26 噛み合わない歯車
すっごく頑張ったのに、伊吹くんは私を見てくれなかった。
なぜ……? 私、そんなに魅力ないの? 可愛くないの? どうして、そんな嫌そうな顔をしてるの……? 本当に分からない。それを聞きたかったけど……、結局聞けないまま伊吹くんと別れた。
私はダメなのかな?
「ねえ、京子ちゃん。私、聞きたいことがあるけどいいかな?」
「うん? 何?」
帰り道、隣で歩いている結菜ちゃんがため息をついた。
「どうして、結城晴人と一緒に遊ぶの? あの人とはもう別れたでしょ?」
「それは……、晴人くんは伊吹くんと仲がいいからね。そして、晴人くんが伊吹くんを誘ってくれないと……今日みたいに映画を観ることもできなかったはずだよ。別れても、一応仲良くしている。仕方がない」
それもあるけど、一応……晴人くんは伊吹くんについて詳しいから他人になるのはまだ早いと思っていた。そして……、伊吹くんの好きな人が怜奈先生って、それを教えてくれたのも晴人くんだし。晴人くんは私が知らない情報をたくさん持っている。
私はそれがほしかった。
もっともっと伊吹くんのことが知りたかったから。
「ふーん。でも、やっぱり変だと思う」
「何が?」
「あの人……。前には伊吹くんに近寄る女の子に強い興味を持っていたけど、今はそう見えないからね。むしろ、本気で京子ちゃんをサポートしてるように見えるから、なんかおかしい」
「うん? どういう意味? 分からない」
「これは転校した友達の話だけど、結論から言うと結城晴人は伊吹くんに好意を持っている女の子たちと付き合ってきたよ。何があったのかは私も分からない。でも、一つ確かなことはほとんどの女の子たちが伊吹くんと結ばれず、なぜか結城と付き合うようになったことだよ。京子ちゃん」
そういえば、晴人くんは私にどう話したっけ。
ふと、昨年のことを思い出す。
初めて伊吹くんと出会った時、彼は教室の隅っこで静かに勉強をするそんなキャラだった。目立たないキャラ、クラスに一人くらい必ずいるそんなキャラね。それに声をかけても「うん」しか言わないから、クラスの中で伊吹くん一人だけ浮いていた。
でも、みんな知ってるのかどうか分からないけど、伊吹くんは一年生の時からけっこうカッコいい人だったよ。
床に落ちた消しゴムを拾ってくれた時、私は一目惚れした。
近い距離で伊吹くんと目が合って、すごくドキドキしていた。
そして、どうしようと悩んでいた時、晴人くんが私に声をかけた。
彼はしょっちゅう伊吹くんと話している友達だったから、あの人なら伊吹くんについてよく知っているかもしれない。私はそう思っていた。これはチャンスだと。
一年生の時に二、三人くらい伊吹くんのことが好きって言った人がいたけど、全部上手くいかなくて私はその理由が知りたかった。すると、晴人くんは「伊吹のやつ、女子恐怖症だからさ。声かけられるとすぐびびってしまうんだよ」って。まさか、女子恐怖症とか、そんなのが本当にあるとは思わなかった。でも、いつも震えている声で「うん」と答えたり、目を避けたりするから、私はその話を信じることにした。
そうやって、いつの間にか晴人くんとだんだん仲良くなって今に至る。
「伊吹くんを好きになった女の子たちがいつの間にか晴人くんと付き合うようになったってこと……。なんか……おかしいね」
「そうだよ。おかしいよね?」
「そういえば……」
「うん?」
「あっ! な、なんでもない」
ふと、怜奈先生に言われたことを思い出す。
確かに「すぐそばにいる人の話を疑ったことありますか? 自分に言ってることがすべて真実だと思いますか?」って言ってたよね? 当時の私はそれがどういう意味なのかよく分からなかったけど……、もし……晴人くんが言ったことが全部嘘だったら……?
晴人くんは私にずっと「待ってみよう」って言ってたし。
それに、私のこと「まだ好きだよ」とか……。分からない。
私が晴人くんと付き合ったのは数ヶ月間伊吹くんに無視されて、ずっとつらかった私を慰めてくれたからだよ。正直、晴人くんには全然興味がなかったけど、いつも相談に乗ってくれたり、話を聞いてくれたりするから……ちょっとだけ興味ができたかもしれない。
あれ、もしかして……?
「それに、やっとあいつと別れたのかと思ったら……。なぜか、映画を観に行くことになって……。伊吹くんならいいけど、あいつまで連れてくるのは……。でも、仕方ないことだよね」
「あはは……。でも、晴人くん意外と積極的にサポートしてくれたから……。プリクラを撮る時も、映画を観る時もね」
「私はそこが気になるんだよ! 結城晴人は絶対あんなことをするような人じゃないのに、どうして急に……」
「そういう結菜ちゃんはどうしてあんなに晴人くんのことを嫌がってるの?」
「あいつのやり方が汚いから……」
「やり方……」
「うん。どう見ても私には伊吹くんを利用してるようにしか見えないから、あの人は嫌いだよ」
「そうなんだ……」
結菜ちゃんの話がどういう意味なのか、少しは分かりそう。
確かに、晴人くんと仲良くなってからしょっちゅう伊吹くんの話をするようになったけど……。学校でほとんどの時間を晴人くんと過ごしていたから、実際伊吹くんと話すチャンスはゼロだった。そして、伊吹くんと仲良くなるために始めたことが、いつの間にか晴人くんと付き合う結末になってしまった。
それは偶然じゃないような気がする。
先生も私にそう言ってたし、どっちの話が正しいのかまだ分からないけど、おかしいところがたくさんあるから……。気になる。
「伊吹くんは純粋な男だけど、あいつはそうじゃない。伊吹くんの前では友達のふりをしているかもしれないよ。まあ、あくまで私の考えだけどね。もし、京子ちゃんが本当に伊吹くんと結ばれたいならあいつとは縁を切った方がいい」
「うん。ありがと、結菜ちゃん」
「じゃあ、また三人で遊ぼうね」
「うん。気をつけて帰って」
「オッケー」
私は……、騙されたのかな。晴人くんに。
それを確認するために電話をかけてみたけど、晴人くんは出なかった。
「…………いつもなら、すぐ出たはずなのに。ふーん」
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