第4話:仲間
「んぅ・・・」
リオンは目をゆっくりと開け、視界に粗い岩肌の天井が映った。暗がりの中で、ぼんやりとした光が揺れている。
頭がまだぼんやりしていて、どこにいるのかがはっきりしなかったが、次第に状況が整理されてきた。どうやら、ここはどこかの洞窟の中らしいと気づく。
身を起こそうとすると、体の痛みがじわじわと広がってきた。魔狼との戦闘で受けた傷が再び蘇るように、全身に強い疲労感と痛みが襲ってくる。それでも、リオンはその痛みに耐えながら、視線を周囲に移動させた。
「やっと目が覚めたのね」
その声が近くから聞こえてきた。リオンが顔を向けると、心配そうな表情を浮かべたコアが立っていた。
コアの目には、リオンを気遣う優しさが感じられたが、どこか不安げな様子も見て取れた。
「・・ここは?」
すると、コアは少し躊躇いながら答えた。
「私の家・・・いや、戦時拠点よ!!」
コアはその言葉を言い終わると、急に言い直した。その様子から、リオンはコアがこの場所が自分の
「家」であることを知られたくないらしいことを感じ取った。
どこかプライドが働いているのだろう。だが、リオンはそれを気にする暇もなかった。今は自分の体調が一番の問題だ。
「ありがとう」
リオンは岩肌に寄りかかりながら、体の痛みを感じつつも、少し安堵の表情を浮かべた。無事に目を覚ませたことだけでも、今はありがたかった。
そして、さらに驚いたことがあった。魔狼に抉られたはずの腕の傷が、治ったかのようにすっかり消えていた。リオンは思わずその腕をじっと見つめ、信じられない思いで触れてみる。すると、あの激しい痛みも、傷の痕さえも全く残っていないことに気づいた。
「これ、どういうことだ・・・?」
リオンは自分の腕を再確認しながら、何が起きたのか全く理解できなかった。戦闘後の疲れや痛みも感じないことに、ただただ驚くばかりだ。その理由がわからないまま、リオンは少し不安な気持ちを抱えつつ、コアに視線を移した。
「コア、これ、どうして?」
コアは当たり前にように言った。
「それは 私の治癒術の成果よ。あの傷は、私が治してあげたの。感謝してよね」
その言葉にリオンは一瞬驚き、そして納得した。
コアが治癒術の使い手だとは知らなかったが、特殊な力を使えるコアなら納得出来る事はある。
本当に感謝してもしきれない。
ふと視線を横に向けると、鍋の中でシチューがぐつぐつと煮込まれているのが見えた。香ばしい香りが漂い、リオンの空腹を刺激する。
だが、鍋の中には見慣れない形や色の野菜が浮かんでいて、それが異世界の食材であることをリオンはすぐに察した。
「食べる?要らないならいいけど」
コアが少し意地悪そうに言った。リオンはここに来てから何も食べていなかったので、腹の虫が鳴るのも当然だ。ちょうどその瞬間、腹の中でジュリっと大きな音が鳴り、無意識のうちに視線がシチューの鍋に釘付けになった。
コアはその反応を見逃さなかったようで、シチューをよそい始める。どうやら最初からリオンに食べさせるつもりで準備していたようだ。
「た、食べます。食べさせてください!」
リオンにとって、断る理由などなかった。未知の食材を使っていることに少し不安はあったが、それよりも圧倒的に空腹が優っていた。三大欲求の一つ、「食欲」に抗うことはできない。
シチューを一口、口に運ぶと、温かさと共に独特な味わいが広がった。少しスパイシーでありながらも、野菜の甘さが感じられ、どこか心地よい深みがある。リオンはその味に驚き、すぐに魅了された。
「美味い!」
思わず声が漏れたその瞬間、コアはニヤリと笑みを浮かべた。自信満々で当然と言わんばかりだ。
「でしょ?私、料理の腕はピカイチなのよ!」
その言葉にを裏付けるようにリオンの手は止まらない。勿論お腹が空いていることもあるが、それを抜きにしてもコアのシチューは別格の美味さだ。
「すごいな、コア。こんなに美味しい料理が作れるなんて」
リオンは素直に感謝の気持ちを言葉にした。それを聞いたコアは、少し得意げに胸を張った。
「もちろんよ。あんまり自分で言いたくないけど、私、料理だけは本当に自信があるの。私に料理は鬼に金棒よ!それでリオンはこれからどうするの?」
リオンは笑顔を返しながら、もう一口シチューを口に運んだ。鬼に金棒という言葉は使い方が合ってるのかは分からないが。
リオンはシチューをかき込みながら、コアの問いに答えるために少し考えた。自分の置かれた状況は予想以上に厳しく、目の前の現実に必死で対応することで精一杯だった。
「正直・・・分かんない。ここがどんな場所かも、何が待ってるのかも」
リオンはシチューを口に運びながら、ぼんやりと遠くを見つめた。スキルは持っているが、戦闘に特化したものではないし、期待していたような無双の力もない。
魔狼との戦闘ですら危うかったことを思い返すと、この先の未来に不安が募るばかりだった。それでも、やらなければならないことがある。
「クラスメイト達も探さなきゃならないし・・・」
そう言って、再びシチューの鍋を見つめるリオン。
来ているか分からないクラスメイト達、しかしリオンは自分だけが特別だとは考えない。リオンが今ここに居るということは可能性としてはあるのだ。
コアは少し考え込み、やがて口を開いた。
「はぁ〜じゃあここにいていいわよ、目標が定まるまでさ」
その言葉にリオンは驚き、思わず食べかけのシチューを口に含んだまま、驚いた顔でコアを見つめた。
「え?・・・いいのか?」
コアは少し面倒くさそうに肩をすくめる。
「まぁ、本当は男泊めるなんて嫌だけどね、ただあんたは悪い人じゃ無さそうだし、転移者でしょ?流石に外に放り投げる訳にもいかないしさ、死なれても困るし。助けた意味なくなるし」
リオンは予想外の言葉に声が詰まった。もし外に放り出されたら、間違いなく生きて帰ることはできなかっただろう。本当に助けて貰ってばかりだ。
「あ、ありがとうございます!!」
リオンの声にコアは無頓着に続けた。
「いいよ、別に。ただ私だって強くないから。ずっと守ってられないからね、いざと言う時は自分の身は自分で守りなさないよ!リオン君は戦闘センスはあるようだし」
その言葉にリオンは頷く。今は守られてばかりだが、それではいけないと感じていた。自分も力をつけ、いつかは誰かを守れるようにならなければならない。
守られるだけではなく、自分自身が強くなり、この異世界で生き抜いていかなければならない。そのためにも、クラスメイト達を探し出す力を身に付ける必要がある。
「ありがとう。これから、頑張るよ」
リオンは誓った。コアが与えてくれたこの一時的な安全を無駄にしないためにも、そして自分のためにも、強くなる決意を固めたのだった。
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