電車

次の信号

電車

とある電車

今日もいつも通り空いている車内

座っていたり立っていたり

各々の時間、各々の世界


わん


と、何処かで犬が吠えて一斉に皆が目を向ける

三人席の隅っこ

女の足元の籠がごそごそと揺れている

ずくずくずくずく


「おいちょっとそこのあんた、この女起こしてくれちびりそうだ」

「大人しく言う事聞いてりゃ直ぐにこれだよ」

「全く何様のつもりなんだ人間は」

「くだらねぇ散歩、フリスビー、はいどうぞ」

「頼むから他にもっとなんか無いのかね」

「痛くて寝れたもんじゃねぇ」


真ん中で寝ていた若い女の二人組が目を覚ます

右から左へビートを繋げるDJ

ずくずくずくずく


「さっきからうるせぇわんちゃんの遠吠え」

「悪戯されたくなかったら大人しく黙っとけ」

「思い出せない吐き気と頭痛」

「気持ち良かった事だけはあそこが覚えてる」

「朧げ、何処へ、走る電車、問答無用」

「諦めて取り敢えずスマホを検索」

「頭はもう既に今晩のおかず」


ずっずくずくずくず、ファッキュー

ずくずくっくずっくずっくず、ファッキュー


ステップを始めた男の子が逆立ちでぴたりと止まって見せる

負けじとぐるぐる回って応酬する友達の女の子

どんつったっつくどんつった

どんつったっつくどんずくずくずく


「お前ら準備しな早急に」

「近づくな回送だ小休止」

「開くドア、右左」

「挟まって困るのはあんただけじゃねぇ要注意」

「要するに分かるだろただじゃ済まねぇ」

「責任取れる自信が無いなら座っとけじっとしときな」


スピーカーから車掌さんが呼びかける

DJはフェーダーを左から右に切り替えて最後のセレクトに頭を揺らす


どんつったっつくどんつった

どんつったっつくどんつった



終わり

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