運命デストロイヤル。
「よし、見てくれ」
「ん、」
颯爽と紙上でペンを走らせている。
見てみると、カービィが火を吹いていた。
「ファイアカービィだ」
「……」
「ファイアカービィはちょっと面白かっただろ?」
「……うん」
「オレの勝ちだ」
宗介が勝ち誇っている。
悔しいが、面白かった。
「今ので破壊レベル2くらい。ラブコメディにしてはコメディ色が強くなりすぎているはずだ。これをあと4回ほど繰り返したら、破壊レベル50くらいにはなるかもしれない。また、同時にオレが【親友キャラ】だけでなく【親友おもしろキャラ】としてのポジションも確立されたというわけだ」
「お調子者キャラでいいだろ」
「徹平。斜に構えて、呑気にツッコミなんて入れているが、お前はもっと危機感を持ったほうがいいぞ? お前のラブコメディを──
「……どういう意味だ?」
二個目のおにぎりを完食する。
メガネのフレームを上に押し上げて、彼は笑っている。
「──つまり、
気がつくと、俺は立ち上がって、彼の胸ぐらを掴んでいた。
ふざけるな! そんな展開にしていいわけがない。
そんなことしたら、ジャンルが変わってしまうではないか。
「宗介。いい加減、ふざけるのはやめろよ。ここは俺と雪柳の王道ラブコメディの世界だ……!! そんなことをしたら、ジャンルが変わっちまうだろ!」
「俗にいうNTR(寝取られ)展開。エロ漫画に近くなっちまうな。王道ラブコメディを期待した読者からは反感を買うに違いない」
「俺たちはまだ未成年なんだ……! そんな青年コミックやエロゲーみたいな展開にしていいわけがない……!! えっちな物語じゃねえんだぞ……!! 誰が望んでいるんだ……そんなの!!」
「そう怒るなよ、宗介。喩えばの話だ。オレが本気を出せば、そうやって“物語”に本格介入できるということだ。なぜなら、オレもこの物語の──登場人物なんだからな」
掴んでいた胸を離すと、ぱっぱっと制服を払っていた。
なんだか、急にこいつが悪役みたいに思えてきた。
「“破壊”ってのはそういうことだ。オレが活躍すれば活躍するだけ、お前の影が薄くなり、この物語は【出井 宗介】のモノになっちまうということだ」
「クッ……!! 卑劣な……!!」
「いうほど卑劣か?」
まさかこいつにこんな野心があったなんて……。
相談する相手を間違えたかもしれない。
「どちらかといえばよくある展開だろ。でも安心しろ、宗介。オレはそんなことはしない。雪柳のことをよく知らないし、別にタイプじゃない。お前と争う気はない」
「宗介ぇえ〜っ♪」
「そんなうっとりとした目でみるな。オレとお前のラブコメディになってしまうだろ。それこそジャンル違いだ」
「お前にだったら、抱かれていい」
「お前自身が自分の物語を破壊してどうする……」
よかった。いいやつであった。そうだ、別に宗介は目立ちたがり屋ではあるが、一線は超えない常識的な人間なのである。そんな人が傷つくような真似はしないに決まっている。
……しない、よな?
「いや、待て……。そうやって、物語の終盤あたりで俺を裏切って、実は裏でコソコソと雪柳と親密な仲になってて、どんでん返し作品よろしく『悪いな……米吉』みたいな笑みを浮かべる間男に変貌するみたいな展開にする“伏線”を貼ったわけじゃないだろうな? そういうのもよくある展開だぞ!? 本当にお前を信じていいんだよな!?」
「……大丈夫だって。そもそも、オレ彼女いるし」
そうだ、忘れていた。
宗介はモテるのである。現在も他校の先輩と付き合っているんだった。
「オレのことは安心してくれていい。だけど、敵はオレだけじゃないだろ。もっとデカい敵がいるはずだ」
「ユズル先輩、か……」
「そう。【ハーレム主人公】のユズル先輩。なんならオレよりそっちのほうが断然可能性がある。ヒロインである雪柳がベタ惚れしている時点で、お前はこのNTR(寝取られ展開)を視野に入れるべきだった」
「バカな……。でもこれは王道ラブコメディ世界であって……」
「ーー徹平。お前、“作者”の存在忘れてないか?」
「……作者?」
周りを見渡すが誰もいない。
作者ってなんだ?
「この“物語”の神みたいなもんだよ。お前がこの世界を【雪柳とのラブコメディ世界】だという思想を植え付けたのもヤツの仕業だ。宿命論、世界の因果、運命論……。徹平。お前はこれから作者の都合に振り回されて、感情を追いやられて、“読者”を楽しませるためのコマに徹しなければいけないんだよ。それが物語のセオリーだからだ。故にそれがーーたとえ愚かなバッドエンドを迎えたとしても、お前はそれを受け入れなくちゃならない」
「……お、お前……なにいってんだ?」
どういうことだ? だったら、その“作者”ってのを見つけ出して、コテンパンにやっつければいいのか?
そうしたらこれは俺と雪柳の美しき王道ラブコメディの世界になるんだよな……?
「お前の考えていることはなんとなく想像がつく。だけど、それはちがうぞ徹平。作者を殺すということは《セオリーの離脱》を意味する。『米吉徹平と雪柳愛の王道ラブコメディ』は投げっぱなしになって、本来あるかもしれなかった【雪柳とのハッピーエンド】は世界から消えてなくなってしまう。お前の物語は二度と語られなくなり……お前の存在も、無惨に消えてなくなるだろうよ」
「そんな……」
食堂から次々と人が減ってゆくのがわかった。
昼休みの時間が終わりかけている証拠である。
それを理解したのかーー親友キャラの出井宗介は、静かに立ち上がった。
「徹平、この世界が本当にお前のラブコメディ世界であるなら──大人しく、主人公を真っ当しろ。余計な反感を買って、物語を根幹から“破壊”するな。オレも与えられた役割を遂行する。いいか? これは忠告だ」
声を抑えるためか、俺の耳元に近づいてくる。
メガネがきらりと光る。
「──この、
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