第1話:魔法少女の苦悩

 私、『心音ここね響子きょうこ』、16歳!ちょっぴり恥ずかしがり屋のノロマで愚図で地味な…えっ、魔法少女系主人公の挨拶がそんな否定的がいいかって?

 ごめんなさい、私、幼い頃から自信が無くて…でも、そんな私には秘密があります。

 ある日、私は愛の妖精『ラブるん』と出会い、魔法少女『セイントレスラブハート』に変身し、悪の組織【サンドリヨン・ヴィレイネス】と戦うことになったの。

 そこから私は真面目で、しっかり者の『水神みずがみ晶子しょうこ』ちゃんや、元気いっぱいの令嬢さんの『金星かなほし美宇みう』ちゃんと共に魔法少女を頑張っています。

 そんな私は今…

「グハハハァ! さっさと金を振り込めやノーマリアン共! 超雄ヒーローなんか来ても、最強の俺様には敵う相手じゃないぜ!」

「たっ、助けてくれぇ!」

「怖いよぉ、ママ…」

(どうしよう、このままじゃ変身できない…)

 下校途中のバスで突然、怪人に襲われてしまいました。

 私が魔法少女に変身して、やっつければいいと考え、私はストラップとなった魔法ステッキを強く握り締めました…でも、

(駄目ラブ! このまま変身して、正体がバレたら、ラブ!)

 私には魔法少女になる力を授けてくれた魔法女王様の誓約やくそくがあった。

 それを破ってしまえば、私の存在はパパやママ、晶子ちゃんに美宇ちゃんといったみんなと会えなくなる。

 だから、変身できない状況に私は苦しんだ。

 けど、そうこうしているうちに怪人が怯える母娘たちに近付いてきた。

 栗鼠の頭と虎の腕、馬の脚、鹿の角を併せ持つ怪人は栗鼠のくりくりとした目で泣いているまだ幼い少女へと睨んだ。

「ひっぐ、ひっぐ、ううう…」

「おいおい、何泣いてんだよ、五月蝿えだろぉ。お前から爪の錆にしてやろうか? あぁん!」

「やめて下さい! どうか、娘だけは娘だけは!」

 必死に懇願する母親を虚しく、怪人は少女に手を伸ばそうとする。

 それを見た私は居ても立ってもいられず、私は立ち上がり、彼女を守ろうと前に向かった。

「彼女には手を出さないで下さい! 人質なら私がなります! だから…」

 言い切ろうとした瞬間、怪人の爪が私の制服を斬り裂き、胸を露わにした。

「きゃあああ!?」

 私はその場で座り込み、胸を隠すのに精一杯だった。

「グハハハァ! 生半可な偽善をやるから、こうなるんだよぉ! いいぜぇ! たっぷり痛ぶって、慰み物にしてやるよぉ! ギャハハハハハァ!」

 ふと、上を見上げれば、可愛いはずの栗鼠の顔で下卑た笑みを見せつける怪人に対して、私は身が震えるほどの恐怖を感じた。

 今まで、魔法少女として敵と戦った時の勇気はなく、これが本当の私の弱さなんだと確信した。

「おい、リストラ馬鹿。」

 私が打ち拉がれた時、男性の声を聞いた。声の方を向けば、前の座席から怪人を後ろから睨む私と同じ制服の男子高校生がいた。

 怪人はその声に気付き、振り返って、睨み返す。

「テメェ、今なんて言った?」

「語呂合わせだろ、栗鼠と虎と馬と鹿で、リストラ馬鹿って、最低な駄洒落を名前に持ってんだな。だから、こんな最低なことをするんだな。」 

 そう啖呵を切ったその人は怪人に殴られ、バス前面の車窓を突き破り、吹っ飛ばされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る