第二章
第13話 新生活の幕開け
少し時は飛んで、事件から一週間が経過した。
あれから学校は一週間の臨時休校となり、俺はその間に昇給試験を受けようと都市部の冒険者協会に向かったのだが、最近の活躍もあり特例によって無条件でのDランクへの昇格が認められた。
なんでもエクスカリバーと共に戦った様子を誰かが撮影していたらしく、それがSNSでかなりの反響呼んでいたのだ。
協会の人もそれを知っていたらしく、ガーゴイル相手にあれだけ戦えるのなら試験をするまでもない、ということらしい。
どうせならもっと上げてくれよ、とも思ったがそもそも試験もなく昇格できたことが異例のことなので文句は言えない。
今は費用の10万円が浮いたことを嬉しく思っている。
さらに昇格によってもう少し稼げる目処が立ったこと、配信での収入もある程度期待できることもあり、俺たちは引っ越した。
引越しといっても大した距離ではなく、環境をガラリと変えるのは美沙にとっても負担になるので、校区の中での話だ。
ただ前よりも綺麗で広い部屋に住むようになった。
掃除の負担は増えるかも知らないけれど、まあ問題ないだろう、四人で住むことになったのだから。
もちろん四人というのは俺と美沙と翼、それに江莉香だ。
あれから翼に冷めた視線をぶつけられたり文句を言われたりしながらも、江莉香とは正式に契約を結んだ。
一緒に住むことに関しては翼も江莉香も心底嫌そうにはしていたが、それでもどうにか四人で騒がしい生活を送っている。
これで俺は世界で唯一の、それも二人の星剣の所有者となってしまった。
あまりにも上手くいきすぎて、何か大きな落とし穴がないかと不安になるくらいだ。
しかし新生活が始まったばかりで弱気になっていられない。
「凰真くん、もしかして緊張してる?」
「いや、大丈夫。それじゃあ行くか」
ここまで色々と近況を話してきたが、最後に一つ。
一週間の休みも明け、俺は──
「初めまして、本日からお世話になる雨宮凰真です。どうぞよろしくお願いします」
高校を転校した。
「同じく楠葉江莉香です、よろしくお願いします!」
楠葉さんと一緒に。
転校することになった理由は二つ。
一つは江莉香の正体がクラスメイトにバレてしまったからだ。
幸いにも動画には残っていないため全世界に知れ渡ったわけではないが、あの場にいたみんなは江莉香の姿が変わるところを目撃している。
ただでさえ星剣の争奪戦が加速している中、正体が知れたままでは深刻な事態になりかねない、ということで転校を余儀なくされた。
こちらの方でもあの戦いで星剣を目撃した、という噂は流れているらしいが、証拠もないのでデマとして片付けられているのが現状だ。
そして俺もまた、あの一件でまともな学校生活は送れなくなるだろうと判断した。
夏目秀太との一悶着で距離を置かれつつあったというのに、自分で言うのも恥ずかしいがヒーローのような活躍をしてしまったのだから無理もない。
そこでせっかくだから、と二人揃って少し離れた地域の高校に転校したのだ。
通学時間がかかるようになったのは少し不便な点ではあるが、稼ぎの目処が立ったこともあって前ほどスケジュールがカツカツでもないので、心機一転今日から頑張っていこうと思う。
「凰真さん!」
「ん?……み、澪葉⁉︎」
そんな矢先のことだった。
俺の新しいクラスにはかつてダンジョンで助けた少女、
彼女は俺に気づくや否やこちらに駆け寄ると、両手で俺の手を取りながら言った。
「先日は本当にお世話になりました。まさかまたお会いできるとは思っておりませんでした、本当に嬉しいです!これからよろしくお願いします!」
なんとも親切丁寧な態度だ、すごく育ちの良い子なのだろうか。
彼女がいてくれるのは心強い、これならすぐに馴染めそう……ではないな。
この感じ、さては人気者だな?
明らかにクラスの男子から突き刺すような視線を浴びせられているのを感じる。
「凰真くん、どういうこと?」
ついでに隣の江莉香からも冷めた視線を向けられている。
俺の新たな学校生活も前途多難になりそうだ。
それでも楽しくやっていけるだろう、なぜかそんな自信もあった。
こうして期待と希望に満ちた俺の新生活は幕を開けた。
この時の俺はまだ、これからさらに激動の生活が始まることになるなど、夢にも思わなかったのであった。
「雨宮凰真……現代において唯一の、二振りの星剣の所有者。要観察ね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます