親友コンプレックス。



「よし、できた。とりま、これを見てくれ」

「どれどれ……なにこれ?」

「カービィだ」

「は?」

「カービィを、書きたかった」

「……はぁあ?」

「上手に書けてるだろう?」



 愉快にペンを走らせていると思ったら、絵を描いて遊んでいるだけであった。

 球体のキャラクターが手をあげて「はぁ〜い↑」と笑いかけている。



「一度やってみたかったんだよ。推理ドラマとかでよくある『何か書くもん持ってきてくれ』ってノリを。そしてーーそれを“破壊”したかった」


「ふざけんなお前マジで紙と時間かえせ」


「やだねー。カッコいいだろ?」


「可愛いじゃねえのかよ」



 前言撤回、やっぱこいつは頼りにならない。



「まあ落ち着け。オレがなんの意味もなく、単なる悪ふざけで、この落書きを描いたと思うか?」


「思う」


「……そうだ。オレには考えがあった。ゆえに意図的にこのカービィをいま描いたんだ」


「だから思うって」


「お前の意見は否定したくない」



 すんごい否定されているんだけど。



「オレがいまこの状況を“破壊”したとき、お前はどう思った?」


「すげえムカついた」


「それは何故?」


「大真面目な相談を台無しにして、自身の悪ふざけに俺を付き合わせたから」


「他には? もっとあるだろ」



 腕を組んで「んー」と思考する。



「シュールでわかりづらいボケだったから」


「うん」


「つまらなかったから」


「……うん」


「滑っていたから」


「おk。……もういい」



 宗介は肩を落とした。でも実際、つまらなかったのでしょうがない。



「オレのカービィノリが面白かったか、面白くなかったか、その議論はさておいて。違うだろ、重要なのは『誰がそれをしたか』だ」


「……誰がそれをしたか?」


「お前は一瞬こう考えたはずだ。オレならこの状況を冷静に整理して、的確な助言をくれると」


「ああ、思った」


「それは何故だ?」


「なぜって……」


「オレがお前の【】だからだろ?」


「……あ。」



 二個目のおにぎりを口から溢しそうになる。



「普段からオレたちは至ってこういうノリをしているが、だけどお前は普段以上にキレている。それはカービィノリがこの場に相応しくなかったからってのもそうだが、お前自身が『読者の代弁』をしているからだ。こんなやり取りは知らない人からすれば寒いとしか思えないからな。この世界は徹平のラブコメディなんだろ? だったら、オレはお前の【親友キャラ】であるはずだ。親友キャラなら話を脱線されることなく、的確に主人公のサポートに徹してくれる。きっとそう思ったはずだ」


「……言われてみれば」


「だから“破壊”してやった。確かに協力はするが、見当違いな発言やノリを気分次第ではすることだってある。物語が佳境に差し掛かっているのに、ストーリー序盤のようなボケをして、空気を乱したりもする。だって、オレは何も四六時中お前のことばかり考えているわけじゃないから。オレにはオレの人生があるんだから」


「なるほど……」



 言っていることはなんとなくわかった。

 だけど、少し混乱している。



「お前が親友キャラの枠からはみ出そうとしているのはわかったが、その……“物語”とか“読者”ってのはなんだ?」


「漫画やアニメやドラマや映画などにあるだろ。ストーリー。筋。ここはお前のラブコメディ世界なんだろ? ということは“読者”がいるんだから、オレたちのやり取りはすべて見られているはずだ」


「え、え、え。見られている……? いま?」


「最初からだろうな」



 平然とパックの牛乳を飲んでいる宗介の言葉についつい身震いしてしまう。

 見られている……? どこの誰に……? 俺が?



「そんな周りをキョロキョロしても誰もいないって」


「この食堂にいるのか……?」


「いないって。いるのはオレたちと学校の生徒たちだけ。“読者”はもっと上の存在」


「なにをいってるんだ……。上の存在に見られている? 集団ストーカー……? 政府の陰謀……? 宗介。お前、おかしくなったのか……??」


「おかしいのはお前だよ、徹平。いいから頭の病院に行け。あ、そうだ。一緒にいくか?」



 丁重にお断りしておいた。



「つまり、お前と俺のつまらないさっきのカービィノリもすべて見られていたってことか……」


「つまらなくないから。おもしろいから」


「ーーというか、さっきのカービィノリで物語を“破壊”できたのか? むしろ、単なるギャグシーンだとして流されていると思うんだけど」


「まあ軽い“破壊”だったからな。破壊レベル1くらい。それ以下かも。これが10とか20とか100とかになると話は変わってくる」


「ほう。」



 また宗介がルーズリーフにペンを走らせた。

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