の最後の“行動”を取る理由が、すっきりと腑に落ちたのは、特記したいです。


           *


今回の映像化で上手いと思ったのは役者陣である。


ドラマが好きなので、別の番組で顔は見たことがあるが、パッと名前が出てこないような若手の実力派の役者さんを揃えたこと。


『十角館の殺人』は青春ミステリーの側面もあり、閉じ込められた空間で誰が次に殺されるのか、仲の良い仲間の間に生まれていく猜疑心が見どころであるが、それを丁寧に描いているのである。


皆さん、これから伸びていくだろうなと思える魅力だった。


また、事件と並行して進む島の外の物語には期待の若手奥智哉を中心に、青木崇高、角田晃広、草刈民代、濱田マリ等錚々たるメンバーが固めており見応えがある。


奥•青木コンビは、とても良いバディとなっていて、シリーズ化もありと思った。


島の様子を映像で見ることができたのも良かった。


やはり、鬱蒼とした森の中に立つ洋館の姿は、それだけで興奮するし、焼け跡のタイル、コーヒーカップ等々、頭の中で想像するのも良いけれど、実在の映像として見るのも、刺激的だ。


また、過去の出来事を丁寧に描いてくれたのも嬉しい。


犯人の“動機”と最後の行動に説得力が出て、全五話を見終わった時の余韻が心地良い。


また、全五話を一気見をし、自身のネタばれにならぬよう、途中で俳優さんの名前を知りたいと思う気持ちを抑えながら見ていた四話ラストのアレに続き、キャストのクレジットが流れたのには、製作陣の配慮と原作へのリスペクトを感じて嬉しかったな。


原作を知っている私でも、一話、二話を見返して、丁寧な作りを再確認してしまった。


時に、原作を知っている者には宣伝の段階で“そこを宣伝で使ったらネタバレだろうがっ!”と怒りに感じる映像化も少なくない。


もちろん、商業主義で、お客さんを映画館に集まる、あるいは、視聴率を上げるためには必要なのだろう。


けれど、サブスクの会員数を維持するために、良質の作品を送り出さなければならない使命を持つ配信系会社のオリジナル作品の方に次々と良作が生まれているのも事実だと思う。


ここは、テレビ、映画の制作会社に、立ち止まって考えて欲しい点ではある。


また、当時を生きた私には、映し出される時代がいちいち懐かしかったな。


スマホ、ネットのない時代だから成立した作品でもあり、若い方々には、そこも面白く思えるだろう。


おそらく国内だけではなく、世界を視野に入れての制作だろうが、期待を上回る丁寧な作りに感服した一作だった。








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