メンタル強強の変態VS主人

「お電話代わりました、大熊猫パンダです!」


 後輩達に好奇の眼差しを向けられているのか、背中がチクチクと痛む。渋々電話を代わった大熊猫パンダだったが、相手から指名されたのだから仕方ないと開き直っていた。


『あっ、あっ! 君が大熊猫パンダくぅん!?』

「はい、そうです! 僕に何か御用でしょうか?」


 ハァハァとした男の息遣いが耳につき、全身に鳥肌が立ってしまった。鹿目が言った通り、同性の大熊猫パンダでも気持ち悪いと感じてしまう。


 相手の話を聞かずに早々に切ってしまおうか――そんな事を悩んでいたら、男が早口でペラペラと喋り始めた。


『この前の大熊猫パンダ君の試合、すっごく格好よかったよ! 君の頑張りに僕はもう感動しちゃってさぁ! 君の事を考えるだけで下半身の興奮が治んなくてっ! 居ても立っても居られないまま衝動的に電話しちゃったよぉ!』


 な に が 下 半 身 の 興 奮 が 治 ら な く て 衝 動 的 に 電 話 し ちゃ っ た だ。 は っ 倒 す ぞ 、 こ の ド 変 態。


 そう言いかけた大熊猫パンダだったが、ここで悪知恵が働いてしまう。背後で見守っていた後輩達に口パクで『こっちに来い』と呼びかけ、近くに集合させたのだ。


「なんですか、大熊猫パンダ先輩……」

「シーッ。ええから静かに聞いといて」


 大熊猫パンダがニヤリと笑った後、スピーカーのボタンを押し、ボリュームを最大に上げた。


 ハァッ、ハァッ……という男の吐息が受話器から大音量で流れてきた。しかも今は深夜帯に差し掛かる頃。廊下には人がいないのでかなり響いて聞こえる。


 後輩達は笑いを堪えるのに必死になっているのか、顔が真っ赤になっていた。大熊猫パンダは証拠を撮ろうとポケットからスマホを取り出し、録音開始ボタンを押す。


「あのぅ……今、何をやってるんですか? ずっと、ハァハァッて息遣いが聞こえるんですが」


 〝オ●電〟なのだからやる事は決まっている。

だが、大熊猫パンダは証拠となる音声を撮る為、をあえて聞き出そうとしていた。


『あっ、あっ? 何を?』

「えっと……息苦しそうな声が聞こえてくるんで、心配になっちゃって。今、何をされてるんですか?」


 大熊猫パンダが心配そうに聞くと『な、何をって……』と反応に困っているようだったので、わざと頭が悪いフリをする事にした。


「僕、頭が悪いんで言ってくれないと分からないんですぅ。だから、ちゃんと口に出して言って欲しいんですぅ」


 あの国民的アニメに出ているタ●ちゃんのような裏声を出すと、後輩達は耐え切れずに「ブフォッwww」と吹き出していた。


 普通の人なら揶揄われていると感じ、すぐに電話を切るだろう。しかし相手は普通の人ではなく、見知らぬ相手に〝オ●電〟をするような変態なのだ。メンタルも尋常じゃないくらいに強強だった。


『え〜? 大熊猫パンダ君、僕が今何をしてるか知りたいのぉ?』

「はい〜、めちゃくちゃ知りたいですぅ」

『分かったよぉ……。大熊猫パンダ君にだけ特別に教えてあげるね?』


 特 別 っ て な ん だ 、 特 別 っ て。


 関西人の血を引く大熊猫パンダはそうツッコミたかった。しかし証拠となる音声が録れるチャンスだと思い、ここはグッと耐える。


『今、僕ね……試合で見た君の肉体美を想像しながら自分のアレを握ってるんだ』

「何を握ってるの? 全然聞こえなかったから、もう一回言ってくれる?」


 後輩達がまたもや吹き出す。「先輩、やめて下さいよwww」と笑っていたが、言ってしまった手前、引くに引けなくなってしまっていた。


『じ、自分のチ●コを……』

「自分のチ●コを? 電話が遠くてよく聞えないなぁ〜」

『チ、チ●コを握って……』

「握って? それからどうするの?」


 どうやら興奮しているらしく、ハァハァハァハァ……という吐息が激しくなってきた。大熊猫パンダはさっさとフィニッシュさせてやろうと思い、「ほら、いつも通りに扱いてごらん?」とAV男優っぽく優しく囁いてみる。


 後輩達は耐え切れず腹を抱えて爆笑した。数人の人間が何事かと覗いていたが、涙が出るくらいに笑い転げていた為、誰一人説明する事ができなかった。


『おっ!? おほぉぉっ……アァァァッ!!』


 スピーカーから雄の声が大音量で聞こえてきた。声を聞くに激しく達してしまったのか、こればかりは大熊猫パンダも耐え切れず、吹き出してしまう。


 ちゃんと録音はできているとは思うが、最後の方は音割れしていそうな気がした。だが、証拠となる音声はバッチリ録れたと思ったので、大熊猫パンダは印籠を突き付けるかのようにスマホを持ち、「おい! よく聞けよ!」とスピーカーに向かって言い放つ。


「お前の会話は全部録音してるんや! うちの大学の女子寮にも〝オ●電〟かけてるそうやないか!」

『えっ……ろ、録音?』


 ここでようやく事の重大さに気付いたのか、男は動揺し始めた。どうやら快楽ばかり突き詰めていたせいで、今まで我を忘れていたらしい。


「お前、ええ加減にせぇよ! お前は気持ち良くてもこっちは気持ち悪いんじゃっ! しかも俺をオカズにして、チ●コ扱くとか趣味悪いねん! この音声記録持って、警察に被害届を――って……コイツ、切りよったわ」


 ツー、ツー、という音が虚しく鳴り響いている。


「キモッ! こういう奴、マジで無理やわ!」


 大熊猫パンダは文句を言いながら受話器を戻すと、後輩達が「やっぱり、大熊猫パンダ先輩はやってくれると思ってました!」と拍手で迎えてくれたのだった。


◇◇◇


 それから後日。バレーボール部の鹿目に昨日撮った録音を聞かせると、「なんなの、これ〜!?」と涙を流してゲラゲラと笑っていたそうだ。


 皆で話し合った結果、被害届は提出しなかった。

『◯◯大学のOBが、大学寮に迷惑電話をして逮捕!』なんてニュースが流れるのは、こちらとしても良い気分にならないという話になったからだ。


 大熊猫パンダの脅しが効いたのか、〝オ●電〟はかかって来なくなったし、女子寮にも男子寮にも平和が訪れた。それで良いじゃないかという話に落ち着いたらしい。


 主人が実際に体験したものだから面白おかしく書いてしまったが、これだけは伝えておきたい。


〝オ●電〟は犯罪です。


 さぁ、皆さんご一緒に!


〝オ●電〟は犯罪です!!

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