相談

「最近、女子寮に変な電話がかかってくるの」


 大熊猫パンダに相談を持ちかけてきたのは、女子バレーボール部に所属している鹿目だった。大学三年生になる鹿目は守護の要であるリベロとして活躍している。しかし最近、前十字靭帯を断裂してしまった為、今はリハビリ中心の生活を送っているようだ。


 大熊猫パンダ達も競技上、ウェイトトレーニングは毎日欠かさず行っている。その為、大学の授業以外でもリハビリに励む鹿目と顔を合わせる機会が増えており、今では他愛のない話で盛り上がる事も増えていた。


「変な電話って、どんな電話ですか?」


 大熊猫パンダの隣にいた一学年後輩の熊野が、首にかけていたタオルで汗を拭きながら聞く。すると、鹿目は少し言い辛そうな表情に変わった。


「男の人の息遣いがね、ずっと電話の向こうから聞こえてくるんだ。それでたまに、ウッ……! って呻き声が聞こえるの。電話の向こうで何やってるんだろうね、本当に気持ち悪くてさ――」


 一連の流れを聞いた大熊猫パンダと熊野は顔を見合わせて苦笑いした。その電話は大学の寮にかかって来る〝オ●電〟の事だと思ったのだ。


「あー、うん。なんとなく察したわ。ちなみにその電話って、誰宛にかかってくるん?」


 大熊猫パンダがそう聞いたのには訳があった。学生達は相手の顔を知らなくても、公式戦や練習試合を見てファンになり、電話をかけてくる事がある。


 男子寮でもそういった類の電話は稀にあるが、寮の電話番号は基本的にOGやOB、関係者しか知らないはずなのだ。まさか関係者が〝オ●電〟しているなんて想像したくもないが、もしかしたら……という懸念は拭えない。


 鹿目は少し考えた後、口を開いた。


「今は卯野ちゃんと鳥井ちゃんが多いかな。初めは二人共、寮にいますか? って聞かれてたんだけど、いないって言ったら大人しく切ってくれてたの。でも、最近は何も聞かずに、ハァ……ハァ……って。息遣いがねっとりしてて、思い出しただけで鳥肌が立っちゃう」


 それを聞いた熊野は「バレー部の美人さん達じゃないですか!」と目を丸くしていたが、大熊猫パンダは小さく溜息を吐いた。


「二人共、レギュラーやん。公式戦の時に観客席で二人の事を見とったんちゃう?」

「……やっぱり、大熊猫パンダもそう思う?」


 鹿目の顔が一気に青ざめた。大熊猫パンダが遠慮がちに頷くと、鹿目は顔の前で両手を合わせながら「お願いがあるんだけど……」と頭を下げてきた。


大熊猫パンダ、こういうトラブル事は得意でしょ? どうにかしてくれないかな? 気持ち悪くて電話が取れない子が続出してるんだよね」

「うーん、そうしてあげたいのは山々なんやけどさ。俺は男やから女子寮には入られへん。第一、いつ電話がかかってくるか分からへんやん」


 大熊猫パンダが申し訳なさそうに言うと、鹿目は「あー、確かにそうだね……」と肩を落とした。


「でも、男子寮にもそういう電話がかかってくるんだよね? もしかして、電話をかけてる人って同じ人だったりするのかな?」


 鹿目の発言に、大熊猫パンダと熊野は目を見開いてしまった。二人の反応を見た鹿目は何かを思い出したのか、ジャージのポケットに入れていたスマホを取り出す。


「そうだ、うちの後輩がいつでも警察に相談できるように録音しといたんだ。少し聞こえ辛いけど、データ送っても良い? 男子寮でも情報共有しておいた方が良いと思うんだ」


 久しぶりに面白そうなネタを見つけた大熊猫パンダは速攻で、「ええよ!」と快諾していた。


 しかしこの数日後、噂の〝オ●電〟が男子寮に掛かってくるだなんて、大熊猫パンダと熊野は全く予想していなかった。

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