芸能人の娘の逆転劇

夢色ガラス

紹介

お母さんは有名女優。お父さんは人気芸人。

私、内原うちはら花梨かりんは、そんな二人の間に産まれた。


「お母さん今日はね、大事なテレビの収録があるの。お家に帰るのは花梨が寝た後になっちゃうと思うから、ご飯は適当に作って食べてて。ごめんね花梨」

「お父さんも生放送に出るからな、帰るのは遅くなりそうだなぁ。あぁそうだ、8時からテレビでやってるから、視聴率稼いどいてくれよ!ガハハハ!」


機転が利いて演技が上手ってだけじゃなく、性格も顔立ちも良いお母さん。面白くて、ツッコミもボケも出来る万能芸人のお父さん。二人はテレビに引っ張りだこで、最近は寝る間も惜しんで働いている。だから私もひとりでいる時間が増えて、顔を合わすこともなくなってきた。

お母さんとお父さんが私に愛情を注いでいない、なんてことは決してないけれど、私はきっと世間の子供達よりは愛情不足だ。運動会とか、授業参観とか、卒業式とか、私の見せ場はたくさんあったけど、それを見て応援してくれる人はいなかったから。忙しい芸能人は、娘の晴れ舞台に顔を出すことすら、してくれなかったから。


悲しくて怒りたい気持ちはあったけど、それでも私は両親を嫌い、自分を不幸者だと思うことはなかった。小さい頃から負けず嫌いな性格でもあったせいか、単純に自分の気持ちをさらけ出して寂しがるってことがいやだっただけなのかもしれないけれど。


私がお母さんとお父さんに甘えていられたのは、意識がまだない頃だけだったんじゃないかって思う。私が産まれた頃にはもう二人は人気芸能人で、ビッグカップルに子供が産まれたというニュースになったほどだったから。さすがに赤ちゃんの時は世話をしてくれていたけれど、私が小学一年生になった時にはもう鍵っ子で、いつもひとりだった。


上品で美人なお母さんと、下品で汚ならしかったお父さん(テレビではその汚さでウケを取っている。多分お母さんはお父さんの素直な性格と面白い所を好きになったんだと思う。それ以外に良いところってあるかなって感じ…)。その二人の子供の私は、至って平凡な顔になった。お母さんみたいに華やかな美人になったわけでも、お父さんみたいにカリスマ性を感じる顔立ちになったわけでもなかった。


小中学校では、家での楽しかった思い出なんてほとんどないけど、それでも学校生活はそこそこ充実していたように思う。お父さん譲りのサービス精神で、人を笑わせたり喜ばせたりするのが大好きだったから、友達もたくさんいた。学級委員をやってみたり、休み時間にはクラスの男子と漫才をしたこともあった。その度に違うクラスの子達まで来て、私は一躍ヒーローになった。その時はすごく楽しんでネタ作りをしていたのを覚えている。


高校受験は、失敗した。親がいないから家での家事は全て私がしていたから、勉強する時間が全然なかったから。毎日睡眠時間を削って勉強していたら、受験当日は高熱を出してしまった。行きたかった高校は全部落ちて、私立の滑り止めの高校になった。偏差値が高いわけでも低いわけでもない、普通の高校。


両親はものすごい大金を毎月持ち帰ってくるから、授業料に困ることはないけれど、それでもやっぱり行きたくなかった高校3年間生活するのは悔しかった。



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高校2年生になった今、私には親友がいる。野沢のざわ美月みづきだ。私と同じで人を笑わせるのが大好きな、お転婆な女の子。


私の身長は165cmで、美月は149cm。高校生にしては大人っぽい顔つきの私と、小さくて童顔の美月。その二人を、クラスメートは凸凹でこぼこメーカーと呼ぶ。元々美月が「私達、身長が凸凹なムードメーカーコンビだよねっ!」と言ったのがきっかけ。それを長いわ!と私がつっこんで、クラスの男子が凸凹メーカーでよくね?と言ったからそうなった。


美月が第一志望にしていた高校は、私と同じところだった。受験当日に寝坊して、第一志望の試験を受けられなかった、と聞いた時、美月の抜けてる所をかわいいなぁって思った。美月は私と同じ、もしくは私よりも頭が良くて、多分第一希望の高校を受けることができていたら、多分今ここにいなかったんだろうな、と思うことが何度もあった。滑り止めで入ったこの高校で、美月は私と一緒にいつも成績上位だった。


「いつも元気な癖に、凸凹メーカーは寂しそうに見えるんだよなぁ」


誰かが言った言葉が頭から離れないのは、きっと図星だったからだろう。


高校1年生が終わる年、美月が私に打ち明けてくれた、寂しさの秘密。

事故で亡くした父親の代わりに必死になって働く母親とは顔を合わせることがないという美月。お母さんに甘える暇なんてなくて、毎日家事も勉強も両立するのが大変で、身体が、心が、ヘトヘトなんだ、って言ってくれた時、私は泣いた。辛すぎる美月の心の闇に気づいてあげられなかったことも辛かったし、なにより私と同じような悩みを抱えている人がいたことに安心感を覚えたから。


私は自分の心が寂しいと叫んでいることに、その時はじめて気付いた。


私の両親が人気芸能人だってことを知っているのは私の家の隣に住んでいるおばあちゃんと美月だけ(学校の書類では両親の欄に祖父母の名前を書いている)。多分祖父母は私のことを知っているんだろうけど、お母さんとお父さんが忙しすぎるせいで、会ったことは一度もない。


もし人気芸能人の娘の住む場所が分かったとなったら、スクープになっちゃうし、ファンが押し掛けてきちゃうかもしれないから、私の親が誰なのかは、大切な人にしか教えないようにしてる(近所のおばあちゃんはお母さんとお父さんが有名になる前から住んで顔を会わせていたから知ってる)。そう。私は秘密を、私は美月と秘密を、共有してる。




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